論文題名

地域の食料安全保障

緊急時の地域食料対策による

ミクロ的食料安全保障政策の探求と定量的分析への挑戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

法政大学大学院 公共政策研究科

青山貴洋

 

 

論文題名「地域の食料安全保障」

〜緊急時の地域食料対策によるミクロ的食料安全保障政策の探求と定量的分析への挑戦〜

 法政大学大学院 公共政策研究科

青山貴洋

要旨

本稿は、食料供給不足という人体に影響を及ぼす可能性を有し、重要にもかかわらず国民認知度が低く、また食料対策や防災対策等多次元的に点在し複雑化され、且つ国家的議論に偏る食料安全保障政策を、日本国内外の課題と対策に整理・区分し、内的課題の実施主体となる地域の視点から論考することで、未開拓テーマである「地域の食料安全保障」の確立を目指し、さらに突発的な事態への然るべき備えを提案するものである。

食料安全保障政策は、食料政策に付随され複雑であり多次元的性格を有する。よって課題は国の地域性により異なり様々となる。日本でも食料安全保障政策はとられ、外的要因・内的要因と双方に課題を残すが、国側の議論に終始し、内的要因対策実施の担い手となる地方自治体はじめ地域では、食料安全保障としての認識は乏しい。内的要因への対応は地域対策の配備によってその実効性を高め、地域視点の食料安全保障政策は重要となる。

日本の食料安全保障政策は、「国内生産」を基本として、適切な「輸入」と「備蓄」、そして「緊急時対応」によって構成される。このうち、「国内生産」と「輸入」は、国家的・外交的・通商的な対策が必要となり、政府対応が迫られる。「備蓄」は、政府による米・麦・飼料の備えはあるものの緊急時に向かず地域対応が必要となる。地域の備蓄対応は、各地方自治体で配備される「地域防災計画」に災害時の食料対策として備わり、地域に応じた体制が敷かれている。ただし、ここに食料安全保障政策としての関わりはない。

そして「緊急時対応」には、食料供給不足を想定した「緊急事態食料安全保障指針」によって対策が示されている。この指針は、国家的・中長期的な事態を想定した「本編」(以下、指針・本編)と、局地的・短期的な事態を想定した「局地的・短期的事態編」(以下、指針・局地短期編)の2編で構成され、局地≒地域により「地域的」な対応策も存在する。

指針・本編は、食料供給不足の緊急時想定をカロリーベースによる国内総供給量から一人当たりで換算し、定量的な被害レベルの対策として示される。一方、指針・局地短期編は、被災想定等による事前対応策が主となり、有事の緊急時対策も「必要に応じて」対応するといった被害地域の要請に基づく対策であり、政府の示す地域対策は定性的といえる。

他方で、先に示したとおり、各地方自治体には「地域防災計画」が存在し、緊急時の食料確保・供給方法や、その備えとなる備蓄状況等の食料対策が確認でき、ある程度定量的に分析することができる。すなわち、地域防災計画を分析することで点在する各種の対策を「地域の食料安全保障」として統一された「策」とすることができる可能性を秘める。

従って本稿では、第1部に「国」と「地域」の視点による食料安全保障政策の違い、地域視点の必要性、地域政策要素となる「備蓄」と「緊急時対応」への分類を論考し、第2部に「地域における備蓄」の考え方、第3部に「(地域防災計画を基にした)緊急時対応」といった、3部制によってそれぞれを分析し論じている。

2部の「備蓄」には、現物備蓄・流通備蓄・家庭備蓄の3種がある。これを先行研究により、被害のレベルとライフラインの復旧度合いによって適合する食料及び備蓄形態へと分類・体系化した(表2-1)。

現物備蓄は第1期となる大混乱期に適合し配備を求められるが、食料品等の購入料・倉庫代等のコストが莫大にかかる。流通備蓄は第2期の混乱期以降に活躍することとなり、コスト面・食料不足による二次被害対策において貢献する。他方、食料は年齢・性別・好み・健康面により嗜好性等がある。よって、公的備蓄にはコスト面と嗜好性等により限界があり、「備蓄計画」を設置し「議論すること」が、これを打破するカギとなる。

3部では、都道府県の地域防災計画により、「各都道府県内にどれだけの備蓄食料が存在するか」「各都道府県ではどのような食料備蓄体制(公助・自助)が整備されているか」を表-巻末1、及び、表-巻末2にまとめている。

分析の結果、各都道府県内の対人口比率による食料現物備蓄数量をみると、最も多いところでも2食分に満たないこと、また、最も低いところは県内人口の約1%であることが判明した。さらに、現物備蓄食料の内、突発的災害等発生時の初期段階ではライフライン破損等により役立つ食料(大混乱期<1>対応食)が限られ、これ以外を備蓄している都道府県は多く、大混乱期<1>対応食に換算した場合、一番差の大きな県で95.56%も低減する等、さらに深刻な事態となる結果が現れた。

結論としては、「備蓄する食料と数量の適正化を図る」こと、「備蓄体制の強化を図る」こと、そのために「備蓄計画を取り入れ地域防災計画の改善を図る」こと、そして何より「家庭備蓄の啓発活動の強化を図る」ことが必要といえる。

このように本稿では、食料安全保障政策の国家的対応策と地域的対応策を区分・整理・定量的分析することで、課題の見直しと改善提案、そして地域視点による食料安全保障政策の必要性を論証し、確立に向けた一歩となることを試みている


 

はじめに

食料は生命の維持と健康に欠かせず、その供給の停滞は人体に影響を脅かす、あるいは最悪の場合生命維持活動の停止へと発展する可能性を秘める。よって、食料供給の最低保障に関わる政策は人々の安心を担保するうえで重要な政策となる。世界ではこれを食料安全保障(food security)と称し、マクロ的な課題として議論される。

日本でも食料安全保障政策はとられ、「食料・農業・農村基本法」(平成11年法律第106号)に基づき、「基本としての国内生産」「適切な輸入」「適度な備蓄」「緊急時の対応準備」の4項目で構成され、農林水産省において主管し対応されているかにみえる。しかし実際は、政府によるマクロ的な国家全体の対応に偏り、これを実施する地方自治体はじめ「地域」では、防災対策等の一環として扱われ、食料安全保障としての取り組みといった認識が乏しい。

日本の食料安全保障政策は、外的要因、内的要因と、双方に課題を残すが、内的要因にはミクロ的対策の完備によって政策の実効性を高める。つまり、「各地域の食料安全保障」が確立され配備されることで、マクロ的課題の内的要因対策が実行可能となるのである。よって本稿では、「地域の食料安全保障政策」とは何かを追求し、分断され点在化する食料対策を地域的視点によって整理・分析することで、日本の国家的食料安全保障における課題の一部に対し解決へ向けた提案を試み、国民の緊急時における食料に対する不安解消の一助となることを目指す

なお、本稿は3部制によって編成され、第1部では国家的食料安全保障政策の概況と課題から地域で解決可能な食料安全保障対策を抽出し、地域の食料安全保障とは何かに迫り、その大きな要素となる「備蓄」と「緊急事対応」へと分類を試みる。また、後に詳細することとなるが、緊急時対応に存在する「緊急事態食料安全保障指針」の地域版「局地的・短期的事態編」の緊急時対策は、「必要に応じて」対応するといった被害地域の要請に基づく対策であり、政府の示す地域対策は曖昧且つ定性的となる。よって、第2部以降に定量的分析可能な体制へと導くため、ここで論考する。

2部では、第1部で抽出された地域の食料安全保障要素のうち「備蓄」について論じている。備蓄は、公助となる現物備蓄と流通備蓄、そして自助となる家庭備蓄に分類され、それぞれの特性により必要な時期が異なる。また、備蓄食料が必要となるような災害等の緊急事態では、被害の範囲や大きさにより復旧する日数が異なり、これに付随され必要となる食料にも変化が生じる。

これらは先行研究において分断され示されていた。従って、ここで被害レベルや復旧度合いの期別による必要な食料と備蓄形態とは何かを整理・体系化し、定量的に分析することを試みている(表2-130参照)。なお、第2部での議論は「緊急時に対応するために必要な事柄」を論じているため、あくまで理想的な主張として論考されている。

3部では、第1部で抽出された地域の食料安全保障要素のうち「緊急時対応」を、各都道府県の食料対策が示される地域防災計画によって代用し分析している。なお、ここでは「各都道府県内にどれだけの備蓄食料が存在するか」「各都道府県ではどのような食料備蓄体制(公助・自助の役割分担)が整備されているか」を関心に、各都道府県及び市区町村の備蓄数量を表-巻末1に、各都道府県の地域防災計画上で示される役割分担をタイプ別に分類・体系化し表-巻末2にまとめている。

この表-巻末1及び表-巻末2には、第2部で整理した復旧度合い期別のうち、第1期にあたる大混乱期適合食料の数量と人口比率による備蓄割合も算出し掲載している。有事となる災害等の発生時には、初期段階にあたる第1期での対応が重要となり、且つライフラインの損壊等によって食べられる食料は限られる。従って、現在公助ではどの程度役立つ食料が備蓄されているのかを表出化するために定量的な分析を試みた。

また、各都道府県の地域防災計画には、当該都道府県・市区町村・住民等それぞれに対し役割を示しているが、「備蓄する」「備蓄に努める」「備蓄に努めなければならない」等の表現を用いており微妙に違う。これをタイプ別に分類・体系化し、計画と実際との比較をすることで、都道府県の計画における課題の抽出を試みている。

従って第3部では計画の実態と備蓄の実情による現実を直視することとなる。これも後に詳細することとなるが、現実は深刻な事態を示す結果となり、第2部の理想から妥協する分析と提案を余儀なくされることとなる。その意味で、第2部と第3部とに若干差があるように感じるかもしれない。

いずれにせよ、第1部での地域視点による食料安全保障の必要性と「備蓄」「緊急事対応」への分類・体系化、第2部での備蓄に関する論考、第3での緊急時対応の計画と実態による分析をもって、本稿は「地域の食料安全保障」の確立に向けた一歩となることを目指している。なお、第1部から第3部それぞれの末尾に各部としてのまとめを付記し、その総評としてのまとめを「おわりに」に記載しているので参照されたい。


 

1部 国と地域の食料安全保障

食料安全保障政策は、成り立ちの経緯からも国家的議論となることが多く、また、食料政策と密接に絡む食料安全保障は、複雑且つ課題も多い。従って、第1部では、国家的食料安全保障政策の概況と課題から、地域で解決可能な食料安全保障対策を抽出し、地域の食料安全保障とは何かに迫り、「国」と「地域」の食料安全保障政策の分解を試みる。この過程において、現行の国家的食料安全保障の緊急時対応となる「緊急事態食料安全保障指針」の分析は欠かせない。従って、第2章において緊急事態食料安全保障指針の本編と局地的・短期的事態編の2編を確認していくこととする。

 

1章 日本における食料安全保障政策の概況と課題

1.食料安全保障とは

1.1 食料安全保障概念変化と多次元的性格

安全保障とは「脅威が及ばないようにすることで安全な状態を保障すること」として一般的な理解を得ており、本来軍事的な意味において国家間の衝突へと及ばないような対策をとることとして用いられる。これに対し、近年では非国家的・非軍事的な安全保障の概念が派生しており、その一つに「食料安全保障」の考え方が存在する []

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United NationsFAO,以下FAOとする)では、1974年に開催された世界食料会議(World food conferenceFAOにより開催)において、初めて食料安全保障(food security)について議論されて以降、その定義に変更を加えつつ、現在では「全ての人が、常に活動的・健康的生活を営むために必要となる、十分で安全な栄養価に富み且つ食物の嗜好を満たす食料を得るための物理的、社会的、及び経済的アクセスが出来ること」[FAO2015,「目的・使命」]と定義しており、その概念は時代背景や社会的必要性とともに変化してきた []

他方で、日本では「国民に対して、食料の安定供給を確保することは、国の基本的な責務」として、食料安全保障を「予想できない要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために、食料供給を確保するための対策や、その機動的な発動のあり方を検討し、いざというときのために日ごろから準備をしておくこと」 [農林水産省, 2015a]と説明している。これを日本における食料安全保障概念の定義とするならば、FAOの定義とは異なる。

FAOでは概念の定義について、様々な地域や組織に約200もの定義が存在することを示し「柔軟性のある概念」としている。すなわち、日本との違いも柔軟性のひとつということになる。さらにFAOは、この概念の柔軟な変化を、「食料安全保障の継続的な進化は、公共政策に関係する技術的・政策課題の複雑さを反映している」と示す (FAO, 2003)

この「公共政策課題の複雑さ」には、食料安全保障政策が、世界的、国家的及び地域的な、多元的且つ多層的な性格を有する食料問題に付随されるためともいえ [青山, 2015]、故に食料安全保障は多次元的な性格のもとに分析されねばならないとされる[是永,,2001:3-5]

1.2 日本における食料安全保障の確立

日本で食料安全保障が議論されるようになったのは、世界的食料危機の勃発した1970年代中頃である。戦後の食糧難を脱し、高度経済成長を迎えた1960年の日本のカロリーベース食料自給率は79%であった。しかし、その後日本における食料供給の海外依存度は高まり、1970年には60%、1975年は54%と急激に低下していった []

他方で、1960年代の世界的穀物量は過剰ストック傾向にあったが、1970年代のソ連はじめアジア諸国の大干ばつにより一転し、世界に食料危機の不安をもたらした []。これが、前項の世界食糧会議において食料安全保障が議論されるきっかけとなった事象である。これは日本の食料安全保障議論開始時期と重なる。すなわち、日本における食料安全保障の論議は、食料自給率低下を背景に、世界的食料需給の激動を契機として開始されたのである [大賀, 2014]

その後、国内での食料安定供給に対する議論は深まり、1996年にそれまでの農業基本法から「食料・農業・農村基本法」(平成11年法律第106号)へ改正され、第2条に「食料の安定供給の確保」、そして第19条に「不測時における食料安全保障」の条文が設けられた。

青山(2015)によれば、この「食料・農業・農村基本法」第2条及び第19条により、「食料の安定供給の確保」を「食料安全保障」と位置づけ整理すれば、@生命の維持、A健康で充実した生活、B良質な食料の提供、C合理的価格による提供を保障されることが、食料安定供給に対する考え方の基礎となり、食料安全保障の基底になるとしている。さらに安定供給は、(1)国内農業生産の増大を基本として、(2)輸入と(3)備蓄を適切に組み合わせることで対応し、また(4)不測時には供給の確保を図るため、食料の増産と流通の制限をもって対応することとされている。

従って、日本の食料安全保障は、安定供給@からCの四つを保障の基礎とした、(1)国内農業生産の増大を基本とした安定供給(以下、食料安全保障4項目では「国内生産」とする)、(2)適切な輸入による供給(以下、食料安全保障要素の4項目では「輸入」とする)、(3)適切な備蓄による対応(以下、食料安全保障要素の4項目では「備蓄」とする)、(4)不測時における供給対応(以下、食料安全保障要素の4項目では「緊急時対応」とする)の4項目によって達成されることとなる。このうち、緊急時対応は「緊急事態食料安全保障指針(農林水産省決定,平成27101日一部改正)[]」(以下、「食料安全保障指針」とする)によって対応が示されることとなる [青山, 2015]

1.3 日本の食料安全保障政策の課題

青山(2015)により食料安全保障政策の課題を対応策要素4項目の「国内生産」「輸入」「備蓄」「緊急時対応」において簡略化すると、以下のとおりとなる。

1)基本となる「国内生産」の課題において、多くは生産者と農地(耕地)の減少問題による生産力低下と []、農地の分散化によって生ずる生産力非効率性が主たる問題であり、政府の対応となる「攻めの農林水産業(正式名:農林水産業・地域の活力創造プラン,農林水産業・地域の活力創造本部決定,20131210日,以下「攻めの農林水産業」とする)」にて複合型政策の取組が期待できるも []、その実効性や戦略作物の転作に関する不安が指摘されている []

