<原著論文>
和文タイトル
平成28年(2016年)熊本地震の自治体対応からみる食料供給時系列検証
English Title
The validation of the food supply in chronological order by local governments countermeasure at Kumamoto Earthquake 2016
青山 貴洋 ¹
Takahiro AOYAMA
¹ 法政大学大学院 公共政策研究科
HOSEI UNIVERSITY Graduate School of Public Policy and Social Governance
要約
本稿は、食料不足が発生したとされる2016年熊本地震の自治体による食料供給状況を明らかにし、課題抽出することにより新たな対策の知見となることを目指すものである。
2016年4月の熊本地震は最大震度7の前震と本震の連続発生により被害が拡大した。このとき、14日前震後の避難者に対する食料は、公助となる現物で備蓄された食料(現物備蓄)と流通在庫による備蓄食料(流通備蓄)で持ちこたえたが、16日の本震被害で食料不足が生じた。本震後、熊本県管理の現物備蓄食料は底をつき、流通備蓄食料はほぼ1日機能しなかった。これらにより政府はプッシュ型支援を実施し、各避難地域へ食料等を直接搬送することとなる。その他支援もあり、18日には各地へ集積され、21日には概ね食料不足が解消された。
この検証により、熊本県及び熊本市の備蓄食料及び災害時物流状況による食料不足の実態と解消に向けた過程、また、最低3日分必要とされる現物備蓄食料の有効性、そして、流通備蓄食料の脆弱性について確認立証することができた。また、新たな取組として、東日本大震災以降開始された政府の精米(無洗米)による備蓄米が初めて供出され、その運用を確認した。今後の課題は、自助・共助・公助の相互補完に基づき役割分担を明確にし、特に個人の防災意識を高め、あらゆる支援等の可能性を加味した地域防災計画等の早期見直しをする必要性が強調された。
キーワード:
2016年熊本地震、食料不足、3日間の食料備蓄、プッシュ型支援、政府備蓄米
Summary
This report clarifies the provand situation by the local governments of the Kumamoto earthquake in 2016 said that lack of food occurred and aims at it being with the knowledge of the measures that are new by extracting a problem.
The damage of the Kumamoto earthquake in April 2016 was escalated by the consecutive outbreak of a foreshock and the main shock. The food of the refugee held out with the stockpiling food and the written agreements food by the foreshock, but refugees increased by a main shock and then lacked the food. After a main shock, the stockpiling food of Kumamoto Prefecture bottomed out, and the written agreements food didn’t affect by earthquake damage. The government sent food and goods to each refuge area directly by these situations. There was the support from others, and food was accumulated on April 18 to each damaged municipalities in Kumamoto. After all, the food shortage was resolved on April 21.
This report inspection was proved and extracted the problems, that the effectiveness of the necessary food reserves at least three days, instability of the written agreements reserved food, necessity of the preparation of stockpiling food by the municipalities. And, the Government delivered wash-free rice in the Government reserved after East Japan great earthquake disaster for the first time.
Keywords: Kumamoto earthquake 2016, The food shortage, Necessity of the food reserves at the 3days, Push type support by the Government, Government reserved rice
責任著者:青山貴洋
E-mail: kaoba_taka@ybb.ne.jp
1.研究の目的と意義
2016年4月に発生した地震は、熊本県全域に被害をもたらす広域大型震災となった。発災当時、各メディアからは一部地域での食料不足も報じられた。折しも東日本大震災発生より5年経過した直後であり、その際に経験した局地的・短期的な食料不足対策含め、災害に対する備えの必要性を、政府や各自治体はじめ、多くの国民が再確認した矢先の出来事である。
政府や自治体では、災害対策の一環として緊急時災害グッズの準備を推奨し ¹⁾ ²⁾ 、この中に食料と水の携帯も含まれる。農林水産省では「最低でも3日分、出来れば1週間分程度の家庭での食料品の備蓄に取り組むことが望まれます。」と「最低3日分の備蓄食料品」の必要性を強調している ²⁾ 。また、東京都では「少なくとも1週間は、誰にも頼らず暮らせるように備えることが「備蓄」です。」と、1週間分の食料等を準備することが災害備蓄の定義とし必要性を訴えている ¹⁾ 。
この備蓄の必要性は、大型自然災害が発生したとき、各種インフラの損壊等によって引きおこる物流機能麻痺等による食料供給の停滞、さらに、電気・水道・ガスのライフライン被害によって生ずる調理不能な事態等が想定され、行政から住民に対し投げかけられている。従って、ここでいう備蓄とは、個人あるいはその所属する家庭において準備される「家庭備蓄」を指し、自助の役割を担う。その他にも食料備蓄には、現物の食料を準備する「現物備蓄」と、有事の際に必要な食料を届ける契約を交わし流通在庫を備蓄する「流通備蓄」がある。いずれも行政が準備するため公助の役割を担う(なお、備蓄形態の呼称は行政間でも統一呼称がないため、本稿では「家庭備蓄」「現物備蓄」「流通備蓄」3種の備蓄呼称に統一することとする)。この中で災害の初期段階に有効となるのは、実際に食料を確保する家庭備蓄と現物備蓄である。災害時の初期段階では、物流機能不全により流通備蓄が機能しない可能性が高いためである ³⁾ 。
では、仮に3日分の食料を準備しておけば、すぐに物流機能が改善され元の生活が取り戻せるのかといえばそうではない。災害の被害程度と地域により異なるからだ。近年起きた大型震災による食料供給の停滞期間は、長いところで3週間程度続いた ⁴⁾ 。この間に他地域や自衛隊、ボランティア等の食料供給支援活動等により当該地域住民は命をつなぐことができた。このように、災害時の食料供給状況は被害や状況によって変化するが、災害時の食料供給における時系列概念は不足がちだといわれている ⁵⁾ 。さらにこれらの先行研究は別府 ⁶⁾、奥田 ⁷⁾ 等、数少ない中で提案され個別に存在しているため、青山(2016)によって表1のようにまとめられた。表1の現物備蓄が必要となる第1期の大混乱期をみれば、平成27年9月関東・東北豪雨を例としたレベル1で発災翌日に第2期の混乱期へ移行する場合もあれば、東日本大震災を例としたレベル3で約1週間程度を要し第2期へ移行することもある。
では、報道により食料不足が生じたとされる2016年4月に起きた熊本県の震災では、どの程度の期間食料供給停滞が続いたのか。また「最低3日間、出来れば1週間」とされる備蓄食料の期間は有効であったのか。さらに、報道された食料不足はどのように起こり、どのように解消されたのか、そして、どのくらいの不足が生じたのか。これを、災害時に対策本部を設置し緊急時対応を担う自治体の対応から検証しているものはなく、先行研究との比較による論証は学術的に意義がある。よって研究継続にかかわる実証として本稿を執筆する。
なお、本稿では、食料供給が不安定で、備蓄食料が必要となる表1内の第1期及び第2期について論究することとし、震災により最も被害を受けた熊本県の食料供給実態を、広域支援を実施する熊本県と、県内で最も避難者数の多かった熊本市それぞれの災害対策本部会議資料を基軸に検証する。
2.熊本地震の概況と被害レベル
2.1. 熊本地震の特徴
2016年4月14日21時26分、熊本県熊本地方でマグニチュード6.5、最大震度7を記録する地震が発生した。気象庁は翌15日に「平成28年(2016年)熊本地震」(以下、熊本地震とする)と命名し「本震」とされた。しかし、4月16日1時25分、またも熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.3、最大震度7(当初6強)の地震が発生する。気象庁は16日早朝の地震を「本震」、14日夜の地震を「前震」へと改めることとなった。
この震度7を記録した「前震」と「本震」とが連続で発生したことにより、広範な被害をもたらしたことが大きな特徴となる。また、前震のあった4月14日から6月12日までの約2か月間に震度1以上を観測した地震回数合計は1,723回に達した。この回数は、平成7年(1995年)兵庫県南部地震(通称:阪神淡路大震災、以下通称で示す)の2倍以上とされた平成16年(2004年)新潟県中越地震を上回ることとなった ⁸⁾ 。余震回数が多かったことも熊本地震の特徴といえよう。
2.2. 避難者数の推移
図1は熊本地震による熊本県内の避難者数推移を表したグラフである。これによれば、前震後の15日05:00に44,449人が避難し、同日11:00、15:00と時間とともに避難者数が減少する。しかし、本震後急増し17日09:30に183,882人とピークを迎える。その後徐々に減少し18日13:30には一時10万人を下回るが、19日09:00には116,861人と2回目のピークを迎え、朝に山を、昼に谷を描きながら27日13:30には36,866人まで減少する。
県内で最も人口の多い熊本市の避難者数をみると、前震時(表内15日05:00)は25,304人で、その他市町村避難者総数19,145人との割合は57%対43%となる。ピーク時の17日09:30と比較しても熊本市内で108,266人(全体の59%)、その他市町村避難者総数75,616人(全体の41%)とさらに差は開き、熊本市内住民への被害の大きさがわかる。
2.3. ライフラインの復旧状況推移
災害等によるライフラインへの打撃は調理に影響し、食事内容の幅に変化を及ぼす。熊本地震ではライフラインの被害、及びその復旧状況はどのように推移したのか。これについて、岐阜大学工学部社会基盤工学科の能島暢呂教授が「平成28年(2016年)熊本地震におけるライフライン復旧概況(時系列編)(Ver.1:2016年5月2日まで)」に詳しくまとめている。
能島(2016)によれば、電力について「前震による最大停電戸数は1.67万戸(4月14日22時現在)であり、本震による最大停電戸数は4月16日2時現在47.66万戸」としている。電力復旧過程は「これまでの震災同様、上水道・都市ガスと比較すると応急復旧は早い」、「特に熊本市および震源断層から距離のある市町村では応急復旧は早く、4月17日23時現在での停電戸数は8市町村の3.84万戸となった」として、結果、電力は本震より2日間で90%・3日間で95%・5日間で100%復旧したとしている。九州電力によれば「4月20日(水)19時10分、がけ崩れや道路の損壊等により復旧が困難な箇所を除いて、高圧配電線への送電が完了」と、4月20日にほぼ復旧完了した旨の発表をしている ⁹⁾ 。