2)適切な「輸入」における課題は、アメリカへの戦略作物輸入依存等の通商・外交的問題を除けば、攻めの農林水産業での「FBI戦略における国外需要拡大の実現」が重要なカギを握ることとなり、その実現性が問われることにある []FBI戦略は輸出拡大政策であり、この輸出拡大を支えるものは「担い手強化政策」「加工・業務用のニーズをとらえた国産野菜の生産拡大」「6次産業化」等、農業の経営基盤強化による増産戦略によるものとなる。

しかし、近年の日本国内における消費量は低下傾向にあり、加えて少子高齢化が深刻化する日本では、今後需要量低下の可能性が高く、農業の企業化・組織化と設備投資をもって生産力を拡大する農家は、輸出戦略が失敗すると、国内生産品がだぶつき、生産者所得を下げ、廃業となった場合の農地流出問題が指摘されている。

3)適切な「備蓄」による課題は、「狭義の備蓄」「広義の備蓄」がある中で、狭義の備蓄では、政府による備蓄食料(以下、政府備蓄とする)に関し適切であるかを導くには難しく、広義の備蓄が重要となる。広義の備蓄とは、間接的に食料となる生産要素の維持・保持を指す。生産要素とは、農地・生産者(作業員)・生産技術・生産資源・農器具・農器機・農業設備等を指し、加えて家畜も、その肉体と有畜農業における飼料生産部門との結合をもって有益な備蓄となる。

広義の備蓄では、農地の維持と確保、現存農地における国内フル生産シミュレーション、緊急時における生産指導者確保の必要性が指摘されている。

4)「緊急時対応」の課題については、食料安全保障指針における具体性・総合性の欠落と、国民周知不足による実行可能性の欠如が指摘され、これらは適切な「広義の備蓄」対応を整備させ、周知徹底することで改善されるとしている。具体性の欠落とは、指針における対応策には「誰が・どこで・何を」といった具体的な指示・指定がないままに、作物の増産・転換をキロカロリーベースで示されていることをいう。

また総合性の欠落は、@生命の維持、A健康で充実した生活、B良質な食料の提供、C合理的価格による提供を基礎とするはずの食料安全保障指針は(本稿1.2参照)、A健康で充実した生活、B良質な食料の提供は含まれない。この意味で総合性に欠けることが指摘されている。この具体性・総合性の欠落には、「広義の備蓄」で指摘する対応が有効となることを示している。

このように、国内生産・輸入・備蓄・緊急時対応の課題を整理すると、その対応内容は、ほぼ国内生産に関わり収斂されることがわかる。「ほぼ」としたのは、輸入における「アメリカへの戦略作物輸入依存等の通商・外交的問題」、備蓄における「適切であるかを導くには難しいとした政府(狭義の)備蓄」、緊急時対応における「国民周知不足による実行可能性の欠如」が直接的に生産へ関わらないからである。

1.4 食料安全保障政策のミクロ的対応抽出

以上、現在の日本における食料安全保障政策の課題を「日本の食料安全保障政策における課題と解決に向けた一考察,−農地と生産者問題からみた食料安全保障政策と緊急事態食料安全保障指針分析−」(青山,2015)によって確認してきた。本稿の目的は「地域の食料安全保障を探求・分析する」ことであり、その意味で、国家対策としてのマクロ的な議論の多い食料安全保障政策から、地域対策となるミクロ的な視点による食料安全保障の課題を抽出しなければならない。

ここでいう「地域」には、食料安全保障政策という「食料安定供給の担保による国民への不安を解消する対策」という性質上 [10]、公的課題の視点が多くなるため、地方自治体が主体となる。しかし、「食料の調達」には個人的性質も含み、自助的な対応策も必要となる。従って、ミクロ的対応策でいう地域の主体には、大きく分類する「地域住民」(以下、特定する場合を除き「住民」とする)も主体として含まれる。

また、公的課題を担当することとなる地方自治体も、ミクロ的には「市区町村」が基礎的自治体として最少単位となるが、後に説明する「災害等」は、阪神淡路大震災以降、その想定範囲が広域化することとなり都道府県も重要なカギを握ることとなる。

よって、地域として取り組むべき対策の主体は「都道府県」「市区町村」「住民」であり、この主体が活躍する事項を前項の課題でまとめた「国内生産」「輸入」「備蓄」「緊急時対応」で確認していく必要がある。以下、4項目について確認する。

1)「国内生産」

国内生産は、「地域」と密接に絡む。しかし、食料安全保障で対応しなければならない課題とされる問題の主要因は、生産者と農地の減少問題と、農地の分散化といった構造的要因に起因するものであり、需給調整含め、その克服には政府対応に頼らざるを得ない場合が多い。(この件に関しては第3章でもふれる)

2)「輸入」

輸入における「アメリカへの戦略作物輸入依存等の通商・外交的問題」は、輸入相手国の多元化、食料輸入国との相互信頼関係の醸成、情報収集体制の整備等、政府と一部民間による対応が主となり、地域での対応を迫られるのは、食料自給率向上に向けた戦略作物の国産化において、一部の生産者に求められることくらいであろう。

3)「備蓄」

備蓄における「適切であるかを導くには難しいとした政府備蓄」について、狭義の備蓄(直接的な備蓄)となる政府備蓄は、現在「米の年間100万t程度を適正水準として運用」を目安として備蓄されている[「平成26年度 食料・農業・農村の動向」(農林水産省,201538)] [11]。現在の米備蓄数量100tは現在の日本人の消費量からすれば、2カ月弱分の計算となる。「米」という基本的に1年に一度しか収穫のできない作物の特性を考慮すれば、この数値は十分ではない。

他方で、国内各地すべてで無収穫とは考えられず、政府備蓄は需給調整といった不足分を補うための備蓄であり、さらに不測の事態では国際枠組みの活用(ASEAN+3緊急米備蓄制度等)をもって対応すべきであるといった考え方もできる。いずれにせよ、狭義の食料備蓄は、食料の持つ性質とコストの関係から長期的にはたてられず、また日本全国を対象とする政府備蓄は、広域的な備蓄となり突発的な災害等による緊急事態には向かない。

ただし、青山(2015)の「4.1.狭義の備蓄」における「各都道府県や市区町村でも独自の備蓄体制が施されている。」ところに注目したい。政府備蓄は一部分散備蓄体制が敷かれているものの緊急事態に対応するには広域であり、その場合、災害等の被害状況によって市区町村及び都道府県における住民により近い地域対応が求められる。ここに地域の備蓄が活躍することとなる。

4)「緊急時対応」

最後に、緊急時対応における「国民周知不足による実行可能性の欠如」だが、青山(2015)は、(4)「緊急時対応」の課題において、簡易アンケートの結果を用いて食料安全保障指針の存在が浸透していないことに触れ、指針の実効性を担保するためには、実際に対応するであろう市区町村レベルとなる「地域」において、その対応方法が周知されていなければならないことを強調している。

また、まとめの中で「国民が個人として対応できるものは、ある程度の備蓄と、有事が起きた場合に対する気構えや「食べ物を大切にする」といった気持ちくらいのものであり、需給調整や国家全体に関わる指揮は政府によってのみ可能である。」ことを指摘し、「コストに見合う対応は即座に対応すべきであり、食料安全保障指針の改善と完備はこれに相当する。」ことを強調している。

つまり、マクロ的な対策としての食料安全保障政策の中で、ミクロ的な対応となる地域として取り組むべき対策は「備蓄」と「緊急時対応」となる。これは第3章においてもふれることとするが、その前に「緊急時対応」となる「緊急事態食料安全保障指針」を確認しておく必要がある。

 

2章 「緊急事態食料安全保障指針」の概要と実施体制

緊急事態食料安全保障指針(以下、食料安全保障指針とする)とは、食料・農業・農村基本法第19条に基づき、不測時の食料供給対応を示した指針である。これは、2002年に策定された「不測時における食料安全保障マニュアル」から、東日本大震災の経験を経て局地的・短期的事態編(緊急事態食料安全保障指針(局地的・短期的事態編),平成24928日農林水産省決定)を追記し、名称を改め20129月に改正されもので、さらに201510月に新たな修正が加えられている。

局地的・短期的事態編は別冊として整備されているため、食料安全保障指針は本編と別冊の2編によって構成される。さらに、農林水産省ホームページにおける緊急事態食料安全保障指針のページには、参考資料として「食料の安定供給に係る主要な不測の事態に対する具体的な対応手順」が掲載され、青山(2015)にて指摘された「具体性の欠如」については、その手順において多少緩和されている [農林水産省, 2015b]

その違いについては本稿の目的と逸脱するため、ここではせず、本章の目的となる「地域の食料安全保障」に必要な対応の分析について進め、食料安全保障指針の本編と、別冊による短期的・局地的事態編の2編(以下、特別に本名称を用いなければならない場合を除き「指針・本編」と「指針・局地短期編」とする)において具体的内容を確認することとする。

2.1 緊急事態食料安全保障指針の具体的内容

2.1.1 緊急事態食料安全保障指針(本編)の構成とマクロ的・定量的性質

農林水産省では、緊急事態食料安全保障指針を「食料の輸入途絶等の不測の要因により食料供給に影響が及ぶおそれのある事態に政府として講ずべき対策の内容等を示したもの」としており、「不測時における食料安全保障対策として、事態の深刻度(レベル)に応じ、国民が最低限度必要とする食料の供給に確保が図られるよう、対策を整理している」として説明している [農林水産省, 2015b]

指針・本編は、大きく分けて「趣旨」「平素の取組」「緊急時の対策」の3つで構成され、第1から第77項目で説明される。それぞれの項目は、第1.食料安全保障指針策定の趣旨、第2.平素からの取組、第3.緊急時のレベルの類型と対策の概念、第4.緊急時における対策実施のための体制整備、第5.レベル0における対策、第6.レベル1における対策、第7.レベル2における対策に分けられている。

その他に、別紙1から10において、情報収集、備蓄活用・輸入確保・緊急増産・適正流通・食料割当て等の考え方や手順、関係法令等に基づく規制・統制・対策、及び緊急時の食料安全保障に関する関係府省会合について補足されている [12]

そして指針・本編の趣旨には、「国民に対する食料の供給が不安定な要素を有していることを踏まえ」対処するためのものであることが示され、また、趣旨の4.食料供給に影響を及ぼす緊急の要因(リスク)には、「我が国の食料供給に影響を及ぼす緊急の要因(リスク)」として、(1) 国内における要因(リスク)5項目、(2) 海外における要因(リスク)17項目が示されている。

その注記には「本指針は、緊急の要因により我が国の食料の供給が量的に減少するおそれのある事態に対処するため、政府として講ずべき対策を示すものであり、食品の安全性そのものやその確保のために講じる対策については対象としない。」(原文ママ)とされている[緊急事態食料安全保障指針・本編:8-9]。

先に示した農林水産省が説明する「事態の深刻度(レベル)」とは、食料供給が停滞する可能性を想定した度合いを示すレベルであり、レベル0からレベル2までが想定されている。

レベル0の判定基準は、「事態の推移いかんによっては、特定の品目の需給がひっ迫することにより、食生活に重大な影響が生じる可能性がある場合」であり、レベル1以降の事態に発展する恐れがある場合とされている。

レベル1は「国民が最低限度必要とする熱量の供給は可能と見込まれるものの、特定の品目の需給がひっ迫することにより、食生活に重大な影響が生じるおそれがある場合」であり、目安として「特定品目が平時の供給を2割以上下回ると予測される場合」とされている。

レベル2は「国民が最低限度必要とする熱量の供給が困難となるおそれがある場合」であり、目安として「11日当たり供給熱量が2,000kcalを下回ると予測される場合」と、それぞれ位置づけられている。

さらに、各緊急時レベルの「想定される事態」を確認すると、レベル0では「国内における大不作の予測」「主要輸出国における大不作の予測、輸出規制の動き」「主要輸出国における突発的な事件・事故等による貿易等の混乱」「安全性の観点から行う食品の販売等の規制」等が想定され、レベル1では、「米の大不作の発生」「主要輸出国における輸出規制の実施」、レベル2では、「穀物、大豆及び関連製品の輸入の大幅な減少」がそれぞれ想定されている。

つまり、指針・本編は、輸入依存度の高い日本において、国内で食料供給へ影響を与える全国的(マクロ的)且つ中長期的な要因に対し、定量的な対応を行うことが課題とされている。

2.1.2 緊急事態食料安全保障指針 (局地的・短期的事態編)のミクロ的・定性的性質

2.1.2.1 緊急事態食料安全保障指針(局地的・短期的事態編)の構成と役割

これに対し、指針・局地短期編の内容はどのようなものか。まず構成をみると、第1に「指針(局地的・短期的事態編)策定の趣旨」、第2に「平素からの取組」、第3に「局地的・短期的事態における対策」と、3つで構成されている。

1 指針(局地的・短期的事態編)策定の趣旨,「1 趣旨」(P6)を確認すると、「東日本大震災・原発事故の教訓を踏まえ、食料の製造工程や流通の混乱、輸送の障害等の発生による食料の地域的偏在や一部食料の一時的不足のような局地的・短期的な緊急事態への取り組みとなる環境を整備するため、食料の安定供給に係る関係機関等の役割、制度面での環境整備、関係機関等間での情報共有の在り方等を整理したもの」とされている。

そして第1 指針(局地的・短期的事態編)策定の趣旨,「2 役割」(P6)には、「必ずしも我が国全体の食料供給は不足しないまでも」と前置きしつつ、

@ 食料の物流拠点の機能不全や物流経路の断絶等による物流の一時的な途絶

A 原材料・包材の製造工場の機能不全によるサプライチェーンの一時的な断絶

B 食料の供給不足を見込んだ消費者による局地的な買いだめ

「等により、食料が地域的に偏在し、又は一時的に供給がストップする事態が生じるおそれがある。」(原文ママ)ことを示唆し、その対策について、「このため、」と付記した後に、次のとおり示している。

@ 国は、平素から、物流ネットワーク・サプライチェーンの機能維持を図るための食品産業事業者の取組を促進するとともに、緊急時に食料の輸入・流通が円滑に行われるよう、制度面での環境等を整備する。また、緊急時には、価格・在庫状況を把握し、消費者への正確な情報提供等を実施する。

(平素の物流・サプライチェーン等機能維持の取組緊急時の情報収集と提供)

A 食品産業事業者は、緊急時における物流ネットワーク・サプライチェーンの機能維持を図るため、平素から、各事業者における業務継続計画の策定や事業者間での緊急時の協力方針の取決めの締結、訓練・演習を実施するとともに、緊急時においても、生産・供給の確保・拡大等を促進することが望まれる。

(平素の各事業者による業務継続計画策定と事業者間協力の締結による(緊急時)対策)

B 消費者は、緊急時に備え、各家庭における計画的な食料品の備蓄を平素から実施するとともに、緊急時においても、行政等から食料の価格・在庫情報を入手するなどして、落ち着いた行動をとるよう努めることが望まれる。

平素の消費者による家庭備蓄の推進と、緊急時における心構え

@からBそれぞれの文末に括弧書きで記した文章は、筆者によって内容を要約したものである。この要約された3つの役割を確認すれば、ほぼ平素の役割であることがわかる。この中で、緊急時対策は@の情報収集と提供のみということになる。つまり、指針・局地短期編は、そのほとんどが「平素の取組」による対策の比重が大きいということである。