また水の供給について「熊本県内で判明している最大断水戸数は、前震で6.95 万戸、本震で39.7 万戸である」とまとめている ¹⁰⁾ 。水道復旧過程は、被害の大きかった熊本市が4月26日、益城町が5月12日、御船町が5月23日、西原村が5月25日、阿蘇市が5月8日にそれぞれ復旧され、7月14日09:00現在で、家屋等損壊地域(約 650 戸)と南阿蘇村の2戸断水以外すべての地域で水が供給されている ¹¹⁾ 。能島(2016)は、本震より8日間で90%・10日間で95%が復旧し、100%は適応外を示すNA(not applicable)であるものの、95%までは比較的早期復旧されたとしている。
都市ガス供給は「前震による都市ガス供給停止戸数は1,123 戸であったが、4 月15 日20:00 の時点で645 戸が開栓完了(進捗率57.4%)した」また「本震による供給停止戸数は約100,884 戸であった。」とまとめている。都市ガス復旧過程は「4 月20 日には作業不可能な2,000 件を除いて閉栓作業を完了し、4 月30 日13 時40 分に復旧作業を完了した」と、本震より13日間で90%・14日間で95%・15日間で100%復旧したとまとめる ¹⁰⁾ 。
2.4. 熊本地震の被害レベル検証
「1.研究の目的と意義」で示した表1により前述の被害状況を検証すれば、熊本地震は「都道府県のうち、いずれかの全域に近い被害が及んだ災害等」にあてはまり、被害レベル2に該当する ³⁾ 。本稿2.3のライフライン復旧状況に照らし「〇△×」(〇完全復旧・△一部復旧・×復旧していない)で記せば、熊本地震の電力復旧は2日間(90%)と3日間(95%)のためこの時点で電気△、7日間(100%)では完全復旧のため電気〇となる。表1の被害レベル2で最長の7日間が該当するのは第2期であり、表1「ライフライン」の電気記号は△を示す。よって、第2期に7日間以内で100%復旧達成の「電気○」となることから表1の基準からは早期回復されたといえる。
水道復旧は8日間で90%、10日間で95%の復旧が達成した。100%復旧は適応外(NA)で南阿蘇村2戸の断水は継続しているものの、被害の大きかった熊本市・益城町・御船町・西原村・阿蘇市は4月26日から5月8日までに全域復旧されている。よって、第2期「水道△」、第3期「水道○」(ただし南阿蘇村2戸除く)とする。
ガス(都市ガス)復旧は13日間で90%、14日間で95%、15日目とされる4月30日で100%の復旧を達成しており、第3期(表1ではガス△)にすべて収束している。
従って復旧度合で表1と対比した場合、レベル2の事例に想定された阪神淡路大震災のときより、熊本地震は電気とガスの復旧が比較的早かったといえる。
3.前震後(本震前)の熊本県内食料供給状況
確認したとおり、熊本地震の大きな特徴は前震後に本震が発生し被害拡大したことである。これにより食料供給状況は変化した。本項では、このときの食料供給状況を表1と照らし時系列で確認していく。なお、表記に「食糧」と「食料」の区別がある。本来一般的に「食糧」は穀類を指し、「食料」は食べ物全般を指すときに使用するが、本稿では、確認する各機関報告書等の表記を尊重し、使用されている語をあてている。それ以外は一般概念に従い該当する語を使用する。また、食料や飲料水の数量を表す単位も各機関報告書等の表記を尊重するため、本稿内で統一されていない箇所がある。
3.1. 熊本県内の現物備蓄食料
震災初動期に必要な備蓄食料数を確認すると、4月14日前震前の熊本県内備蓄食料数は、県の備蓄数量が22,528食(アルファ米2,500食・保存用パン2,928食・乾パン17,100食)と、市町村の備蓄総数(主食)が805,766食(乾パン117,836食〔16団体計〕・インスタント麺類323食〔2団体計〕・米 659,407食分〔14団体計〕・主食缶詰28,200缶〔10団体計〕で合計828,294食になる ³⁾ 。この市町村備蓄総数のうち、避難者数の最も多かった熊本市の備蓄食料は、アルファ米104,550食(個食・アレルギー対応食・おかゆ含む)・缶詰パン11,520缶・乾パン89,608食・カロリーメイト13,500食の合計219,178食である ¹²⁾ 。
3.2. 備蓄食料の配分と運搬
避難所に備蓄食料があるとは限らない。従って、食料が保管されている倉庫から避難所までどう運搬するかが問題となる。熊本県災害対策本部(以下、県対策本部)では、前震発災後の4月15日03:00に第2回会議を開催し、熊本県内各市町村別の避難所数と避難者数を表2のとおり把握している。これによれば、必要備蓄欄に食糧と飲料水の量が記される市町村は美里町、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、菊池市、大津町、小国町、高森町、南阿蘇村、氷川町の11市町村である。これらの市町村には「食料が備蓄されていなかった」、あるいは「備蓄されていたが避難者数に対し食料は不足していた」ことになる。ちなみに、11市町村のうち、2016年6月6日現在で各市町村地域防災計画等にて備蓄品目・数量を確認できる市町村はなかった。(このうち、地域防災計画上「備蓄する」または「備蓄に努める」旨記載がある市町村は菊池市と南阿蘇村であり実際は保有する可能性もある。)
必要食糧欄に食糧と飲料水の量が記されていない熊本市には219,178食の備蓄食料がある。熊本市の災害対策本部(以下、熊本市対策本部)第2回災害対策本部会議資料によれば、「本部長の指示等」に「県は、熊本市以外の物資を担当するとのこと」とある ¹³⁾ 。ここに「県は備蓄食料のない他の市町村へ物資輸送を担当する」といった意味合いが読み取れる。このとき、熊本市の避難者数は6,381人であったため、熊本市内住民へ一人当たり約34.3食分提供できる計算になる。同資料内「水と食料を中心に物資は足りている状況である」の記述からも、熊本市は対応可能であったことがうかがえる。
県対策本部で対応する6,630食は、熊本県が持つ現物備蓄22,528食あり、一人当たり換算すると約3.4食分に相当する。あとはどのように配送するかである。しかし、4月15日05:00の避難者数は02:00時点から約2倍の44,449人へと増加する。このうち熊本市の避難者数は25,304人で、県対策本部が受け持つ11市町村の合計は8,291人となった。