2.1.2.2 緊急事態食料安全保障指針,局地的・短期的事態編の緊急時対応

では実際に緊急時の対策が「ほぼ無い」のかといえばそうではなく、第3局地的・短期的事態における対策を確認すると、(1) 円滑な流通等の確保、(2) 検疫・食品輸入手続の迅速化、(3) 食品表示規制の弾力的な運用、(4) 食料供給の見通しに関する情報収集・分析・提供、(5) 国民生活安定緊急措置法その他の法令による価格・流通の安定対策等、(6) 地域のニーズに配慮した食料の供給と、6項目による対策がある。以下、それぞれを確認していく。

(1) 円滑な流通等の確保では、「緊急時においては、必要に応じて」と断りを入れたのちに、@ 生産者及び生産者団体に対し、農産物の計画的な早期出荷や規格外品の出荷促進の要請、A 食品産業事業者等に対し、生産・供給の確保・拡大、廃棄の抑制、規格外品の流通等についての取組の促進要請等を行うこととしている。

さらに、「また」の後に、「必要に応じて」と断りの後に、「食品産業事業者等に対して、食料の容器包装の統一化等の要請」、「緊急事態発生時には、食料等の在庫情報が的確に把握できないことによる社会不安解消のため、市中における食料や日用雑貨等の在庫状況等を政府等が把握できる情報集約基盤を平時から整備」と続く。この「また」以降の2項目は、平素の取組となる。

(2) 検疫・食品輸入手続の迅速化では、海外からの支援物資を始め食料の輸入増加に対応するため、緊急時の対応として、「必要に応じて」と断りの後に、「関係機関において情報共有」「海空港等における輸入の体制整備」「検査体制の確認」「影響を受けていない検疫所等からの応援等の人員配置を重点化」等により輸入増加に備えた体制を整備することとしている。

(3) 食品表示規制の弾力的な運用では、食品表示の作成・変更が間に合わないことが起こり得ることから「必要に応じて」と断りの後に、被災地や被災地外の食品表示規制を弾力的に運用することにより、食料の円滑な供給の確保を図るとしている。

(4) 食料供給の見通しに関する情報収集・分析・提供では、「必要に応じて」と断りの後に、食料の需給・価格動向の情報を収集・分析し、その内容とともに、情報提供することにより、国民及び市場の不安感を解消させ、落ち着いた行動を求める必要があるとしている。この具体的内容には、@卸売市場における入荷状況や卸売価格の動向等の調査、A小売店における食料の陳列状況や価格動向等の調査、の結果を公表するほか、対策を実施する場合はその内容を国民に情報提供することとしている。

(5) 国民生活安定緊急措置法その他の法令による価格・流通の安定対策等では、@国民生活安定緊急措置法(第16条、第17条、第18条、第19条)に基づく輸入の指示、A適正な流通の確保のための指示等(国民生活安定緊急措置法に基づく指示等 [13]、買占め等防止法に基づく指示・命令等 [14]、食糧法に基づく命令 [15])、B国民生活安定緊急措置法に基づく価格の規制といった、法的根拠に基づき緊急時の対応が求められる。

(6) 地域のニーズに配慮した食料の供給では、その地域における健康・栄養状態に配慮するため、「必要に応じて」と断りの後に、「地方公共団体やNPO 法人等と連携して、管理栄養士等専門職種の活用を図り、地域のニーズや食事状況を把握するとともに、食料の各品目について供給可能な事業者に関する情報を提供する。」としている。

1)から(6)までを確認すれば、(5)の法的根拠における実施項目を除く、すべての項目に「必要に応じて」と断りを入れているのがわかる。つまり、局地的・短期的事態の想定は、突発的な災害等によって被害による対応が主となるため、その度合いによって対応も変化することから平素の取組(準備)が重要となり、必要に応じた対応とならざるを得ないのである。この意味で指針・局地短期編は「定性的」といえる。もちろん、その編名が示すとおり、局地的・短期的な指針であることから地域的な、ミクロ的対応であることはいうまでもないだろう。

地域の食料安全保障を規定するうえでも、局地的・短期的な事態に備え、定量的な対応が必要となる。この件については後にふれることとする。

2.2 緊急事態食料安全保障指針の地域に関連する緊急時実施体制

2.2.1 指針・本編の緊急時実施体制

食料安全保障指針の全貌が明らかでないと、後にふれる記述内容が不明となる恐れがある。よって簡略的に構成と内容についてみていくこととする。なお、本項の目的に従い、体制整備に関して地域に関連する事項を抽出したい。また、ここでいう「地域」は、政府対応に関連し、公的対応の実施に伴うものとするため、地方公共団体に限定して抽出する。

この中で、第4.緊急時における対策実施のための体制整備を確認すると、1.農林水産省における体制整備と、2.政府一体となった体制整備の2項に分かれている。1項目の農林水産省における体制整備では「食生活に重大な影響が生じる可能性がある場合には、大臣の指示により農林水産省対策本部設置する。」とされ、その実施内容は、@レベル0における対策の実施、A政府対策本部の設置の要請、Bレベル1又はレベル2において農林水産省が講ずべき対策の実施等に当たるとしている。図1-1.緊急事態食料安全保障指針のレベル0とレベル1以降における変化と対応
 
資料:⾷料の安定供給に係る主要な不測の事態に対する具体的な対応⼿順(P6)より

これは、レベル1以降の発生が見込まれる場合、農林水産省対策本部から政府対策本部へ移行されることを意味しており、2項目の政府一体となった体制整備は、緊急時(レベル1以降となる恐れのあるとき)における政府対策本部の設置が示されている(図1-1参照)。ただし、レベル0における農林水産省対策本部は、農林水産省国民保護対策本部、または、農林水産省新型インフルエンザ等対策本部等が設置される場合、農林水産省対策本部は設置せず、それぞれの対策本部等において処理するものとされている[指針・本編:16-18] [16]

農林水産省対策本部の構成員は、本部長に農林水産大臣、本部長代理に農林水産副大臣、副本部長に農林水産大臣政務官があたることになり、以下、農林水産事務次官、農林水産審議官、大臣官房長、大臣官房総括審議官、大臣官房総括審議官(国際担当)、大臣官房技術総括審、議官、大臣官房危機管理・政策評価審議官、大臣官房統計部長、消費・安全局長、食料産業局長、生産局長、経営局長、農村振興局長、政策統括官、農林水産技術会議事務局長、林野庁長官、水産庁長官、関東農政局長、関東農政局地方参事官(東京)が本部員とされ、「必要に応じ、本部長が指名する者を本部員とすることができる」とされている。

政府対策本部は、緊急時において食料の供給を確保し、価格・流通の安定を図るために、食料の生産から流通、消費に至る各般の対策を実施する必要があるため、関係府省が緊密に連携する政府一体となった体制を整備することとされている。つまり、両対策本部において、地方公共団体との関係は、本部長が指名する場合を除けば「ない」こととなる。

では、地方公共団体が関係する項目はあるのかといえば、第5「レベル0における対策」5.価格・流通の安定対策(1)「価格動向等の調査・監視」による@農林水産省が実施する調査及び地方公共団体との連携による情報把握」 [指針・本編:20]と、レベル1における対策の、輸入の減少等により特定の品目の供給が減少し、食生活に重大な影響が生じる可能性がある場合において、当該品目の供給を確保する場合に行われる緊急増産食料確保計画(仮称)(以下、食料確保計画とする)が決定されたときである。

レベル0における@農林水産省が実施する調査及び地方公共団体との連携による情報把握は、「農林水産省は、関係府省と連携し、食料並びに食料生産に必要な種子・種苗、肥料、農薬及び飼料(以下「食料等」という。)の価格動向等の調査・監視として」の続きとしてあるものである。すなわち、レベル1以降の深刻な事態に発展しないよう、初動的・予防的な対策の一環で行うものとなる。

レベル1における食料確保計画は、国民生活安定緊急措置法(昭和48年法律第121号)第14条「生活関連物資等の供給が不足することにより国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営が著しく阻害され又は阻害されるおそれがあるときは…(略)…生産を促進すべき物資を指定することができる」に基づき行われ、政府対策本部は、生産を促進すべき物資を指定するとともに、都道府県別ガイドラインを公表することとされている。図1-2.緊急増産に関わる手順
 
資料:⾷料の安定供給に係る主要な不測の事態に対する具体的な対応⼿順(P7)より

都道府県別ガイドラインの内容は、ア.緊急増産を実施する品目の目標生産数量(面積)、イ.種子・種苗、肥料、農薬等生産資材の必要量等を定めることとされ、政府対策本部は、都道府県に示す。これを受けた都道府県は、市町村及び関係団体等と調整し、ガイドラインに基づき作付面積等を配分することとなる(図1-2参照)。

2.2.2 指針・局地短期編の緊急時実施体制

指針・局地短期編の緊急時実施体制は、「大規模な事故災害、新型インフルエンザ等の感染症、武力攻撃の発生等により、局地的・短期的に食料供給に不足が生じるおそれがある場合は、大臣の指示により農林水産省対策本部を設置する。」とされる。ただし、農林水産省国民保護対策本部、または、農林水産省新型インフルエンザ等対策本部等が設置される場合、農林水産省対策本部は設置せず、それぞれの対策本部等において処理するものとされている。従って、指針・本編との違いは、深刻度となるレベルの設定による変化がないこととなる。

農林水産省対策本部の構成は「緊急事態食料安全保障指針第4 緊急時における対策実施のための体制整備1農林水産省における体制整備(2)農林水産省対策本部の構成を準用する。」とある。従って、指針・局地短期編においても、地方公共団体が関係することは、本部長が指名する場合を除けば「ない」こととなる。

では、地域に関連する項目はといえば、第3 局地的・短期的事態における対策、4 対策(6)「地域のニーズに配慮した食料の供給」の中で、「その地域における健康・栄養状態に配慮するため、必要に応じて、地方公共団体NPO 法人等と連携して、管理栄養士等専門職種の活用を図り、地域のニーズや食事状況を把握する」ところにある[指針・局地短期編:16]。これは、「食料供給に支障が生じた地域においては、供給される食料の品目が限定されるおそれがある」ことから必要に応じて対応されることとなり、その意味で地域は「健康・栄養状態に配慮」することが求められることとなるのである。

2.3 第2章の論点整理

以上、第2章では、食料安全保障指針の概要と実施体制を確認してきた。いえることは、

1-2-1.緊急事態食料安全保障指針(本編)は、輸入依存度の高い日本の食料事情に鑑みた、全国的(マクロ的)・中長期的な対策となる指針であり定量的性質をもつ。また、緊急事態食料安全保障指針(局地的・短期的事態編)は、突発的な災害等に対応するための指針であり、その度合いによって対応も変化することから、対策は平素の取組(準備)が重要となり、必要に応じた対応とならざるを得ず、その性質は定性的となる。そして、その名のとおり、局地的・短期的な指針であることからミクロ的対応といえる。

1-2-2.食料安全保障指針における地方公共団体が関係する項目は、指針・本編においては、レベル0における「農林水産省が実施する調査及び地方公共団体との連携による情報把握」と、レベル1における食料確保計画の決定に伴い緊急増産品目の目標生産数量(面積)、及び種子・種苗等の必要量等を都道府県別ガイドラインで公表されたときである。このうち、レベル0での対策は、レベル1以降の深刻な事態に発展しないよう、初動的・予防的な対策の一環で行われる調査となるため、実際はレベル1における食料確保計画の決定による対応が主となる。

1-2-3.食料安全保障指針における地方公共団体が関係する項目のうち、指針・局地短期編においては、「地域のニーズに配慮した食料の供給」の中で、「その地域における健康・栄養状態に配慮するため、必要に応じて、地方公共団体やNPO 法人等と連携して、管理栄養士等専門職種の活用を図り、地域のニーズや食事状況を把握する」ところにある。よって地域では「健康・栄養状態に配慮」することが求められることとなる。

以上を踏まえたうえで第3章の議論へと続くこととする。

 

3 不測の事態へ備えるために必要な各地域の対策

3.1 「国」と「地域」の視点による食料対策の違い

多次元的性格を有する食料安全保障は、主体の視点によって対応も変わる。第2章でみたとおり、改定される前から存在する「不測時の食料安全保障マニュアル」が、海外要因の需給ひっ迫も含めた、全国的・中長期的な食料不足を想定し増産等の対策を講じているものに対し、2012年に加えられた「緊急事態食料安全保障指針(局地的・短期的事態編)」は、東日本大震災を教訓に、食料の地域的偏在や一時的不足のような、局地的・短期的な緊急事態における対策を整理したものとなる。

すなわち、前者の全国的・中長期的な食料不足の場合、日本国民全体の食料供給不足解消のために、増産・備蓄・輸入等により食料の供給可能地域から全国的な分配を考える。そして、後者の局地的・短期的な食料不足の場合、震災などの緊急事態によって不足する地域住民への食料供給のために、個人含めた地域による自助、あるいは政府備蓄米の配給等による公助、場合によっては食料供給可能な地域からの供給といった共助によって食料不足が解消される。

つまり、前者は「国民」が主体であることから、中央政府である「国」の要請や指示による需給コントロールが重要な位置を占め、後者は「地域住民」が主体であるため、該当する「地域」の地方公共団体による食料供給依頼要請が重要となる。この二つの側面を併せ持つのが後者の「地域」ということになる。地域住民は国民でもあるからだ。では、この両面を担当することとなる地域の地方公共団体を主体とした場合、どのような視点となるであろうか。

地方自治法(昭和22417日法律第67号)第一条の二では、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの」とされる。また、公共サービス基本法(平成21520日法律第40号)第三条では「国民が健全な生活環境の中で日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようにすることを基本」として、同条一の「安全かつ良質な公共サービスが、確実、効率的かつ適正に実施されること。」とされる。

地方自治法第一条の二にある「福祉」を広辞苑第六版で調べると、【福祉】「@幸福。公的扶助やサービスによる生活の安定、充足」である。つまり、地方公共団体は「地域住民の安全で安定した生活を円滑に営むことができること」を基本とし、地方政府として「安全かつ良質な公共サービスを、確実、効率的かつ適正に実施する役割を担うもの」と解釈できる。

この中に「食料の安定供給」も当然に関係する。食料供給不足による人体への影響を考えれば理由はいうまでもないが、法的根拠をあげれば、食料・農業・農村基本法第2条における4の「国民が最低限度必要とする食料は、……国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じないよう、供給の確保が図られなければならない。」とした「食料の安定供給の確保」を担う政府の役割を、地方自治法第一条の二の2における「国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担する」によって、担わなければならないのである。

よって地域の食料安全保障となる食料対策は確立されなければならない。これが食料安全保障指針,局地的・短期的事態編に該当する震災等の想定に匹敵されよう。緊急事態の食料供給不足に備え、対策を講ずることとなる。ただし、「地方自治」における「自治の役割」もあるため、これは第2部において説明することとする。

他方で、国が対応する全国的・中長期的な食料不足が勃発、あるいは勃発する恐れがあると認められた場合、すなわち、本稿第22.2.1で説明した、レベル1における食料確保計画の決定に伴い緊急増産品目の目標生産数量(面積)及び種子・種苗等の必要量等を都道府県別ガイドラインで公表されたとき、食料安全保障指針に従い、政令によって地方公共団体へ指示が出されることとなる。

ようするに、地域における食料安全保障を考える場合、国家全体の取り組みと各地域における取り組みとを区別し、対応を講ずる必要があるということだ。

3.2 視点の違いによる「地域の食料安全保障」を構成する要素

11.2及び1.3でふれたように、国家的な食料安全保障の要素を大きく分類すれば、「(基本としての)国内生産」「(適切な)輸入」「(適切な)備蓄」「緊急時対応」となる。この中で、政府から地方公共団体との連携が発生する要素は、輸入を除いた「国内生産」「備蓄」「緊急時対応」の3つとなろう。