熊本市は中央・東・西・北・南の各区連携により食料不足地域があれば他区から移送する試みがとられている。15日朝の状況をみると、中央区「5,300名分の(食事の)要望があったが、4割2,715名分しか食事提供できていない。北区から在庫もらう。」、東区「アルファ米OK」、西区「「避難所、物資職員ともに足りている。」、北区「今のところ問題ない」、南区「物資は届いているが、受け取られず帰る場合が多い」といった対応がみられる ¹³⁾ 。
県対策本部では県内広域支援のため物資の配送を考えなければならない。熊本県の備蓄物資は、県庁と各地域振興局(宇城・玉名市・鹿本・菊地・阿蘇・上益城・八代・芦北・球磨〔人吉市〕・天草の10局)の計11の倉庫等に保管され、これらを各地域へと配送する ¹⁴⁾ 。表3は実際の県対策本部による救援物資配送表から食料品のみ抜粋した表である。これにより県担当の11市町村配送先が表2から変わる様子と、物資の少ない状況がわかる。県対策本部管理の現物備蓄は、水5,424(本:2ℓ)・アルファ米7,150(食)・パン7,824(缶)で、乾パンの在庫は示されていない(括弧内単位は明記がないため推測単位となる。なお本稿3.1で確認した熊本県備蓄数量は平成27年3月末現在の備蓄在庫数量で、表3の在庫量とは合わないことに注意)。激震地となった益城町への対応を抜粋すると、水600本の他、上益城地域振興局(上益城備蓄)から水500本・アルファ米1,000食・乾パン200食と、グランメッセへ水204本・パン312缶の食料合計1,512食・水合計1,304本が配送されている(グランメッセの所在地は益城町だが事業主体は熊本県のため別管理したと考えられる)。しかし、益城町の避難者数は2,390人でありすでに不足している。表3の県対策本部備蓄残数をみれば、アルファ米224食とパン7,512缶のみで、水は0と手持の少なさがわかる。
15日11:00になると、追加で益城町の日赤へパン1,200缶、グランメッセへパン480缶と合計1,680食分が追加された。これによって益城町避難者に行き渡らなかった食料878人分は午前中に確保されたことになる。ただし、水は1,086人分不足している。その後県庁のパンは市内高校や病院等へ配送され、17:00報告も含めると残量5,208缶へと減少した ¹⁵⁾ 。
熊本市対策本部第4回会議でも物資の要望が刻一刻と変わる様子がわかる。08:00時点で食料が不足していた中央区は毛布・トイレットペーパー・緩衝材と日用品等へ要望が変わり、対して食料が足りていた東区・南区では水・食料が要望された。西区ではお茶の要望により「ほっとしたい」という気持の変化となる第2期へ移行したことが読み取れる(「ほっとしたい気持ち」については青山 ³⁾ 、新潟大学地域連携フードサイエンスセンター,奥田他 ⁶⁾ 参照)。そして本報告より支援物資の報告が増えていく。
3.3. 流通備蓄と支援物資等の状況
流通備蓄とは、食品や飲料水を購入・備蓄せず、有事の際に必要品目及び必要数を届けるといった契約を書面で行う方法である。実際に食料が必要となり、取引が生じた場合に契約に基づき精算されるため、自治体にとって保存面と経済面で利点となる ³⁾ 。
ただし、被害レベルによっては道路破損等による交通麻痺や、協定先も被害を受けている可能性が高いため契約履行しにくいなどの意見もある ¹⁶⁾ 。よって、第1期から第2期にかけての流通備蓄契約履行状況も検証していく。なお、同時進行で支援物資の受け入れも行っているため併せて項内で触れていく。
3.3.1. 県対策本部の流通備蓄と支援物資
県対策本部会議資料で流通備蓄や支援物資について記述があるのは第3回災害対策本部会議資料からで、「ローソンとの協定に基づき、物資(有償)の避難場所への運搬手配を開始した。」とあり、飲料水1,000本・カップ麺1,000個が15日6時に手配された。また、「ファミリーマートとの協定に基づき、物資(有償)を避難場所へ運搬する予定」として、おにぎり500個・飲料水(500ml)500本を益城町役場へ配送される予定となった。その他にイズミとイオン九州も協定により運搬予定とある ¹⁵⁾ 。なお、これらはすべて「協定に基づき有償」とあるため「流通備蓄」となり、この時点で機能していたことになる。
15日13:00になると、運搬予定であったファミリーマートのおにぎり・水はグランメッセへ変更となり「引き渡し済」とされ、加えて昼食のおにぎり・お茶等700人分を大津町・菊陽町・合志市へ運搬予定となった。また、新たに熊本県パン協同組合(パン3,000個:有償)が宇城市・山都町へ、鶴屋百貨店(水1,817本:有償)が益城町へ届けられることとなり、さらにホンダからクラッカー5,000食が無償提供され、宇城市・山都町へ3,500食、嘉島町・御船町・甲佐町へ1,500食がそれぞれ運搬予定となった ¹⁵⁾ 。
15日17:00では、昼食にイズミからおにぎり・茶等3,000食が益城町へ「引き渡し済み」となった。さらに、企業提供物資の水が66,000本増加し残数0であった飲料水も少し余裕ができた ¹⁵⁾ 。
3.3.2. 熊本市対策本部の流通備蓄と支援物資
熊本市対策本部では、流通備蓄の活用に加え、支援物資急増に備える様子がみられる。第2回対策本部会議資料では「救援物資が届くと想定されるが、KKウィングのピロティに、物資の集積場を設ける。4月15日9時から受付開始。9時前は市役所にて対応。」(原文ママ)と、物資受け入れ体制を検討している(KKウィングは「うまかなよかなスタジアム」の旧愛称。以下原文以外は正式名称で記載) ¹³⁾ 。
そして熊本市災害対策本部第3回会議資料に「6:40、昼食のおにぎりとお茶・水を避難者2万人(小中学校はパン)に手配調査中」と、「おにぎり」と「パン」の記述があることから熊本市内でも流通備蓄の活躍がわかる。さらに、それぞれの記述は箇条書きでありながら、集積・仕分・配送・到着確認までを見据えた対応を検討している。これは、熊本市対策本部の第4回会議、及び、第5回会議でもみられ、各区へ配送完了した物資の状況が報告されている。これを表4にまとめているので確認すると、昼食時避難者数に対し飲料が不足する地域はあるものの、夕食時は避難者数に対し増量配給されており、安定供給されているといえる。さらに、これらもおにぎりとパンであるため、流通備蓄が機能していることと、各地域の状況が把握されていることがわかる。