「輸入を除く」ことについては、レベル0の場合、農林水産省が関係府省と連携し輸入の多角化を図り、また関係事業者に対し輸入の多角化を要請し[指針・本編:2035(別紙3)]、レベル1の場合、農林水産大臣によって、輸入の事業を行うものに対し、国民生活安定緊急措置法に基づき輸入の指示を行うこととなる[指針・本編:2435(別紙3)]。従って、輸入に関わる地方公共団体との連携はない。

3.2.1 政府との連携による「国内生産」

最も重要となるのは、レベル1以降に組織される、政府対策本部での食料確保計画による緊急増産、及び生産転換の場合、すなわち、「国内生産」の場合である。これによれば、レベル1の事態が想定され、食料確保計画が決定すると [17]、都道府県別ガイドラインを策定・公表し、農林水産省対策本部を経て都道府県にも提示される。

ガイドラインの提示を受けた都道府県は、市町村及び関係団体と調整のうえ、作付面積を配分し、農林水産業関係者(以下、生産者とする)に対し指示を出す。そして、指示を受けた生産者は、国民生活安定緊急措置法第15条第1項に基づき生産計画を作成し、農林水産大臣へ提出することとなる。つまり、市町村・関係団体・生産者といった「地域」への調整役を、政府の指示によって都道府県が担うこととなるのである。

3.2.2 政府との連携による「備蓄」と「緊急時対応」

備蓄と緊急時対応については少々複雑である。食料安全保障指針(本編及び局地短期編の両編)では、国から地方公共団体に対する連携に関し、基本的に備蓄と緊急時対応に係る項目はない。「基本的に」としたのは、直接的ではないが、関連する項目、あるいは解釈上必要であろうとの見方ができるため、そのように表現している。

指針・局地短期編では、平素の取組における具体的内容の「家庭備蓄の推進」(P10)の中で、「ライフラインが停止することもあり得ることから、防災基本計画の趣旨に従い2週間分の備蓄のうち最低3日分、推奨1週間分は、…(略)…簡易な調理ですぐに食べることができるものをカセットコンロ等と併せて備蓄することが望ましい。」として緊急時の食料供給不足及び生産減少の事態に備え、家庭備蓄を推進することが示されている。この中で、「防災基本計画の趣旨に従い」とあるところに注目したい。

防災基本計画(平成2777日修正,中央防災会議決定)は、災害対策基本法(昭和361115日法律第223号、最終改正:平成27717日法律第58号)に基づき策定され、その第1編総則、第1章(目的と構成)には、「我が国の国土は、自然災害が発生しやすい自然条件下に位置し、防災対策の一層の充実強化が求められ、災害被害の軽減には対策と対応が重要であり、これらは国,公共機関,地方公共団体,事業者,住民それぞれの,防災に向けての積極的かつ計画的な行動と相互協力の地道な積み重ねにより達成してゆけるもの」(一部抜粋)とされている。

そして、災害対策基本法第四条(都道府県の責務)には、「その区域内の市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う責務を有する」とされる。また、第五条(市町村の責務)には、「関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する」とし、第十五条及び第十六条において、「都道府県、市町村それぞれに当該地域に係る地域防災計画を作成し、及びその実施を推進するために防災会議を置くこと」が示されている [18]

さらに、それぞれの地方公共団体に作成を求められる「地域防災計画」を定める第四十条(都道府県地域防災計画)第2項三、及び第四十二条(市町村地域防災計画)第2項三では、災害に関する措置の中で「備蓄」の項目を計画にて定めることが求められている。

ただし、付記しておかなければならないことは、地域防災計画において計画を求められるものは、あくまで「備蓄」であり、食料とは記されていない。唯一食料に特化している項目は第八十六条の六(避難所における生活環境の整備等)の中で「当該避難所における食糧[19]、衣料、医薬品その他の生活関連物資の配布及び保健医療サービスの提供その他避難所に滞在する被災者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とされているところである [20]

いずれにせよ、「備蓄」するものは、災害応急対策の実施に当たって必要なものにあたり、その中の生活関連物資との見方もでき、これには「食料品」も該当すると解釈できるため、「食料の備蓄」に該当するといえる。そして、この災害対策基本法に基づき策定され、地域防災計画の基ともなる「防災基本計画」には、災害対策の整備に必要とされる食料の備蓄に関する記述が明確にされている [21]。従って、地方公共団体は、法律において被災者の生活環境整備に含まれる「食料備蓄」に努めることを求められているのである。

つまり、食料安全保障指針での直接的な政府と地方公共団体との関連性は見当たらないが、指針・局地短期編において家庭備蓄を防災基本計画の趣旨に従い推進するのであれば、当然にその他緊急事態に係る事項も従うべきであり、間接的に、地域防災計画の食料に関する計画、すなわち、「緊急時対応」を規定し、その中で食料の「備蓄」も整備されることとなるのである。

3.2.3 地域が主体となる食料安全保障の要素

地域が主体となり食料安全保障体制を整備しなければならない状況とはどのようなものか。本稿第11.4及び本章3.1でも述べたように、全国的・中長期的な食料不足の場合、需給調整が必要となり、多くは国が対応することとなる。「多くは」としたのは、食料ひっ迫という緊急事態により国が需給調整を講じようとした場合、自助作用が働き地域のコミュニティレベルでの取引や、最悪の場合、個人または事業者等、個人間連携による取引等が考えられる。

もちろんこれを取り締まる国民生活安定緊急措置法(昭和48年法律第121号)等による対策も講じられるため特殊な例となる。よって、この議論は別稿にて行うこととする [22]。いずれにせよ、これらは政府との連携によって対応されることが多く、分類としては国家的食料安全保障に属する。だとすれば、局地的な事態に集約されることとなる。結論からいえば、地域主体の場合、「備蓄」と「緊急時対応」に集約される。

3.2.3.1 地域が主体となる食料安全保障対策の想定と食料備蓄の必要性

ここでいま一度「食料安全保障指針(局地的・短期的事態編)」(平成249月農林水産省決定〔当初〕)を確認すれば、局地的な食料不足の可能性について、地震や津波、台風、豪雨による洪水等の自然災害、原発事故等の天災や人災によって引き起こされる各種事故災害、新型インフルエンザ等の感染症流行によるパンデミック、他国やテロなどによる武力攻撃と、大きく分けて4つの事態が想定されている [23]

この中でパンデミックを除く、自然災害、事故、武力攻撃で想定される食料不足は、物流体制の機能不全と、ライフラインの崩壊による調理不能の事態が生じる可能性があるという点で共通している。物流体制の機能不全とは、食料の物流拠点や原材料・包材の製造工場の損壊等サプライチェーンの機能不全と、物流経路の断絶によって起こる物流の一時的な途絶・断絶を指し、またライフラインの崩壊による調理不能事態は、調理に必要な水道・ガス・電気に打撃を受けることで、復旧までの一時的に引きおこる調理ができない事態をいう。

さらに自然災害・事故・武力攻撃による家屋の被害によって、避難を強いられる可能性もある。この場合、自分の家に戻れないことが前提となるため、避難所において避難解除、もしくは家屋の損傷が激しい場合、新たな居住体制が整うまでの間、避難所において生活することとなる。

また、パンデミックの場合は、感染防止等の観点から不要不急の外出を控えることが求められることがある。すなわち、食料の買い出しが容易にできなくなる。いずれにせよ、非常事態宣言が解除されるか、物資援助が到達するか、復旧されるか、自律的生活を営めるようになるかの間、何かしら食事をとらなければならない。この場合に有効となるのが、家庭単位といった個人的であれ、都道府県や市区町村といった地域単位の公的であれ、「備蓄」の食料となる。

3.2.3.2 地域主体の食料安全保障対策となる「緊急時対応」

国家的食料安全保障対策には、本稿第11.4で述べたように、被害レベルに応じた定量的対策となる「緊急事態食料安全保障指針,本編」が存在する。しかし、地域の視点に近い「緊急事態食料安全保障指針,局地的・短期的事態編」は定性的となり、他に食料安全保障に特化した計画・指針・マニュアル等の存在は確認できない。

そこで、地域の視点では、食料対策が整われているかをもって食料安全保障対策の「緊急時対応」としたい。これには、3.2.2で示した「地域防災計画」が妥当となる。地域防災計画は、防災基本計画を基に各都道府県、市町村での配備が求められ、その内容には食料に関連し「備蓄」に付随する項目が確認できる。

後に詳細を述べるが、備蓄には「家庭備蓄」「現物(公的)備蓄」「流通(在庫)備蓄」等、いくつかに分類でき、その性質や特徴、利点・欠点、主体による責務や役割によっても違いが生ずる。各地方公共団体に配備され、地域特性の違いを尊重され、地域版食料安全保障がある程度網羅されているため、比較検証できるのが地域防災計画ということになる。

しかし、ある程度定量的とするためには、いま一つ整理が必要となる。これを第2部と第3部で明らかにしていくこととする。

 

1部のまとめ

以上、地域における食料安全保障対策の考え方をみてきた。整理すれば以下のようになる。

1-(1) 緊急事態食料安全保障指針(本編)は、輸入依存度の高い日本の食料事情に鑑みた、全国的(マクロ的)・中長期的な対策となる指針であり、定量的性質をもつ。また、緊急事態食料安全保障指針(局地的・短期的事態編)は、突発的な災害等に対応するためのミクロ的対応指針であり、その度合いによって対応も変化することから、定性的性質となる。

1-(2) 食料安全保障指針(指針・局地短期編)では、「地域のニーズに配慮した食料の供給」により、地域では「健康・栄養状態に配慮」することが求められることとなる。

1-(3) 地域における食料安全保障を考える場合、国家全体の取り組みと各地域における取り組みとを区別し、対応を講ずる必要がある。

1-(4) 国家全体の取組における政府と地域の連携が生ずる食料安全保障要素で、地域の役割が必要となるのは「国内生産」「適切な備蓄」「緊急時の対応準備」の3つである。

1-(5) 地域が主体となる食料安全保障の要素としては、「備蓄」と「緊急時対応」である。

1-(6) 局地的な食料不足の想定は、自然災害・事故・パンデミック・武力攻撃の4つに大別でき、自然災害・事故・武力攻撃は、物流機能不全とライフラインの崩壊による調理不能事態に陥る可能性がある点で共通項がある。さらに、家屋の被害によっては避難を強いられる可能性もある。また、パンデミックでは外出できないことから家庭内の食料が不足する恐れがあり、いずれにせよ、これらの対応に有効なのは食料の「備蓄」である。

1-(7) 地域における食料安全保障を食料対策としてとらえた場合、「緊急時対応」には、「地域防災計画」が各地方公共団体に配備され、地域特性の違いを尊重され、ある程度定量的な比較検証ができるため妥当である。


 

2部 地域の食料安全保障対策「緊急時に有効な備蓄食料」

4章 備蓄食料の種類と特徴

4.1 地域の食料安全保障に必要な備蓄

備蓄とは、「備え蓄えること」であり、食料を備蓄しておくことは、非常時の際に命をつなげる役目を果たす。国家的食料安全保障の対策として食料の備蓄を考えた場合、狭義と広義の備蓄があり、狭義には食料そのものを蓄える直接的な備蓄と、広義には食料となる生産要素の耕地・生産者・種苗・生産技術・農機具・農機器・農業設備、さらには家畜もその肉体をもって、直接的には食肉として、間接的には肥料や労働力等の代用として食料と生産要素の備蓄となる [青山, 2015]

現在政府において「狭義の備蓄」にあたる食料の直接的備蓄は「米の在庫量100t程度を適正備蓄水準とした必要な数量」「外国産食糧用小麦を需要量の2.3か月分(うち1.8か月分は国による助成)」「飼料穀物を国で60t」となる[平成26年度,食料・農業・農村白書(第189回国会(常会)提出:38]。これらの備蓄数値が適正であるかは結論を導くに難しい。食料の持つ特性上、またコストの面からも長期保存の計画が立てにくいためである。よって、国家的食料安全保障対策では、「広義の備蓄」が重要となる [青山, 2015]

しかし、局地的な食料不足による緊急事態の場合、特に自然災害、事故、武力攻撃で想定される物流体制の機能不全と、ライフラインの崩壊、また家屋の損壊により一時的な避難をしなければならない等により食料が必要となる場合は、迅速な供給体制が不可欠となる(本稿第3章参照)。ここに地域の食料安全保障対策としての「備蓄」の必要性が生ずる。

4.2 備蓄の種類

4.2.1 公的備蓄の「現物備蓄」と「流通備蓄」

本稿、第33.2.3.2でも触れた通り、備蓄には「公的備蓄」と「家庭備蓄」との考え方があり、さらに、公的備蓄には「現物備蓄」と「流通備蓄」がある。消防庁では現物備蓄を「公的備蓄」、流通備蓄を「流通在庫備蓄」として取り扱っている。しかし、消防庁で用いる流通在庫備蓄は、後に説明するとおり、主として地方公共団体が契約を交わし、有事の際に利用することとなる。すなわち、契約の主体は「行政」となり公助的役割となる。従って、本稿では公的備蓄の中に二つの備蓄形態があることとし、混同を避けるために「現物備蓄」と「流通備蓄」に統一することとする。

では改めて説明すると、現物備蓄とは、食料そのものを直接的に倉庫や、避難所となる学校、公民館、病院等に保管されるものをいう [24]。政府の保管する備蓄米(以下、政府備蓄米とする)も公的・現物備蓄にあたるが、分散され保管されているものの、地域によっては届くまでに時間がかかる。

そのため、災害時等の緊急事態の場合には、当該地域の市区町村、都道府県のより住民に近い自治体によって備蓄されることが求められる。地域で保管される現物備蓄の利点は、発災等により食料が必要なときに届くまでの時間が短縮されるところにある。指定された避難所に現物食料が備蓄されていれば、その場で緊急配布も可能となり、一時的な難を凌ぐことができる。地域の食料安全保障を担保するには最大の利点であろう。

欠点としては、やはりコストがかかるため、所管する自治体の支払い能力に応じ、保存性のより高く、カロリーのより高い、低コストの食材が選択される傾向を持つところにある。いうまでもなく、食料のもつ性質により、賞味可能な期間は存在し、保存性の高い食材を選択することは、それだけ賞味期限による入れ替えを減らすことができるため、コストは安くなる。

また、食材にはそれぞれの持つ栄養素により、カロリーの高低があり、カロリーの高い食材を選択することは、それだけ人が活動するためのエネルギーに変換できる。これには糖質である炭水化物が有効であり、主食と呼ばれる米・小麦・いも等に多く含まれる。食材は、水分と空気によって微生物の繁殖を進行させるため、乾燥させ、密閉加工することで保存性が高くなる。よって公的な備蓄には保存性の高く賞味期限の長い、乾パン等が利用されることが多い。

流通備蓄とは、現実に食品や飲料水を購入・備蓄せず、有事の際に必要品目及び必要数を届けるといった契約を書面で行う方法である。これには、実際に食料が必要となった場合に取引が生ずるため、自治体としても食料の賞味期限を気にすることなく、保管料などのコストもかからないため、経済的かつ合理的な面が利点となる。奥田和子[『災害時における食と福祉』新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011145)]によれば、流通備蓄が利用される理由を、経済性、手間の省略、保管庫不足、備蓄不足の補完手段、住民の寛大な容認として、5つの項目をあげている。

しかし、欠点として、次のような指摘がある。@協定先が同一都道府県・市町村内部の場合、協定先も崩壊の危険性が大きいため役に立たない。A県市町などが他の自治体の協定と重複した場合、履行しにくい。B広域災害(東海・東南海・南海)の場合、同じく協定の実行が困難となる。C地震とパンデミック等が同時に発生する複合災害の場合は広範にわたるため、同じく協定の履行が困難となる [25]。D道路、橋、建造物などが崩壊した場合、運搬に支障をきたし配送が困難となる[奥田和子『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011145-146)] [26]

危機管理下の食料備蓄論、食文化論、食デザイン論等で多くの著書を残す奥田は、上記五つの欠点を指摘するとともに、実際に阪神・淡路大震災の際は、同一地域内での流通備蓄が役に立たなかったことを説明し、発災直後には機能しにくく、3日後位から機能する可能性を示唆する[奥田和子『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011185)]

いずれにせよ、公的備蓄には、指定された避難所で備蓄される食料以外は輸送が伴い、必要な場所へ、いかに早く届けられるかがカギとなる。そして、現物の食料が存在しない流通備蓄は、3日間程度機能しにくいため、この間飢えを凌ぐための現物備蓄が不可欠ということになる。

4.2.2 家庭備蓄の有効性

家庭備蓄は、家庭内において個人あるいは家族に必要な食料を、個々の家庭で備蓄する手法をいう。個人的な備蓄手法となるため、自治体としては強制することができない。しかし、食に対するニーズの多様化、病気やアレルギー等の体質による食事の制限、年齢や性別による食事の必要量等、公的備蓄に頼るのは限界がある。よって、個々の質・量・嗜好性等を満たすためには大いに有効となる。

また、食事の摂取内容による人体への影響からくる「二次災害」についての指摘がある [27]。公的備蓄では、本章4.2.1で示した通り、現在のところ「非常食」としての食料が多く、栄養価については重視されていない。乾パンやクラッカー等の主食系食料ばかりでは、たんぱく質や、ビタミン・ミネラルの微量栄養素不足による体調不良が生じ、中でも、被災者には野菜等に含まれる食物繊維不足によって便秘となる人が多いとされ、食料不足が長期化した場合に深刻な問題となる。

奥田は1日か2日であればそれほど目くじらをたてることもないが、たとえ3日間の栄養不足でも体調を崩せば元に戻りにくく、おろそかに考えないほうが良いとしている[奥田和子『働く人の災害食』(2008260-261)]

さらに、災害時には精神的なダメージから、ストレスによる被害も生ずる。巨大な不意打ちの自然破壊に遭遇すると、人々は大きなパニックに陥り、精神面での打撃、恐怖、痛み、悩み、不安が生ずる。これを奥田は災害時における「ストレス」としている。よって、本稿におけるストレスも同等に扱うこととする。この「ストレス」を受けると、脳の視床下部から副腎皮質刺激ホルモンが分泌し、副腎皮質からコルチゾルが放出され、ストレスと戦うために白血球を減らし、免疫力を低下させるといわれている[奥田和子『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(20063]

ストレスのみならず、免疫力低下はビタミン不足によっても起こる [28]。集団生活を余儀なくされる避難所において、免疫力低下は集団感染症を引き起こす可能性がある。さらに、災害等で心身に打撃を受けているところへ、生きるため、普段の生活へ戻るために活動しなければならず、これらのためには、自身の内面から湧き出る活力を復活させる必要がある。

食事には栄養を補給するだけでなく、ストレスを緩和する役目もある。奥田は、「ストレスをやわらげるため人々が求める災害食への要求」として、「普段食べなれた、温かい食べ物」であることを強調する [29]。また、調査によれば、「“さあ、心の傷をはねかえしてもう一度立ち上がるぞ”という勇気をよびおこすのが食べ物であった」としている。[奥田和子『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(20066]

ようするに、食事の影響による二次災害とは、栄養不足による健康障害等の人体への影響と、免疫力低下による集団感染症の危険性、さらには、活力低下による復旧・復興の遅れといった被害が起こる可能性を指す。この二次災害を回避するためにも、可能な限り栄養バランスを考慮した、ストレスをやわらげる効果のある食料を用意する必要がある。

家庭備蓄の最大の利点は、何といっても栄養バランスや普段に近い食事といった自分の嗜好に合うものを、必要な分量だけ備蓄できるところにある。これを担保するためにも各家庭における備蓄は欠かせず、最後の命綱ともなる。

 

5章 公共政策としての食料備蓄による地域の食料安全保障

4章において、公的備蓄と家庭備蓄の持つそれぞれの特徴と利点・欠点をみてきた。これをいま一度地域の食料安全保障として、公共政策の立場から、また、第1部でみたとおり、定量的に必要な事柄を整理せねばなるまい。

まずは食料備蓄の必要量である。本来であれば、公的備蓄の現物備蓄として、当該地域における住民数の3日間から1週間分程度の食料を備蓄しておくことが望ましい。しかも、調理不要ですぐに食せる、且つ微量栄養素や食物繊維を多く含む食料が必要である。そして、食料とともに必要なものが飲料水である。

ただし、これらを備蓄するには莫大なコストがかかり、自治体の支払い能力によっては大きな負担となる。そこで必要となるのが、「自治による住民の役割」とした家庭備蓄である。先に触れたように家庭備蓄は強制できない。しかし、「自治」には、本来「自分で自分のことを処置すること。社会生活を自主的に営むこと。」[『広辞苑』第六版]とあり、地方自治法(昭和22417日法律第67号)第十条2による「住民による負担分任の義務 [30]」を過大解釈することもできる。つまり、住民には社会生活を自主的に営むための役割として家庭備蓄を行う必要があるのである。

とはいえ、地方自治体はその自治の役割として、いかに住民へ家庭備蓄を啓発活動等によって浸透させるかがカギとなる。

また、流通備蓄を有効に活用することで、コスト削減と食事の内容を格段に広げることができる。ただし、流通備蓄は災害の程度によっては機能しなくなるため、流通備蓄だけに頼ることはできない。従って、現物備蓄と併用することで有用性を増すこととなる。以下、それぞれの詳細を説明していく。

5.1 地域の食料安全保障に関わる期間想定

現物食料の備蓄必要数量が3日間から1週間分と幅があるのは、災害等による被害範囲と地域性に食料確保事情の違いがあるからである。3日間分の備蓄必要数の根拠は、本稿4.2.1でも述べたとおり、流通備蓄が機能する可能性と、救援物資が届く可能性、さらに炊き出し実施の可能性を加味したものである。

奥田によれば、阪神・淡路大震災(1995)では食料の備蓄が少なかったため困窮状態の長期化がみられたが、新潟・中越地震(2004)では一部食料不足が生じたものの3日目に炊き出しがみられたという。そして、新潟・中越沖地震(2007)において最も被害人口の多かった柏崎市では、備蓄された食料はほぼ利用されず救援物資によって3日間を乗り越え、その後は食料の目途が立ったとされている [31]。すなわち、阪神淡路大震災以降の10数年の間に災害に対する備えも変化したため、発災から3日間を乗り切るための各地域の対策が食料安全保障上の最低ラインとなった [32]

ところが、東日本大震災による被害がこの想定を大きく変えた。別府によれば、2011319日の時点で発災から1週間経過したにも関わらず、物流停滞の混乱により救援物資の届かない避難所が存在し、食料不足が起こったことを明らかにしている[別府茂『災害時における食とその備蓄』(201416)]

さらに奥田は、東日本大震災による食料混乱事情の検証をもとに、4段階の時期による災害食の変化をまとめている。これによれば、大混乱期:発災1週間まで、混乱期:2週間から3週間まで、炊き出し期:1か月後、行政から弁当配布・食料店開店:1~3か月後に区分されている。そして、東日本大震災では発災から1週間は大型の余震が続き、とても煮炊きする料理はできなかったとして、手から口へすぐに運ぶことのできる食料が優れていることを示している[奥田和子『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201146-48)]

もっとも、この第1段階である大混乱期は、ライフラインの損傷によりガス・水道・電気は使用不能となる可能性が高く、また生鮮食品も入手困難なため、調理を見込むのは得策ではない。この考えに従えば、別府による、被災時のライフラインの影響によって変わる3段階のステージがわかりやすい[別府茂『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2006118)] [33]

これら奥田と別府の指摘や、参考文献による震災下の食料供給状況をまとめ、さらに筆者本人の経験と調査をもとに作成したのが表2-1「震災等災害による想定被害レベル毎の期別日数と適合食料等系図」である。

表の縦軸にある1から3のレベルは被害の大きさとして、どの程度の範囲に被害が及ぶかを表している。この被害レベルでは、避難指示が出され、家屋の損傷が激しく、住民が避難所等へ避難を余儀なくされる状況を想定している。

 被害レベル1は、被害は甚大だが範囲は市区町村内の一部にとどまる災害等を想定し、2015910日に起きた「平成279月関東・東北豪雨」を例としている。また、被害レベル2は、都道府県のうち、いずれかの全域に近い被害が及んだ災害等を想定し、1995117日の「阪神・淡路大震災」を例にしている。そして、被害レベル3は、都道府県をまたがりさらに広域的な被害を想定し、2011311日の「東日本大震災」を例としている。

5.1.1 被害レベル1

被害レベル1では、被害甚大な地域が市区町村内全域、または一部に集中するため、同市区町村内、もしくは同都道府県内の近隣する他の市区町村への影響が少ない。このことから、近隣からの物資調達や支援が受けやすい状態にあり、また、ライフラインの復旧作業も比較的早期に回復する可能性が高い。従って、発災当日の大混乱期から市区町村内の(自治体による)災害対策本部等や、最悪でも都道府県といった住民に近い自治体による災害対策本部が機能する可能性があるため、混乱期、復旧期は同時に進行する、あるいは安定期の早期実現が見込める。

「平成279月関東・東北豪雨」において、鬼怒川の堤防決壊により甚大な被害を受けた茨城県常総市を例にとれば、常総市新石下にある市地域交流センターでは約1,000人が避難することとなり、新聞紙面によると「11日朝までの食料は災害用クラッカーが各世帯に約30枚配布されただけ。飲料水は当初、高齢者と幼児しか配られず、脱水症状の人のみ、コップ1杯の水を口にできた。」として、発災当日の避難所における大混乱ぶりと食料不足を報じている[毎日新聞,2015.9.11]

しかし、翌日の報道では、「11日は、地元の住民によって初めて炊き出しが行われ、夜には手作りのおにぎりやからあげ、焼きそばなどがふるまわれ、食べた人たちは「温かいものを食べられるのは、ありがたい」と話していた。」[FNN-NEWS,2015.9.12]や、JAつくば市谷田部の避難所において「11日はJA女性部員や役所員がおにぎりとみそ汁の炊き出しを行い、市役所の避難者分なども含め、昼食時には合計1000人分のおにぎり3,000個を作った。飲料水や毛布なども配った。」[日本農業新聞enet,2015.9.12]等があることから、住民による自助的、あるいは公的契約に基づく避難支援が機能したことを示している [34]

ライフラインについても、発災から6日目となる916日には電気が全面復旧し、水道は発災から4日目となる914日に石下東部浄水場(石下地区)の仮復旧が発表されている[常総市,ライフライン情報,2015.9.24]。また、避難指示・勧告は、堤防の仮復旧工事の終了を受けて、925日にすべて解除されている。その時点での避難中の被災者は951人で、家屋の被害が激しく自宅に帰れない住民は存続した。

5.1.2 被害レベル2

被害レベル2では、局地的な被害の範囲が都道府県レベルまで達するため、当該都道府県内の物流機能は一時的に麻痺する可能性が高い。被害範囲が広く被災者数も圧倒的に多数となるため、避難所数は増加し情報も錯綜する。従って、発災から数日は大混乱期が続き、どこに・誰がいて、どこで・何が不足しているかの把握が遅れることとなる。当然に食料も供給されないため、頼みの綱は家庭内にある食料と現物備蓄となる。しかし、近隣の都道府県では災害等による影響が比較的少ないため、情報が整理され、災害用の緊急輸送道路が確保されるようになれば、ある程度の物資が避難所へ運ばれる可能性が出てくる。

阪神・淡路大震災では、食べ物や飲み物のない日が約2週間続き、約2か月経過したころに水道の復旧と、ガスの約9割復旧をもって安定期を迎えた [35]。先の5.1で示した阪神・淡路大震災(1995)から新潟・中越地震(2004)、新潟・中越沖地震(2007)の変遷をみると、阪神・淡路大震災を契機に政府・各地方自治体の災害対策への考え方・取り組み方が変わったとことが窺える。

実際に被災者10.3万人に上った20041023日の新潟・中越地震のアンケート調査では、地震発生翌日から1週目における食事の内容は「もっぱら支給されたおにぎり・パン」や「炊き出しによる汁物・カレーライス・雑炊」等であり、流通備蓄や自衛隊による早期支援、さらに共助による取り組みのあったことがみられる[松井克浩『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(200691)]

しかし、東京都が被害を受けることとなる首都直下型地震発生の場合は、被害レベル3を想定したほうが良いであろう。東京都の想定する東京湾北部地震発生時には、死者約9,700人で避難者はピーク時約339万人に上ると推定され(M7.3,冬の夕方18時・風速8/秒)、東北地方4県に甚大な被害をもたらした東日本大震災(死者数18,579人・最大被災者数47万人)と比較すると、死者数こそ半数だが、避難者数約339万人は東日本大震災の被災者数を大きく超える被害数値となる [東京都防災会議, 2012]

これは先に述べた地域性を表すものである。都市圏と地方圏では人口・建物の密集率等の違いや、昼間人口の違いによる帰宅困難者数への影響など、災害等によって受ける被害の影響は、地域によって大きな違いがあることを表す。

5.1.3 被害レベル3

被害レベル3では、東日本大震災を想定しており、その被害は都道府県をまたがり広く影響を受けるため、情報の集積、交通・物流システムの混乱によって、第1期から第2期への移行期間に3日から7日の時間を要する。

実際には2週間程度物資の届かない地域もあったが、これは今まで経験したことのなかった未曽有の震災による対応不足の結果であり、別府の調査によれば、発災から1週間ほどで多くの支援物資が被災地に集まりはしたものの、避難所への分配がなされなかったことが浮き彫りとなっている[別府茂『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201416-18)]

また、ライフラインの回復は電気が最も早く、約1週間までにほぼ85%回復し、ガス・水道に関しては被害戸数が多く被害の甚大な地域では2か月経過しても全復旧できないところもみられた[奥田和子『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201458-59)]。やはり、広範な地域への打撃は近隣からの支援を期待できず、それだけ大混乱期の第1期から収束期となる第5期までに時間を要することとなる。

従って、ここで明らかとしようとする備蓄食料の現物備蓄必要期間は、3日から1週間(7日)ということになる。

5.2 備蓄食料の質と水

食料安全保障の視点で考えた場合、被害想定は最悪の場合を考慮すべきである。であるならば、被害ステージ3(表2-1参照)を想定し、備蓄食料も長期化を視野に入れ準備すべきであろう。長期化の準備とは質の考慮であり、第1期及び第2期にそれぞれ適合する備蓄食料を、可能な限り栄養価に考慮し選択するということである。

5.2.1 第1期の食料と水

1期に求められるものは、とにかく簡便で配布が容易く、すぐに食べられる食料が求められる。表2-1中の被害想定は、すべてライフラインが停止すると考えられている。そうであれば、火を使い煮炊きするなどの料理はまず不可能となる。ステージ3で(東日本大震災のような)地震被害の場合には、大きな余震が続き、仮に火が使えたとしてもゆっくりと料理をしている余裕もない。そして多くの家屋は被害を受け、避難を余儀なくされることとなる。

ある家庭では家屋の損壊によって、せっかく備蓄しておいた食料も携帯できずに家を飛び出してくる被災者もあろう。中には災害の中ようやく救出され避難所へたどり着く被災者もあろう。本来であれば温かいものを食したいところであるが、災害直後の大混乱期である。まずは空腹を満たすだけでもありがたい。このとき、幸いにも避難所が備蓄食料保管場所であれば、少なくともその保管された食料を口にすることができる。ここで役立つ食料が、個々の被災者に対し、容易く配布可能で、箸やスプーンなどを利用せずに食せるものということになる。