3.4. 自衛隊の生活支援活動
県対策本部は前震直後の措置として、14日22:40に自衛隊へ災害派遣要請をしている ¹⁵⁾ 。自衛隊は熊本県知事からの要請を受けたのち、人命救助以外に生活支援として約120名を投入し、益城町役場で炊事・給水支援を実施している ¹⁷⁾ 。自衛隊の炊事活動は炊飯車両等により調理された食事が提供された。避難所での温かい食事は何よりご馳走になる ⁶⁾ 。自衛隊活動によって益城町住民の食料と飲料水の不足が多少回避できたといえる。
3.5. 前震対応の総括
4月14日前震後における対応を全体的にみれば、それぞれ適切かつ迅速な対応であった。特に熊本市対策本部は食料供給に余裕があるようにみえる。しかし、広域支援を担う県対策本部は備蓄食料に不足が生じた。ただし、このときは流通備蓄が比較的早く機能し、さらに、熊本市においては支援物資も早急に届いた。また、熊本県からの要請を受けた自衛隊等の対応が迅速であった。これらによって、一部地域を除けば、第2期へ移行した地域は多く存在する(表1参照)。
4.本震後の熊本県内食料供給状況
4月16日01:25に発災した本震によって熊本県内は大混乱を極める。前震以降避難者数が減少してきたところへ、16日07:00の段階で熊本市34,865人はじめ、各市町村で1,000人を超える避難者が続出し、68,911人が避難することとなった(図1参照)。各市町村でも連絡の取れない地域が7市町村あり、被害状況確認と人命救助が最優先されることとなる。つまり、第2期から第1期へ逆戻りすることとなった。
確認してきたとおり、県対策本部には備蓄食料がほとんど残っていない。本来であれば食料供給とともに、食料確保の状況が加わるべきはずが、県対策本部の報告では現物備蓄食料の報告がなくなり、流通備蓄報告もまばらとなる。代わって県の管理する避難所の食料状況が示されるようになる。よって、本項では、表1の時系列概念を念頭に、県対策本部及び熊本市対策本部の食料確保と供給状況に加え、避難所対応も含め検証していく。
4.1. 熊本県立高校避難所の食料供給状況からみる時系列体系と分析期間
表5は4月16日14:30から25日10:00までの県が管理する避難所の食料及び飲料水供給状況を一覧にまとめたものである。学校名欄に記載されるのは県立高校と県立支援学校の略称で、日時欄下には「食糧」「水」の欄があり、○は「ほぼ足りている」、△は「多少あるものの不足している」、×は「全く足りていない」ことを示している。
これによれば、16日14:30から18日08:09までに食糧欄が×の学校は5校以上(表中割愛した阿蘇中央含める)あるが、18日14:00では3校へと減少し、19日09:30には熊本支援学校の1校となり、19日14:00には0(ゼロ)となる。さらに、20日10:00まで△と○が混在するが、21日10:00以降はすべての学校で食料・水ともに○のみへと推移する。
食料供給状況とライフライン復旧状況の関係を表1と照らせば、電気の回復は4月20日に「○」となる。これを基準として水道をみると、避難者の最も多かった熊本市が4月26日に復旧され、20日時点では「△」となる。さらに、ガスは4月30日に100%の回復をしていることから、20日時点では「△」となる。これらから、21日以降に第3期(復旧期)へ移行したとみてよいであろう。従って、本項における分析期間は4月16日から22日までとし状況を検証していく。
4.2. 熊本県災害対策本部の対応〔4月16日(土)〜4月22日(金)〕
表6は、県対策本部が第6回から第16回までの間に報告した食料及び飲料の確保状況をまとめた表である。会議資料には「届く予定」とするものもあるが、結果的に届いたか否かの掲載がないため、ここにはあくまで食料確保状況をどのように把握しているかを確認する意味で、確保した食料・飲料のみ掲載した。
表6で16日に確保された食料は、ローソンから支援のオレンジとバナナ、そしてイズミから流通備蓄の飲料・パン・おにぎりだけで、その数量は「不明」である。その他の協定機関では、連絡がつかない、あるいは製造ライン休みや対応の可否を確認する企業、さらに、確保できるものの「東京から移送」や「積込人員が未確保」で到着が遅れる等、やはり流通備蓄には脆弱性のあることが確認できる ¹⁵⁾ 。
これが17日になると、イズミ・ローソン・サントリーフーズ・西友・ディアライズグループより食料及び飲料が到着済、あるいは搬入済となる。また、予定のため表6には掲載されないが、イオン九州より飲料水(500ml)100,000本、サントリーフーズより飲料水(500ml)112,000本が運搬中で17日到着予定となっている ¹⁵⁾ 。つまり、流通備蓄が再度機能しはじめたことになる。しかし、その数量は食料品だけでみれば29,040食と、避難者数183,882人(17日09:30時点)に遠く及ばない。
そして、18日に製造ラインが休みであったパン協同組合からのパン14,000個が確保される。この後、県対策本部による流通備蓄の確保報告は姿を消す。その他企業等からの食料・飲料の提供申し出はあるようだが、「随時避難所に提供中」として物品名・数量等の管理のない状態が見受けられる ¹⁵⁾ 。代わって、19日以降22日までJAグループ等からの支援報告や、農林水産省の備蓄米供出が報告されるも、その他の食料確保状況について示されることはない。
4.2.2. 政府備蓄米の供出
表6によれば、20日に農林水産省からの備蓄米90tが確認できる。これは、平成24年から備蓄されてきた「精米備蓄」による初の供出事例となる。東日本大震災以前、政府による備蓄米は玄米のみであった。しかし、被災地から応急食料として精米の供給要請があり、首都圏において一時的に米の品薄状態が発生したことにより、平成24年度から常時500tの精米(無洗米)を備蓄することとされた。熊本地震では、90tのうち約86tが精米で残りの約4tは玄米での供出であった。供出先は南阿蘇村へ9tと熊本市へ81tであり、双方とも自治体からの供給要請によるものとされている ¹⁸⁾ ¹⁹⁾ 。