そして長期化に備える第1歩として、体調を崩さず、活力を落とさない努力と気構えも必要となる。つまり、二次災害の回避に備え、栄養価等に考慮した、おいしいと感じ、比較的食べやすい食料を初期からとれるようにすることが必要となる。さらにいえば、同じものだけでなく変化が楽しめる工夫もほしい。

結論からいえば、全粒粉入りのクラッカー・乾パン・ビスケット等、シリアルバー含む個装のシリアル類、レトルト粥、オープナー不要な缶詰・瓶詰の副菜や果物、真空パックのドライフルーツ等と、飲料水の現物備蓄である。奥田によれば、味付けは薄めで、加えて個装や缶詰にしたお菓子があるとよいとしている [36]

全粒粉入りのクラッカー等とは、炭水化物が主となりカロリーを確保できる他、小麦の胚芽も含め製粉するため、ビタミン・ミネラルが胚芽なしのものと比較すると栄養価が高い。シリアル系にはビタミン・ミネラルの他、食物繊維を多く含むものもあるため、災害食としては万能である。レトルト粥は高齢者や幼児に適するが、その他にも災害の影響で食欲をなくす被災者も多いため、流動食は不可欠である。副菜は栄養価のみならず食事の幅を広げ、果物の甘味は疲れた体と心を癒す効果を持つ。

奥田のいうお菓子も甘味の効果に含まれ、さらに味付け薄めの指摘は体への負担もさることながら、濃いめの味付けはのどの渇きを促進するからである。お菓子には、煎餅、チョコレート等も含み、癒しの他にもカロリー確保へ貢献する。特に甘いものは癒しと脳の働きに最適であり [37]、この点でいえば、登山で重宝とされるチョコレートやキャラメル等の甘いお菓子は効果的であり [38]、また、ジャムやピーナッツバター等の保存もカロリー摂取や癒しとともに、クラッカー等を食べやすくする効果がある。

3部で詳細するが、現在地方公共団体で備蓄される食料は、乾パン、クラッカー、アルファ米、レトルト粥等が多い(表-巻末1参照)。この中で、アルファ米は第1期ではお湯がないため食べることができない。正確にいえば、水でも食べることが可能であるが、調理時間(待機時間)に約60分を要する。すなわち、時間が必要なため第1期食には合わないということである。

すると、さっと配れてすぐに食べられる食料は、乾パン、クラッカー、レトルト粥ということになるが、乾パン、クラッカー等はパサつき感が強いため、高齢者には不向きとなる。第3ステージのような大災害時に、初日は食べるものがなく食べられればありがたいと思うものも、1週間食べ続けると、食の多様化が進み普段から様々な食材を口にする我々日本人は飽きがくる。この飽きは活力の疎外となる。いいたいことは、乾パン等がダメなのではなく、食事に変化をつけられるよう、ある程度品目を変えて備蓄しておくことが望ましいということである [39]

そして何より水である。第1期では水道が止まるため、飲料水の確保は困難となる。阪神・淡路大震災では、この飲料水の備蓄もなかったため、飢えよりもまずのどの渇きで苦しんだとされる。現在では飲料水の備蓄や給水所・給水車等の確保等、飲料水に関する緊急対応について地域防災計画等にて計画されているところは多い。加えていえば、そのような貴重となる水で手や食器などを洗うことができにくい状態となる。そのためにも、箸や食器等不要の簡便な食事が第1期には必要なのである。

この飲料水は、紙コップ等の食器類が保管されていないのであれば、ペットボトルで個人または家族ごとに配布可能な状態であることが望まれる。

5.2.2 第2期の食料と水

2期と第1期の違いは、ライフラインのうち電気の回復を見込める点にある。電気が回復すれば、電動式調理器具によってかなり料理の幅が広がる。電子ジャーによる炊飯、ホットプレート活用による焼き物・煮炊き物、電子レンジやトースター利用による温め・グリル等、そして何より、電気ポットによって湯を沸かすことができる。

湯を沸かすことで食事の幅はさらに広がる。アルファ米(湯の場合には約15分で食事可能)、即席めん・即席みそ汁、フリーズドライ化された各種食料、そしてお茶等の温かい飲み物がここでようやく食せるようになる。奥田によれば、「被災者は目に見えない多くのストレスを抱える中、一瞬のささやかな安らぎと癒しを求めていた。その癒しを与えたのは、温かいご飯と一杯のお茶であった。」と記す [40]。温かい食事は何よりのご馳走となることが窺える。

また、流通備蓄が機能する可能性や災害援助の届く可能性は、ステージ1とステージ2の場合、比較的早期に実現する可能性は極めて高いが、ステージ3ではあまり期待できない。期待できないというのは、物資に偏りがある、または、必要なものが、必要なときに届かない、あるいは届いた物資が把握されず分配できないといった可能性が高いということだ。

地域によってもまちまちで、物資が届くところと届かないところは明確に分かれた。これは避難所をまとめる人間がいたかいないかによって影響を受けることも指摘される [41]。つまり、必要な物資を整理し、その情報を発信し、届いたものを整理し、分配するといった行動がとれていたかどうかによって命運を分ける。

さらに、届いたとしても、レトルトカレーは届いたが、ご飯がないといった相棒不在なバラバラの状態で届くため、救援物資は役立ちにくい指摘もある [42]。よって、第2期の備蓄食料についても第1期の延長として捉え、且つ温かい食事ができる環境を整えておく必要があるだろう。避難所にて電気で湯を沸かせる設備となる電気ポット等は備えておきたい。

5.3 家庭備蓄の必要性と自治体対応

2-1において現物備蓄の必要な期間は、被害レベル11日、被害レベル23日、被害レベル37日であったことをみてきた。最悪の場合を想定し、7日として考えた場合、朝昼晩の3食を提供するとすれば21食分の食料が必要となる。これに住民数を乗じた数が当該地域の食料安全保障上の現物備蓄数となる。果たしてどれだけのコストがかかるか。

5.3.1 公的備蓄の日数想定

杉並区を例にとれば、人口は約54万人なので年齢等を考慮せず計算すれば、54万人×21食で1,134万食が必要ということになる。ここで仮に1食分として、乾パン1238円(メーカー直販価格)[43]、缶詰1162円(メーカー参考価格)[44]、飲料水100円(参考価格)[45]を想定すれば、1食分あたり500円となる。これを先の1,134万食で乗ずると56.7億円が杉並区の現物備蓄食料に対する大雑把な費用ということになる。

杉並区の平成27年度予算(当初)一般会計歳出の総額は1,658億円なので、この額は3.42%を占める額となる。この数値だけみれば何とかなりそうな額だが、歳出額1,658億円の内、杉並区の事業費(投資事業除く既定・新規・臨時の総事業費)は1,144.5億円なので、事業費の約5%を占め、他の事業比率と比較した場合、あまり現実的ではない [杉並区, 2015]。しかも、想定で計算した食事で摂取できるカロリーは約500kcal(乾パン1410kcal+缶詰1缶約83kcal,脚注43,44参照)で、3食配布できたとしても総カロリー約1,500kcalと、人間が1日に摂取したい2,000kcalには及ばない。

京都大学防災研究所の林春男[『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011189)]による「人口の10%11食で3食(3日分)」という考え方もあるが、阪神・淡路大震災を例にとった「被災地全体の人口350万人に対し、避難者が33万人であったため、ならすと10%」とすることに、実際の避難率35%であったこと、また都市型災害には帰宅困難者も居合わせる可能性のあることを考慮するとあまり賛成はできない。仮に現実的な予算化のため限定的処置として3日を肯定したとしても、やはり、13食で2,000kcalは死守したい。

だとするならば、奥田のいう「食料備蓄の現状はなかなか進みにくいが、だからといって諦めるのではなく、コツコツと積み重ねる各人の小さな努力こそが減災の力になる。」という考え方を推進したい[奥田和子『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011183-184)]。ここでいう「各人」とは、自治体のみならず、地域における企業等の事業所や、さらに「家庭」における各人が含まれる。つまり、各人がコツコツと備蓄していくことが大切なのである。

5.3.2 公的備蓄の限界を超えるために「食料備蓄計画」が起爆剤となる

「各人」が「コツコツ」と備蓄することに関し、もう少し具体的に示したい。まず「コツコツ」を先に説明すると、これは計画的・段階的に食料を備蓄していくことに尽きる。仮に3日間の食料9食分が現物備蓄目標数値であるとすれば、これを何年計画で実行していくのかといった食料備蓄計画を設定するのである。市区町村では、この「計画設定を議論する場」を設置されるか否かが重要な二つの意味をもつ。

一つ目は、予算化に向けた実質的な議論の場となること、そして、二つ目は、予算化できない不足現物備蓄を補完するための対案として、「各人」への役割分担を明確化させ促進させる起爆剤となることである。

一つ目の「予算化に向けた実質的な議論の場となること」は説明するまでもなく、これにより食料備蓄が実施されるため、直接的な地域における食料安全保障への貢献となる。

二つ目の「各人への役割分担を明確化させ促進する起爆剤となること」とは、議論をとおし、食料不足の緊急事態想定によって危機感が発生する中、各人の役割分担が可視化され、緊張感のもとその働きが促進されることを意味する。

食料安全保障が日本に浸透しない一つの要因は、現在の日本において食べるものに困らず、むしろ大量な食品ロスのある飽食国家の国民であることがあげられる [46]。飽食状態は食料がないことに対する不安を希薄にし、危機意識が低下する。食料備蓄計画は、この想定外となる希薄化された食料不安を想定することから始まる。

想定された食料不足により、地方自治体(この場合は基礎的自治体となる市区町村)は危機感とともに相当する食料の備蓄を目論むが、支払い能力により理想と現実とのギャップが生ずる。理想とする備蓄数量に達する経済力のある自治体はよい。しかし、多くの自治体では、先の杉並区の例でみたとおり厳しい現実をみることとなろう。この場合、目標に対しコツコツと努力をする一方で、いつ起きるかわからない有事に対し緊張感が生ずることとなる。

ここで改めて「各人」を説明すれば、住民・事業所等の民間と、市区町村・都道府県・政府があてはまる。この各人に対し、食料備蓄計画をとおした予算化の中で、予算化できず不足する必要な食料等を、当該市区町村では提供できないことに対する「対案」として、民間へは危機管理を促し、公的には都道府県、あるいは政府で備蓄する食料をどのように調達していくかといった議論へ発展させる。

つまり、食料備蓄計画の議論によって生ずる危機感が起爆剤となり、緊張感を伴う役割分担の明確化が、それぞれの役割を促進させることとなるのである。

先にも記したが、家庭備蓄については個人的な備蓄手法であるため、「自治としての住民の役割」があるにせよ、行政の介入による強制はできない。しかし、家庭備蓄における有効性や必要性を告知し、啓蒙・啓発することは可能である。現物備蓄であれ、流通備蓄であれ、個人の嗜好に合った食料を行政がすべて提供するのには限界がある。ここに行政として、住民への災害に対する「気構えの醸成」といった役割が生じ、食料備蓄計画の議論は、そのための周知における起爆剤へとなる。これは企業等各種団体の事業所などにも等しい。

また、被害レベルの説明でもみたように、情報が整理され、復旧が進み、混乱が解消されていくと、発災時には家や避難所等、自分の生活範囲でしか物資を調達できなかったものが、日毎その範囲は広がり、他の地域から食料等物資の届く可能性が広がる。そうであれば、市区町村のみならず、都道府県においても市区町村を補完する役割として、ある程度備蓄しておく、もしくは、当該市区町村以外の他市区町村を所轄する広域地域として連携体制を整備しておくことが望ましい。ここに「各人」としての都道府県の役割が追加される。

この都道府県が市区町村を補完する立場となる場合、都道府県では市区町村の備蓄する食料品目・数量を把握しておくべきであろう。市区町村が災害等によって食料不足となる緊急事態の場合、当該市区町村とともに、もしくは代わって指揮を執ることとなる当該地域の都道府県が全体総量と品目を把握していなければ、どこに・どれだけを・どのように分配するといった指示が出せず、市区町村を補完する役割を達成することはできない。

また、災害等による緊急事態の場合には、被災した市区町村の都道府県内よりも隣接する都道府県からの援助を受けた方が早い場合もある。この事態を想定すれば、近隣都道府県または市区町村の備蓄状況も確認しておくことが必要となる。さらに広域備蓄として、政府備蓄米等の利用を検討することへもとつながる。政府備蓄米を利用する場合は、農林水産省によりその手順が定められているので、その手順はもちろんのこと、大切なのはどこに保管され、どのように届くかを把握しておくことである。これらが食料備蓄計画の議論により可視化されるということである。

しかし、残念ながら都道府県は各市区町村の備蓄数量を把握できているかについて疑問が残る結果となっている。この件については、広域地域における都道府県の市区町村備蓄状況の把握必要性とともに、改めて第3部第9章においてふれる。

5.3.3 「最後の各人」による家庭備蓄への呼びかけ

現物備蓄にはコスト面だけでなく、食料を保管するスペースにおいても限りがあり、現物備蓄の発展を阻害する。これを守茂昭[『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201436)]は「防災備蓄倉庫の限界」として、平常時の消費生活において被災対応の機能を兼ねることがこの限界を超えるカギとなることを示唆し、平常時の需給サイクルに非常時の需要を含む形が望ましいとする。

自治体によっては、ランニングストックと呼ばれる備蓄形態を実施するところもある。ランニングストックとは、備蓄専用とするのではなく、平常時にも活用できる食品を個人、あるいは家族分の災害時等の必要数量を買い置き、普段の食事に利用しつつ、常に必要数量は確保しておく備蓄方法である[『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2006117-118)]

守の指摘する需給サイクルは、このランニングストックに匹敵することとなろう [47]。「最後の各人」となる「住民」にとっても、「備蓄」を食生活の中に取り入れ、消費しながら蓄えておく手法は無理なく「コツコツ」できる手段となる。

ランニングストックを応用した形として、東京都では「日常備蓄」として日頃利用している食品を多めに購入してくことの必要性とともに、生活必需品も含めた家族それぞれの嗜好に合った食材を考慮し、リスト化させ、それぞれの家庭にあった備蓄品をパッケージ化させる「備蓄ユニット」として揃えることの必要性を強調している[『東京防災』:85,88-89]。

3部において確認することとなるが、東京都の備蓄数量は全国で一番多い。しかし、住民数も全国一番となる東京都では対人口比にした場合、都・市区町村合わせ1食分程度の現物備蓄量でしかない(表‐巻末1、及び表‐巻末2参照)。やはり最後は「各()人」が「自分の身は自分で守る」といった災害の大原則に従い、思考を巡らせ備蓄していくことに尽きるのである。

5.4 流通備蓄の必要性と併用による可能性

自治体の経済的制限を考慮すれば、流通備蓄に関しては賛否あるものの、その存在は否定できない。現に被害レベル1では発災翌日から機能するため、被災者はより鮮度の高いものを食べることができている(第55.1.1)。しかし、被害レベル3では機能するのに時間がかかる。要は、現物備蓄と流通備蓄の併用によって食料安全保障を確立させることが望ましい [48]。そして、流通備蓄は契約における内容を吟味することが必要である。

契約内容の吟味とは、契約する企業等の団体と内容、そして地域である。企業等の団体と内容(必要な食料等の品種・品目)はリンクする。なぜなら、企業の業態により取り扱う商品は異なり、商品を選択することはその取り扱う企業等を選択することとなるからである。そのため、必要な食料等の内容を吟味したうえで、適した企業等の団体と契約をしなければならない。