これまで精米備蓄されてこなかった要因は保存性にあるが、その中に「食味の低下」も存在する。しかし、農林水産省が委託した理化学分析及び食味評価による食味等分析試験の結果、「低温倉庫(15℃以下)で保管した場合、14ヶ月経過後の精米でも、食味は大幅には低下しない。」との評価が得られ、現在約1年間保管したのち非主食用として販売されるスケジュールが組まれている。熊本地震で活用された86tの精米備蓄は積戻しされ、現在500tが備蓄されている。500tの根拠は東日本大震災発生から4月20日までの被災地向け精米供給量相当とされ、今後も災害時等への貢献に期待を持てる ¹⁸⁾ ²⁰⁾ 。
4.3. 熊本市災害対策本部の対応〔4月16日(土)〜4月22日(金)〕
4.3.1. 第1期から第2期への移行期
県対策本部は熊本市以外の対応を担当することとなり、熊本市対策本部はその多くを自力で対応せざるを得なくなる(本稿3.2参照)。
16日、熊本市対策本部第7回会議資料によると、うまかなよかなスタジアムの支援物資は、12:00の時点でパン8,000個・コーヒー240本・キットカット1,500個・カップ麺1,200個・ちゃんぽん840個(形状は不明)であった ¹³⁾ 。キットカット1箱を含んでも合計11,540食分であり、熊本市避難者数50,244人(16日14:30現在)には及ばない。各区役所からの報告でも「各避難所での支給が大変不足しており、中には朝から食事をとれていない高齢者もいる。」(西区)や、「食料、昼食届かず」(北区)等、食料不足が鮮明である。不足の中に教育委員会から学校給食を活用した報告がある。植木共同調理場(北区)が炊飯可能であり、北区内の避難所へおにぎり7,200個(3,600人分)を提供したという ¹³⁾ 。これは第1期で米を利用する可能性を秘めた貴重な記述となる。
17日06:00現在の報告では、救援物資残数がバナナ650箱(約15万本強)、即席めん5,400個、アルファ米ほか6,500食、キットカット50,328個、フレグラ(10袋×60箱)600食(おそらくシリアルのフルグラ)となった。バナナやキットカットを含むので1食分とするのは難しいが、仮にバナナ(1本あたり約84kcal)は3本、キットカットは1箱(ネスレ,キットカットミニ 3枚入り,1枚は64kcal)を1人分とすれば、計112,828人分食料を確保している計算となる。加えて教育委員会では、植木共同調理場に加え飽田西小学校(南区,3,000人分対応可能)でも炊飯可能となり、合計6,600人分の食事調理が可能となった。これらにより、実数として市の食料確保数が増加しているといえる。しかし、各区の避難所報告では、「避難者の増加と物資が行き届いていないことからトラブルが増加している」(中央区)等、各避難所で食料供給が間に合っていない ¹³⁾ 。この問題には人的不足と運搬車両不足以外にも、道路の損壊やガソリン等給油所の混雑による交通渋滞も要因としてあり ¹³⁾ ¹⁵⁾ 、さらに深刻なのは、物流拠点となるうまかなよかなスタジアムの物資積み下ろしスペースがトラック1台分しかないことであった。報道によれば荷下ろしの順番を待つ大型トラックが車列をつくり3時間順番を待ったとする声もある ²¹⁾ 。
17日は一部で第2期へ移行した避難所もみられるが、17日09:30時点での熊本市内避難者数108,266人に対し ¹⁵⁾ 、先の1人分計算した112,828食と調理場での6,600人食の合計119,428食を1食分換算すれば、1人当たり1.1食分の確保量しかなく、1人当たり1日分の食料数量としては不足している。従って、全体として大混乱は脱しておらず、第1期の状態であった。
18日(午前)になると「水道の復旧と給水やペットボトル配布が進み、水は対応が改善に向かうと思われる」といった水の供給体制改善の様子がある一方で、「食料が不足している(炊き出しや他都市の支援は増加)」(東区)、「食料が足りない。給水も足りていない。」「給水箇所は偏りなく設置して欲しい」(南区)と食料は不足でありながらも、徐々に炊き出し支援等のある様子もみられる。他方で、配給と支援に偏りがあることもうかがえ、未だ大混乱の続く第1期の避難所と、一段落し第2期へ移行した避難所、さらに第3期の復旧期へ移行した避難所もみられる ¹³⁾ 。
しかし、18日午後には、中央区へアルファ米10,000食、東区へアルファ米10,000食(他、乾パン・梅干)、西区へアルファ米14,000食・乾パン17,000食、南区へアルァ米25,000食(他、白かゆ)、北区へアルファ米30,000食・おかゆ10,000食・乾パン2,000缶(他、おにぎり・パン・ビスコ)の合計118,000食+α(括弧内の「他」)が配送された。その他に内閣府よりおにぎり36,400食とパン495食が18日中に配送完了予定であることが補足されている。また教育委員会報告では、城山小学校(熊本市西区,5,600人分対応可能)でも炊飯可能となり、3施設合計16,200食分が提供可能となった ¹³⁾ 。
以上、18日は午後に多くの食料が熊本市内へ届いた形跡がみられた。18日13:30時点での熊本市内避難者数は50,244人であり ¹⁵⁾ 、配送済み分の118,000食+αと調理場の16,200食だけを合計しても134,200食確保され、1食分換算すれば、1人当たり2.7食分の確保量である。通電も熊本県全体ではあるが前日の17日23:00の時点で90%復旧し、「応急復旧は早い」とされた熊本市内を考慮すれば、ほぼ市内全域でアルファ米やインスタントラーメンも温かくおいしく食すことができた可能性が高く、全体として第2期へ移行したといえる。ただしこの1食分換算の数値は、各区すべての避難者数が熊本市対策本部資料では把握されていないために、あくまで県対策本部による熊本市内避難者数からみた場合の数値であり、資料から確認できる区の避難者数からは、個別避難所によって差があることも読み取れる ¹³⁾ 。
4.3.2. 第2期から第3期移行期