必要な食料等とは、現物備蓄ではコスト面・保存性の問題から保管できない食料、及び、大混乱期(第1期)では調理できないが、第2期以降通電等ライフラインの回復に伴い調理可能となる食材を使った食料のことである。具体的には、おにぎり・パン・即席めん等の主食と、野菜・肉・魚等を加工し、あるいは調理不要で食べられる生鮮食材等の副菜といった、主食とおかずの組み合わせが可能となる食料を用意したい。レベル1となる大混乱期対応食は保存性を重要視するため、どうしてもバリエーションが少なくなり、栄養素も偏りがちとなる。従って副菜には野菜を多く取り入れた食料が望ましい。さらに、果物・乳製品等からビタミンやカルシウムを含む食料も用意したい。

これらの必要食料を吟味したうえで、取引可能な企業等の団体と交渉することとなる。ここで注意すべきことは、当該地域に根差し且つ当該地域内に複数の店舗ないし保管庫を保有する中小規模のうち食料等を取り扱う企業(以下、地域型中小企業とする)と、全国規模で食料等を取り扱う事業を展開し各地域に複数の店舗ないし保管庫を保有する大型規模の企業(以下、全国型大手企業とする)と、双方の契約が必要であることだ。

地域経済を考慮すれば、地域型中小企業との契約が望ましい。しかし、その場合、レベル23の非常事態に対応することは難しくなる。そこで全国型大手企業との交渉も不可欠となる。これによってレベル1による契約履行が必要な場合は、地域型中小企業を利用することで地域経済の持続性も考慮し、レベル2以上の被害によって対応が不可能であれば、さらに全国型大手企業へ発注することで難を乗り切ることができる可能性を残せる。

「可能性を残せる」としたのは、全国型大手企業は在庫を抱えることによるコスト削減を目指すため、ジャストインタイム方式により必要な商品を必要な分だけ在庫として保管するケースが多い。従って災害等により必要となる多量な食料等が十分に揃わない可能性もある。このため、契約時にはその在庫保有と物流システムを確認することも重要となる。その意味でも地域型中小企業と全国型大手企業の双方との契約が必要となる。

また地域の吟味とは、団体との契約の吟味と同様、レベル2以上の災害等によって当該地域の団体が対応不可能な場合に備えることを意味する。この場合は少し地域を広げる必要がある。先の東日本大震災のような災害では、近隣都道府県も被害を受ける可能性があり、対応不可能な場合も想定できるからである。これは企業等の団体の吟味とリンクする。

このように、緊急時の際に提供できる食料の内容を吟味したうえで、企業等の団体と地域性を考慮し契約することで、流通備蓄はレベルによって現物備蓄を保管する役割の可能性を格段にあげる。そして現物備蓄と併用することでコスト削減と食事の内容を広げることができ、有用性を増すこととなる。ただし、流通備蓄は災害の程度によっては機能しなくなるため、流通備蓄だけに頼ることはできない。

 

 

2部のまとめ

2-(1) 備蓄には、現物備蓄、流通備蓄、家庭備蓄に分けられ、それぞれの持つ特性に応じ使い分けることで、地域にあった食料安全保障体制が確立できる。

2-(2) 過去の災害等による経験から、打撃を受けた地域では、発災より「大混乱期」「混乱期」「復旧期」「安定期」「収束期」の5期に区分され、被害レベルを1から3で想定すると、それぞれのレベルによって日数的な期間に違いがみられ、さらに、ライフラインの復旧度合いによって食べられる食料が変わる。

2-(3) 「大混乱期」では現物備蓄と家庭備蓄のみが頼りであり、「混乱期」になると電気の使える可能性と、流通備蓄や救援物資の届く可能性から食事の幅が広がる。

2-(4) 地域住民に最も近い自治体である市区町村では、公的備蓄のうち現物備蓄は、地域の食料安全保障上不可欠であり、被害レベル想定によって3日から7日分は備えたい。且つ、調理不要ですぐに食べることができ、微量栄養素や食物繊維を多く含む食料と、飲料水が必要である。

2-(5) しかし、公的・現物備蓄には多大なコストがかかるため、「コツコツ」と備えるために、食料備蓄計画等の議論を通して、「各人」としての家庭備蓄の推進、都道府県・政府等の役割分担の可視化をすることで、実現可能な食料安全保障体制を整備することとなる。

2-(6) 公的備蓄には個人の嗜好に合った食料をすべて提供するのには限界があり、また二次災害を回避するためにも可能な限り栄養バランスを考慮した、ストレスをやわらげる効果のある食料を用意する必要がある。従って、栄養バランスや普段に近い食事といった自分の嗜好に合うものを、必要な分量だけ備蓄できる特性のある家庭備蓄を推進することが自治体のできる食料安全保障対策となる。

2-(7) 流通備蓄を有効に活用することで、コスト削減と食事の内容を格段に広げることができる。ただし、流通備蓄は災害の程度によっては機能しなくなるため、流通備蓄だけに頼ることはできない。従って、現物備蓄と併用することで有用性を増す。


 

3部 地域の食料安全保障「緊急時対応」〜地域防災計画〜

1部でみたとおり、地域が主体となる食料安全保障対策の要素は、「備蓄」と「緊急時対応」であり、緊急時対応には「地域防災計画」が各地方公共団体に存在し、その内容には食料等の「備蓄」に付随する項目が確認でき、ある程度定量的分析が可能となるため妥当である。よって第3部では、各地域の緊急時における食料対策を、地域防災計画によって分析することで現状の問題を指摘したい。

なお、本稿における目的は、食料安全保障というマクロ的課題に内在する、ミクロ的問題の整理によって、地域の食料安全保障を追求し確立することにある。このマクロが国家であり、ミクロが市区町村であるとすれば、都道府県はその中間に位置するメゾということとなる。表21で確認したように、突発的自然災害の被害レベルは、東日本大震災によってその段階をあげ、地域の範囲を広げることとなった。各被害レベルに対応するには、メゾとなる都道府県がいかに市区町村の防災対策に関わっているかが重要となる。

そこで本稿第3部では、各都道府県の地域防災計画から、都道府県と市区町村における備蓄状況とその関わりを主として分析することとする。

 

6章 地域防災計画における論点

6.1 地域防災計画とは

6.1.1 地域防災計画の食料対策

地域防災計画は、災害対策基本法(昭和361115日法律第223号)第四十条(都道府県地域防災計画)及び第四十二条(市町村地域防災計画)により、防災基本計画に基づき、当該都道府県、または、当該市区町村の地域に係る防災計画を作成することとされ、地域の実情に照らし、防災に関する対策が示されているものである。

この基となる防災基本計画は、地域防災計画において重点をおくべき事項が定められ、第7節「物資の調達,供給活動」の中で、「被災者の生活の維持のため必要な食料,飲料水,燃料,毛布等の生活必需品等を調達・確保し,ニーズに応じて供給・分配を行えるよう,関係機関は,その備蓄する物資・資機材の供給に関し,相互に協力するよう努める」[防災基本計画,平成277月:68]ことが示され、各地域の防災計画にも食料等の備蓄に関し反映されることとなる。

さらに、この食料備蓄も含まれる物資の調達活動では、「時間の経過とともに変化することを踏まえ,時宜を得た物資の調達に留意するものとする」とされる。すなわち、表2-1で確認できる第1期から第5期の適合食料は、被災地の生活維持において留意されるべきものに含まれることとなる。

6.1.2 災害対策基本法における地域それぞれの責務

地域防災計画の法的根拠となる災害対策基本法では、第二条の二の「基本理念」に基づき、国、都道府県、市区町村(原文は市町村、以下原文を用いるときにはその原文に従い、各都道府県全般について論ずるときは特別区も含まれるため「市区町村」、都道府県の中で特定される都・道・府・県に該当する市・区・町・村がある場合は、その該当する「市・区・町・村」を記述する)のそれぞれに「責務」として役割があり、さらに、「住民等の責務」も設けられている。

それぞれの役割は、すべて「基本理念にのっとり」責務を果たすこととされている。その基本理念には、第二条の二第四項において物資に関わる項目があり、「災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであっても、できる限り的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分することにより、人の生命及び身体を最も優先して保護すること。」とされている。

これに基づき国の責務は、第三条1項により「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することに鑑み、組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有する。」こととされ、続く2項に「前項の責務を遂行するため、災害予防、災害応急対策及び災害復旧の基本となるべき計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、地方公共団体、指定公共機関、指定地方公共機関等が処理する防災に関する事務又は業務の実施の推進とその総合調整を行ない、及び災害に係る経費負担の適正化を図らなければならない。」とされている。

そして、都道府県の責務は、第四条1項に「当該都道府県の地域並びに当該都道府県の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、その区域内の市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う責務を有する。」としている。

さらに、市町村の責務は、第五条1項に「基礎的な地方公共団体として、当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する」とされ、続く第2項に「市町村長は、前項の責務を遂行するため、消防機関、水防団その他の組織の整備並びに当該市町村の区域内の公共的団体その他の防災に関する組織及び自主防災組織の充実を図るほか、住民の自発的な防災活動の促進を図り、市町村の有する全ての機能を十分に発揮するように努めなければならない。」としている。

また、「住民等の責務」として、第七条第3項に「地方公共団体の住民は、基本理念にのっとり、食品、飲料水その他の生活必需物資の備蓄その他の自ら災害に備えるための手段を講ずるとともに、防災訓練その他の自発的な防災活動への参加、過去の災害から得られた教訓の伝承その他の取組により防災に寄与するように努めなければならない。」とされている。

6.1.3 地域防災計画の作成と修正

災害対策基本法では、地方防災会議の設置に関する条項が定められ、第十四条第一項では「都道府県防災会議を設置する」こととされ、第十六条第一項に「市町村防災会議を設置することができる」とされている。つまり、都道府県では防災会議の設置を義務付けられ、市区町村は任意ということになる。

ただし、市区町村の任意による防災会議の設置については「市町村防災会議を設置することが不適当又は困難であるときは、第一項の規定にかかわらず、市町村防災会議を設置しないことができる。」(第十六条第一項3)とされ、都道府県知事に対する報告義務が課せられている(第十六条第一項4)。現在、市区町村防災会議は、平成26 4 1 日現在において1,686 市区町村によって防災会議が設置されている [消防庁(防災課・地域防災室・応急対策室・防災情報室), 平成271]

地域防災計画は、基本的にこの防災会議によって作成及び修正される。この修正に関し、災害対策基本法では「毎年検討され、必要と認めるときは修正しなければならない」としている。また、修正が施された場合は、都道府県地域防災計画については「内閣総理大臣に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。」(第四十条第4項)とされ、市町村地域防災計画については「都道府県知事に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。」(第四十二条第5項)とされている。

この「報告義務」と「公表義務」は、後に説明する「都道府県の市区町村備蓄状況把握」に対し多少なりとも影響を与えている。

6.1.4 「地方防災行政の現況」による地域防災計画の把握

地方防災行政の現況(付平成25年災害年報, 平成271月消防庁:防災課・地域防災室・応急対策室・防災情報室)とは、都道府県及び市町村における防災会議、防災計画、防災訓練、情報連絡体制、防災組織及び震災対策等の防災体制の基本となるべき事項について調査し、今後の国及び地方公共団体における防災行政の企画立案、及び地方公共団体相互の情報交換に資することを目的として、毎年行っている調査結果をまとめているものである。

これによれば、平成26年現在、47都道府県及び1,742市区町村のすべてにおいて地域防災計画が作成されている。このうち、平成25年度は47都道府県のうち39団体が46回の修正を行い、1,742市区町村のうち48.3%となる841 市区町村が930回の修正を行っている。修正内容は、都道府県の場合「防災体制の組織・運営」が最も多く38回で、次いで「防災知識普及啓発」が30回、そして「物資の備蓄」が26回で3番目に多い。市区町村では「防災体制の組織運営」が最も多く619回で、次いで「物資の備蓄」が448回で2番目に多く、「防災知識普及啓発」が442回となっている [49]

また、「地方防災行政の現況」の調査結果には、都道府県における公的備蓄(現物備蓄)と流通在庫備蓄(流通備蓄)の品目・数量が明記され、さらに市区町村においては、公的備蓄(現物備蓄)と流通在庫備蓄(流通備蓄)を備蓄品目毎の実施団体数値のみ把握し、一覧表として掲載されている。

この一覧表の基となるデータは、総務省のオンラインシステムによって都道府県及び市区町村が「主な備蓄物資の備蓄食料の状況」を自ら入力できる仕組みになっており、都道府県はその情報を入手・確認できることとなる。そして総務省では、都道府県に対し、この情報を精査し活用することで、地域防災計画なり、備蓄計画なりに役立てることとしている(総務省,防災課,震災対策係・確認)。

つまり、ここで整理したいことは、都道府県及び市区町村による地域防災計画の備蓄に関する変更は多くなされており、さらに都道府県は、市区町村が変更した際に報告義務による認知はもちろんのこと、確認する手段もあるということである。

これらを整理したうえで、都道府県地域防災計画の状況分析について進めていきたい。

 

 

 

7章 地域の食料安全保障分析〜都道府県の地域防災計画にみられる傾向と分類〜

7.1 「都道府県地域防災計画分析シート(表-巻末1)」の説明と注意

-巻末1.「都道府県地域防災計画分析シート」は、各都道府県の地域防災計画をベースに、(1)それぞれの都道府県が行う「食料備蓄体制及び備蓄品目と数量」、(2)当該都道府県内の市区町村による備蓄食料の品目と数量を明らかとした「市区町村の備蓄状況と関連性」、(3)当該都道府県と市区町村の現物備蓄食料数を合わせた「都道府県内備蓄合計」、(3-2)当該都道府県の人口に対する「1食分の食料備蓄比率」、(4,3)の内、表2-1にて示した災害時における「大混乱期(第1期)対応食合計」、(4-2)当該都道府県人口に対する「(4)〔大混乱期対応食の場合〕の1食分食料備蓄比率」、(5)大混乱期対応食となった場合どれだけ比率が低下したかを示す「低減率」をまとめたものである。

1)それぞれの都道府県が行う「食料備蓄体制及び備蓄品目と数量」では、主に各都道府県の地域防災計画の中で示されている、食料備蓄体制に関わる都道府県・市区町村・住民等の役割分担に対する記述と、当該地域の都道府県自らが行っている食料の現物備蓄品目及び数量を示している。

なお、現物備蓄の品目及び数量は、地域防災計画に必ずしも反映されておらず、中には備蓄品目のみ掲載されているケースも見受けられる。その際は「地方防災行政の現況(付平成25年災害年報)」(平成27年1月,消防庁:防災課・地域防災室・応急対策室・防災情報室、以下、地方防災行政の現況とする)の、主な備蓄物資の備蓄量の状況(調査結果表,都道府県の状況:152-153)によるデータを使用した(表内「※2.」で示した品目と数量)。

また、[ ]内の数字は、基本参考地域防災計画の掲載ページを示し [50]、[ ]内に「資料編」「風水害編」等が示されるものは、地域防災計画が複数編で編成され、且つ参照ページが基本参考地域防災計画とは異なる場合、その参照編及び該当掲載ページを表している。

2)当該都道府県内の市区町村による備蓄食料の品目と数量を明らかとした「市区町村の備蓄状況と関連性」では、都道府県において当該地域内の備蓄状況をいかに把握しているのかを関心に、市区町村が現物で備蓄している食料の品目と数量をまとめている。

なお、市区町村の食料現物備蓄の状況は、地域防災計画において反映されていないケースが多く、中には流通備蓄との合計数量を掲載しているケースも見受けられる。その際は「地方防災行政の現況」の主な備蓄物資の備蓄量の状況(調査結果表,市区町村の状況:173-174)によるデータを使用した(表内「※3.」で示した品目と数量)。