19日の熊本市対策本部第13回会議資料では、各地からの支援物資受け入れ状況が報告されている。到着済の食料と飲料を抜粋すれば(括弧内は到着予定含む合計)、指定都市からアルファ化米76,450食(287,600食)・ビスケット類3,680食(314,940食)・おかゆ3,850食(3,850食)・保存パンと乾パン48,688食(111,318食)・水(容量不明)94,928本(652,414本)が現着している。その他に東京23区から、アルファ米118,100食・おかゆ21,744食・クラッカー47,610食・汁物4,840食の食料計192,294食と水(500ml)126,408本が到着予定である。さらに九州市長会の29市から合計500,000本の水が到着予定とある。これらを合計すれば、熊本市に到着した食料は132,668食で、到着予定分を含めば910,002食を、飲料は94,928本が到着済で、到着予定分を含むと1,278,822本を確保できることとなる。また、教育委員会からは3炊事場での稼働を、植木共同調理場のみ継続する旨報告がある。つまり炊事場供給は3,600食分へと減少させた ¹³⁾ 。
19日は多くの食料・飲料が市内各地へ搬送された。熊本市全体の避難者数は19日09:00の時点で67,201人と18日より増加しており ¹⁵⁾ 、確保済食料192,294食と調理場3,600食分の合計136,268食を1人1食あたり換算すれば1人1日2食となり不安定な状態もうかがえる。ただし、食料配布内容が乾パン等の第1期対応食から湯の必要な汁物(フリーズドライ)等に変化したこと(表1「適合食料」参照)や、調理場の供給減少があること、さらに到着予定分を含めば1日13.5食分あることから、不安定性も考慮し未だ第2期の状態であるといえる。
20日の各区状況報告では、「支援物品が急増しており、在庫管理、配送等の業務量が増大」(中央区)とある一方で、「おにぎりの量が少ない。人数分ない。」(南区)と、避難所で差はあるものの、物資の急増が見て取れる ¹³⁾ 。また20日午後には、米類(おにぎり・アルファ米・お餅)38,000食・乾パン7,850本・レトルトカレー2,000食・カップ麺2,450食・パン4,400食・菓子類12,200食・飲み物12,600食が配布された ¹³⁾ 。ここに湯が必要な食料(カップ麺)に加え、ご飯とカレーといった主食と副食の組み合わせがある食事配布が確認できる。これらから20日には、避難所で差はあるものの食料が行き渡り、第3期の復旧期へと移行した避難所もみられる。
21日の各区報告では、「食事等についても概ね充分」(中央区)と余裕のある区もあれば、西区では「生活用水が不足、1日40tの補給が必要」と飲料水以外の水が必要とされる区もある。また、南区では「原材料表記がないことへの不安」として食品アレルギーの人への配慮や、「避難所職員は1人では大変」と人手不足の避難所のあること、さらに「小学校の調理室を使わせてほしい」と温かいものを欲する声や、「絵本や読み物の配給はないか」といった食事以外の娯楽を求める声のあることが確認できる ¹³⁾ 。
22日の各区報告では、南区で断水未解消地域の仮設トイレ・簡易風呂等の要望があり、被害甚大地域の復旧が進まない現状もみえるが、食料供給に関する記述は特にない ¹³⁾ 。
以上から、21日以降食料や水ではない物資の要望へと変化し、食料報告が縮小されたことから、全体としてみればほぼ第3期へ移行したといえる。
4.4. 政府によるプッシュ型支援
表5及び本稿4.3.1.で18日午後に多くの食料が市内に搬送された形跡をみた。これには政府のプッシュ型支援による効果が大きい。確認すれば、政府は16日夜に食料90万食を熊本へ送ることを発表した ²²⁾ 。また、18日午前に菅官房長官は記者会見で、食料90万食のうち18日中に36万5千食が各市町村に届くとの見通しを示し、また、在宅被災者の食料も不足していることから合計で180万食へと倍増させる方針も明らかにした。さらに、同日10:00には石井国土交通相が救援物資輸送拠点から被災者に届けられるように運送業者や県との間に入って調整するよう関係部局へ指示した。これらは被災地からの具体的要請を待たずに判断した「プッシュ型支援」の実施となる。
プッシュ型支援は、東日本大震災の教訓により、その運用方法がより鮮明となり今回の災害で積極活用された ²³⁾ 。東日本大震災では、発災後5日目にあたる3月16日から23日までの期間でプッシュ型支援を実施しており、熊本地震の本震発生当日16日夜に政府が運用したことをみれば非常に速い決断であったことがうかがえる ²⁴⁾ 。また、東日本大震災では、都道府県や市町村の指定する集積所まで救援物資を運べても、そこから避難拠点までの運搬が困難な地域のあったことが問題となった。今回の熊本地震でも同じ現象が発生しており、前述のうまかなよかなスタジアム以外でも、県庁舎のロビーでは救援物資の入った段ボールが山積みされ仕分できない状態であった ²⁵⁾ 。これらの物流停滞を受け、政府は日本通運の鳥栖流通センター(佐賀県鳥栖市)に搬入した後、市町村指定拠点まで直接供給する配送システムを構築することとなった ²⁶⁾ 。
なお、内閣府非常災害対策本部は、19日6:00現在の市町村直接搬送物資到着状況を、食料223,833食・パン57,546食・おにぎり91,000食・パックご飯28,057食・カップ麺44,880食・米4,500kg・水78,016本・粉ミルク1,144kgであることを報告している ²⁶⁾ 。
5. 考察
表1の期別によって被害レベルを確認すれば、前震後は翌日に第2期へ移行した地域が多くみられ、前震のみであれば表1の被害レベル1となる。現物備蓄と流通備蓄がともに機能しバランスよく食料が供給できたと評価できる。しかし、本震により第2期から第1期へ逆戻りし大混乱を極めた。このとき、食料の「確保」が緊急課題へと変化した。
本震後の第1期から第2期への移行期間は4月18日午後となる。この期間は本震のみであれば3日間で、表1被害レベル2に照らせば若干長いものの妥当となる。だが、前震を含めば5日間となり被害レベル3とみることもできる。第1章でみたとおり、ライフラインの復旧状況が比較的早いのに対し食料供給状況の改善は遅い。ただし、第2期から第3期へは20日から21日にかけて移行し、18日を第2期と考えると2~3日間であり第2期の期間が短い。結果的に第1期と第2期の合計でみれば、本震のみで5~6日間、前震を含んでも7~8日間となりレベル2が妥当となる。
第1期が長かったことは、前震と本震による被災という特殊性はあるものの、やはり備蓄食料が少なかったことは大きな要因である。これは現物備蓄のみならず、家庭備蓄の少なさも要因となる。3項で確認したとおり、県対策本部の備蓄食料は本震前にほぼ残数がなかった。しかし、熊本市のように比較的充実した食料確保をしていても避難所で食料の不足が生じた。これは避難者数が多数であったこともあるが、それ以上に在宅避難者が食料確保のために近隣避難所へ来所していたとみることができる。18日の菅官房長官による記者会見で在宅被災者食料不足により食力支援数を倍増したことからもうかがえる。
また、流通備蓄が第1期直後に機能しなかったことも要因となる。これは「協定先も被害を受け契約履行しにくい可能性」といった先行研究による指摘とともに、本震直後が土曜日であったことも要因となる。16日の本震後に県対策本部は協定先へ連絡を入れるが、即食料確保できたのは1社のみで、その他は遠方移送や製造ライン休みにより機能しなかった。結果的に本震後に流通備蓄が機能したのは翌日の17日であった。
第2期が短かったことについては、政府によるプッシュ型支援効果と、自衛隊及び海上保安庁の早期活躍が関係している。プッシュ型支援については、18日から19日の食料供給状況変化と、直接的に物流機能改善させたことをみれば効果の発揮はわかる。自衛隊は14日前震後の給食支援について若干触れたが、物資輸送含め、その活動で避難者の多くが救われた ²⁷⁾ 。海上保安庁については、三角港・八代港・新熊本港等にて給水等の生活支援活動の他、物資輸送にも貢献している ²⁸⁾ 。
貴重な記述として、政府備蓄米のうち精米(無洗米)備蓄が供出されたことと、熊本市教育委員会報告に共同調理場での米炊飯による数千食分対応の記録があった。表1によれば調理が必要となる米は第1期に向かないこととなるが、これは避難所という施設機能と設備を考えた場合である。レベル2の被害でもライフラインが保たれる調理可能な施設はあり、ここでの炊飯と調理、さらに運搬機能を対策することで第1期でも米による備蓄が機能する。さらに、自治体では予算の限界により備蓄食料が不足する場合でも、政府備蓄米が無洗米で供出可能となったことにより、ある程度補完され、それだけ多くの被災された方々が救われる。
課題も残る。被災地自治体の立場からすれば、急増する避難者と避難所により必要な情報が把握できない。集中する支援物資も人手不足により対応ができないといった、過去の大規模震災と同様の状況が起きたことである。これを災害対策本部が設置される自治体だけ責めることはできない。被災自治体を構成する職員もまた被災者なのである。大切なのは「自助・共助・公助の相互補完による防災体制の確立」であり、このためにも「一人ひとりの防災意識の向上」が必要となる。
近年の防災対策は「自助・共助・公助」の「補完性の原理」によって構成される。つまり、公助は共助を、共助は自助を補完するといった、上位にある社会単位が下位を補完する原理に基づいた考え方が先行する。これは平常時に機能するが、非常事態の場合は一方通行で機能しにくい。そうではなく、有事の際は自助が共助や公助を、共助が公助を補完し合うといった相互補完的な関係でなければならないという提案がある ²⁹⁾ 。
被災者である個人が集う避難所という突発的な共助組織の場において、相互補完の関係のもとに個人各々が自助の立場に基づいた防災意識で運営されていたとするならば、公助は行政の立場に基づいた管理業務に集中できる。そして個人の防災意識が高ければ、備蓄食料の備えにも影響されよう。しかし、今回の検証をみる限り自助と公助の準備不足は否めない。18日の食料供給状況変化からすれば3日間の備蓄食料は有効であり、現物備蓄があったなら、そして家庭備蓄があったならば、報道されるほど避難者に対する食料不足は起きなかった。
つまり、個人の防災意識向上無くして相互補完防災体制は確立されないのである。個人の防災意識向上には既存の共助組織をベースとした地域防災教育等が考えられる。自治会や自主防災組織などを拠点として地区防災計画の策定等を通し、防災対策で必要な知識を共有する。そうすると、核となる個人の防災意識醸成により家庭へと普及され、準備すべきグッズとして家庭備蓄携帯率も向上する可能性は大いにある。この普及活動は各地でも推進されつつあるが、まだ少ない事例に留まる ³⁰⁾ 。
大規模災害において被災自治体のできることは限界がある。そうであるならば、平常時においてできる限りの対策をするほかない。自助・共助・公助の相互補完に基づき役割分担を明確にし、特に個人の防災意識を高める策を講じる。さらに公助における役割分担として、確認した政府精米備蓄の供出やその利用方法、内閣府・自衛隊・海上保安庁による支援等、あらゆる可能性を加味し、地域防災計画等の見直しをする必要がある。これは今回の熊本地震で被災した地域だけのことではない。日本という地理的条件上災害に遭遇する可能性の高いすべての地域が自覚しなければならない。早期対応が望まれる。
6. 結論 (まとめ)
6.1. 熊本地震は前震と本震の連続発生により被害が拡大し、16日の本震によって避難者数が激増し食料不足は生じた。
6.2. 表1による時系列分析では、前震を含むと第1期は5日間となり被害レベル3と考えることができる。しかし、第2期は2~3日間であり期間が短い。結果的に第1期と第2期の合計でみれば、前震を含んでも7~8日間となりレベル2が妥当となる。
6.3. 第1期が長かったことについて、現物備蓄(公助)と家庭備蓄(自助)が少なかったこと、流通備蓄(公助)が十分に機能しなかったことが要因としてあげられる。また、広域支援を行う熊本県対策本部の対策が不十分であったことも要因となる。
6.4. 第2期が短かったことについて、政府によるプッシュ型支援効果と、自衛隊及び海上保安庁の早期活躍が関係している。
6.5. 18日に食料供給状況が変化したことをみれば、前震後15日から起算し3日分の現物備蓄有効性はあるといえる。
6.6. 新たな取組として、東日本大震災以降備事業化された、政府備蓄米の精米(無洗米)備蓄供出が確認された。また第1期に共同調理場での米炊飯による数千食分対応の記録があった。これらにより、ライフラインが保たれる調理可能施設での炊飯と調理、運搬機能を対策することで、第1期でも米による備蓄が機能する可能性と、災害時における避難者支援の幅の広がりが示唆された。
6.7. 自助・共助・公助の相互補完に基づき役割分担を明確にし、特に個人の防災意識を高め、あらゆる支援等の可能性を加味した地域防災計画等の早期見直しをする必要がある。
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