また、[ ]内には参考とした地域防災計画各編や、当該地域において配備される指針・計画、それらの掲載ページを示している。さらに、「※3.」データの食料品目と数量にある〈 〉内には、「地方防災行政の現況」において把握されている、当該都道府県内の該当食料品を配備している市区町村合計数を表している。

3)当該都道府県と市区町村の現物備蓄食料数を合わせた「都道府県内備蓄合計」には、(1)と(2)で導いた当該都道府県内の現物備蓄「主食料」の総数を示した。よって、(1)及び(2)の品目で副食(おかず)にあたる食料については、この数値に反映されていない。

なお、太文字で示される数値は、地域防災計画において市区町村の食料現物備蓄状況が把握されていない都道府県であることを表している(例:1,2,3,4,5)。また、太字で且つ斜文字で示される数値は、地域防災計画において市区町村の食料現物備蓄状況が把握されておらず、さらに当該都道府県自らの食料現物備蓄の品目・数量も明らかとされていない都道府県であることを表している(例:1,2,3,4,5)。それ以外の数値は、地域防災計画において備蓄品目・数量が示されているものである(例:1,2,3,4,5)。

3-2)当該都道府県の人口に対する「1食分の食料備蓄比率」は、当該都道府県の人口(総務省統計局統計調査部国勢統計課「国勢調査報告」「人口推計年報」平成25年推計)を、(3)で導き出された主食料現物備蓄数量で割り、百分率したものである。なお、太文字・斜文字の区別は(3)と同様である。

4)「大混乱期(第1期)対応食合計」は、(1)と(2)で示された品目の内、表2-1で示した「災害時における第1期目の大混乱期対応食」となる、乾パン・クラッカー等(全粒粉),シリアル類(シリアルバーやカロリーメイト等の栄養補助食品含む)、レトルト粥、缶詰・瓶詰、ドライフルーツ、お菓子類等の備蓄主食料数の合計を抽出した数値である。

よって(3)同様、副食(おかず)にあたる食料はこの数値に反映されていない。大混乱期(1)対応食は、発災直後のライフライン停止や、家屋の損壊により一時避難を余儀なくされた場合に適した食料であり、簡便ですぐに食せるものをいう(2-1、及び本稿5.2.1参照)。つまり、この数値によって、災害等による初期段階の食料安全保障体制が確認できることとなる。なお、太文字・斜文字の区別は(3)と同様である。

4-2)当該都道府県人口に対する「(4)〔大混乱期対応食の場合〕の1食分食料備蓄比率」は、当該都道府県の人口を(4)で導き出された大混乱期(第1期)対応の主食料現物備蓄数量で割り百分率したものである。なお、太文字・斜文字の区別は(3)と同様である。

5)大混乱期対応食となった場合どれだけ比率が低下したかを示す「低減率」は、(3)の主食料現物備蓄数量から(4)の大混乱期(第1期)対応食となった場合にどれだけ現物備蓄数量が低下するかをパーセントで表したものである。なお、太文字・斜文字の区別は(3)と同様である。

なお、(6)参考地域防災計画として、参考した基本となる当該地域の地域防災計画名・編名・改定(または改正)発行年(月日)を記載している。地域防災計画は、基本編や、震災編、津波編、風水害編、事故対策編、原子力災害編等、いくつかの対策編によって編集・構成され、各地域によりその編成は異なる。本稿で、最も参考にしなければならない項目は食料対策であり、その内容は各編で同内容の場合が多い。従って、基本の参考資料とする地域防災計画を明確にするため示している。

そして、(6-2)確認日として、(6)参考地域防災計画を確認した日付を記載している。これは6.1.3で示したとおり、災害対策基本法第四十条及び第四十二条において、都道府県・市町村地域防災計画は「毎年検討され、必要と認めるときは修正しなければならない」とされているため、毎年の検討の中で修正されることも多い。従って、修正される前のものか後のものかを明確にするため記載している。

また、「役割分類番号」に関しては第8章の本文中に説明していく。

7.2 各都道府県の人口比率による現物備蓄数量からみる食料備蓄体制

3-1「都道府県別地域防災計画比較表」(都道府県内現物備蓄数量順)は、表-巻末1.都道府県地域防災計画分析シートから、(3)から(5)までを抽出し、各都道府県内の物備蓄食料を比較検討しやすく示した表である。ここで(3)「都道府県内備蓄合計」をみてみると、現物備蓄数量として最も多いのは東京都の17,030千食であり、次いで多い埼玉県の6,879千食、神奈川県の5,630千食、静岡県の5,367千食とを比較すれば、その数はけた違いに多い。一方、現物備蓄数量の少ない順でみれば、長崎県の22千食、福岡県の55千食、山口県の62千食とかなり差があることがわかる。

しかし、この数値は、あくまで、どれだけの食料を現物備蓄しているかが示されたに過ぎない。問題なのは、当該地域住民の食料安全保障が成されているかということである。

そこで、(3-2)「1食分の食料備蓄比率」をみてみることにしょう。表3-2.「都道府県別地域防災計画比較表(都道府県内・現物備蓄・数量-比率順比較)」には、@備蓄数量順として(3)「都道府県内備蓄合計」の現物備蓄数量が多い順番で示されたものと、A1食あたり対人口比率順として(3-2)「1食分の食料備蓄比率」の当該都道府県の人口に対する1食分の現物備蓄比率の数値が高い順番で示されたものを比較できるよう隣り合わせにしたものである。

これによれば、人口に対し1食分の比率が最も高くなるのは、沖縄県の189.99%である。次いで静岡県の144.16%、東京都の128.05%、山梨県の104.28%となり、5位の埼玉県95.25%からは、100%を割り込むこととなる。一方、備蓄比率の低いところは、福岡県が最も低く1.08%で、42番の佐賀県(7.66%)以降は、青森県5.16%、山口県4.38%、長崎県1.60%と10%を割り込むこととなる。

@備蓄数量順とA1食あたり対人口比率順を比較すると、備蓄数量が多い都道府県は、6番目であった沖縄県が1番目に移動したり、14番目であった山梨県が4番目に移動したりなど、比較的順番の入れ替えが多い一方で、備蓄数量の少ない地域では、42番目から47番目まで比較的入れ替えが少ない。これは、百分率による分母と分子の数量変化が影響しているものである。

備蓄数量の多い地域では、分子となる備蓄数量の変化もさることながら、分母となる人口も変化が大きい。一方で備蓄数量の少ない地域では、長崎県の22.34千食を除けば、分子となる備蓄数量自体に比較的変化が少なく、人口も福岡県の5,090千人を除けば、概ね1,000千人前後の地域となる。備蓄数量の多い地域と低い地域の入れ替えによる差は、これらが影響しているものといえる。

しかし、ここまでで驚かされる事実は、各都道府県内の対人口による食料現物備蓄数量比率でみると、1).最も多いところでも2食分に満たない。2).最も低いところは県内人口の約1%である、ということだ。

まず1).「最も多いところでも2食分に満たない」ことについて、いいかえれば、「どの地域にも、突発的な災害時等における公的な備蓄食料は1日分もない」ということになる。表2-1で説明したように、災害時等の初期の大混乱期(第1期)では現物備蓄の食料のみが頼りとなる。

被害レベルにもよるが、第1期から第2期への移行へは1日から7日の時間を要し、最低でも3日は現物で食料を備えておきたい。しかも、なるべく人が1日に活動するのに必要な2,000kcalを、効率よく体内に取り込みエネルギーへと変換させるために、3回の食事で分割吸収させたい。比率でみた数値は、この3日どころか1日分の3食にも満たないということだ。

この比率数値は、各都道府県にどれだけの備蓄量があるかを比較分析するため、単純に現時点で把握される人口と現物備蓄数を用いて割り出した比率である。そのため、この人口の中に、乳幼児もいれば、カロリー消費量の高い20代男性もおり、さらに、カロリー消費量の低い高齢者も存在する。乳幼児はミルク、または、離乳食しか食べることができない場合もあり [51]20代男性の1食と、高齢者の1食とでは体を動かすために必要な熱量、すなわち食事の量が違う。

さらにいえば、各都道府県・市区町村で備蓄される品目は違い、1品目ごとのカロリーを計算していない以上、厳密に12,000kcalを満たしているかは不明である [52]。従って、本来であれば「1食分」とするのには多少語弊もあろう。それでも、衝撃的数値であることに間違いはない。

さらに衝撃的なことは、2).「最も低いところは県内人口の約1%である」という事実である。1食分の備蓄比率が最も低いところは福岡県(1.08)であるが、この福岡県の備蓄数量実数は、県が18,000食と市町村が36,823食で合計が54,823食となる。これは、福岡県の職員数5,751人に対する約3食分と、60市町村(28302村)の職員数合計14,048人の2.6食分にあたる数値と同じになる [総務省, 2015] [53]

また、他に1%台であったのは長崎県(1.60)であるが、長崎県では県による食料の現物備蓄は0(なし)で、21市町(138町)の合計22,335食の現物備蓄が確認される。福岡県と同様に考えると、この数値は長崎県の職員数3,271人と市町の職員数合計5,357人合計数8,628人分の約2.6食にあたる数量と匹敵する [54]

つまり、福岡県と長崎県には、実質的に「住民のための現物備蓄がない」ということになる。

防災基本計画によって、企業や団体等における「事業継続計画(BCP)を策定するよう努める」ことを求めている以上、地方行政も団体のひとつとして事業継続性を保持しなければならず、さらにいえば、非常事態にこそ住民の安全を管理する業務に携わることとなり、職員に対する備蓄食料は必携となる [55]

だからといって住民に対する食料安全保障を放棄することはできない。両県の食料安全保障は、住民への「家庭備蓄」をいかに啓発するかにかかっていることとなる。

7.3 大混乱期対応食換算でみる各地の備蓄数量変化と食料不安

続いて表3-3.「都道府県別地域防災計画比較表(都道府県内・大混乱期対応食現物備蓄数量順)」により(4)「大混乱期(第1期)対応食合計」へと変化した場合の状況をみてみよう。先にも説明したとおり、(4)は(3)都道府県内備蓄合計で確認した備蓄食料の内、大混乱期対応食のみ抽出し合計したものである。

3-3によれば、現物備蓄数量が17,030千食で、トップであった東京都の備蓄数量は6,300千食まで低減している。数量的にはなおトップに位置するが、低減率は63.01(26番目)と高く、当該都道府県人口に対する1食分の大混乱期対応食備蓄比率となる(4-2)「(4:大混乱期対応食の場合)の1食分食料備蓄比率」でその比率を確認すると、47.37%と0.5食分にも満たなくなる。これはアルファ化米7,490千食分と即席めん1,220千食のお湯が必要な食料による減少である。

目を見張る事実は、30番目の鹿児島県の大混乱期対応食数量97.67千食から大分県の9.84千食まで、47都道府県の約4割となる18県で100千食を割り込み、さらに(4-2) 大混乱期対応食の対人口比率を確認すれば、山梨県の10.50%を除くすべてで10%以下となっているのがわかる。

さらにわかりやすく比較するために表3-4.「都道府県別地域防災計画比較表(都道府県内・現物備蓄・比率順比較)」により(4-2)(大混乱期対応食対人口)比率順をみると、人口比率の一番高い静岡県でも0.5食分に満たない47.79%であり、一番低い福岡県と二番目に低い大分県では1%を割り込み、福岡県0.62%と大分県0.84%なっている。また、20番目の岐阜県以降、実に約60%28道府県で10%以下となり、(3-2)人口比率からの変化をみれば、10%以下の都道府県が約13%6県であったのに対し、第1期対応食換算した場合47%増加したこととなる。

(5)低減率を確認すれば、一番差の大きい大分県が95.56%となり、90%を超える都道府県が4府県、80%を超えるのが6県、70%を超えるのが5県、60%を超えるのが13都道県、50%を超えるのが3県、40%を超えるのが7県、30%を超えるのが2県、20%を超えるのが3県、10%を超えるのが1県、10%以下が3府県(内0%は2府県)であった。従って、都道府県の66%にあたる31都道府県が50%を超える結果となった。

低減率が最も高くなる大分県では、元々県内に222千食(18.83%)ある現物備蓄食料が、その数9千食へと減少し、低減率は95.56%まで低下した。これはアルファ米74,000食とインスタント麺類300個の減少以外に、米20,657s(137,713食分)が減少したために大きく影響している。米による備蓄は水・湯だけの問題だけでなく、炊飯器もしくは鍋又は飯盒等の飯を炊くための道具と、電力または火力といったエネルギーが必要となる。従って第2期、場合によっては、第3期まで出番がなくなる食材となる可能性もある。

低減率70%以上の府県は、概ね米による現物備蓄が多く、沖縄県373,931s(2,492,873食分)、京都府317,424s(2,116,160食分)、岡山県35,720s(238,133食分)、山梨県6,520s(玄米:39,120)75,518s(アルファ化米:755,180) [56]、高知県34,338s(228,920食分)、山形県20,167s(134,447食分)、岩手県25,761s (171,740食分)、徳島県42,730s(281,200食分)、兵庫県107,125s(714,167食分)、熊本県98,911s (659,407食分)、和歌山県57,325s(100,647食分)、福島県78,143s(520,954食分)、三重県112,753s(751,687食分)、奈良県60,914s(406,094食分)と、その数値のマイナスへと影響を与えている。

結果的に沖縄県の189.99%13.66%、山梨県の104.28%10.50%へ減少するなど、沖縄県・山梨県・和歌山県・三重県・奈良県は辛うじて10%台を保ち、京都府の88.38%7.52%、岡山県の13.54%1.20%、高知県の35.35%4.30%へ減少し、京都府・岡山県・高知県・山形県・岩手県・徳島県・兵庫県・熊本県・福島県はそれぞれ10%を割り込む結果となっている。

ここで注意したいのは、米を備蓄しておくのが無駄なのだということではない。「第1期に関しては向かない食材である」ことを強調したい。むしろ、炊き出しが可能となる第3期(復旧期)以降には大いに役立つし、また、マクロ的食料安全保障を支えるのは「米」である。

そして、注目したいのは人口が多く、現物備蓄量も多い大阪府、千葉県、神奈川県の低減率が比較的低いことである。特に、大阪府の低減率は0%である。これは、地域防災計画において把握されている大阪府の現物備蓄食料に「煮炊き不要食品」と明記されていることから、計算上煮炊き不要とみなし「低減なし」としている。実際はアルファ化米も含むため、本稿の定義からすればアルファ化米は除くこととなる。しかし、「煮炊き不要の食品が必要である」という意識が感じられる。この意識は、大混乱期の対応食料備蓄に必要な意識であることから特筆としたい。

なお、鹿児島県も低減率0%であるものの、地域防災計画で把握されている市町村の備蓄数量が、アルファ米と乾パンの合計数92,625食であるということから、区分けできず結果的に0%となっている。

 

8章 各都道府県地域防災計画に示された公助と自助の役割からみた備蓄状況

8.1 都道府県地域防災計画における公助・自助の役割分類

前章において、災害等の発生時に公的備蓄が少ないことを説明してきた。本稿第25.3でもふれたように、本来であれば、7日分、最低でも3日分の食料は確保しておきたいところだが、これには莫大なコストがかかる。そのため、「コツコツと積み重ねる各人の努力」が必要となり、その整備をすることこそが、食料安全保障を確立させていくことを述べた。すなわち、公助による役割分担、さらには、自助・共助による自主的な食料確保を促すことが肝要となるのである。

ここで表-巻末2.「役割分類別・都道府県,市区町村別・備蓄状況比較表」を確認したい。この表は、表-巻末1.「都道府県地域防災計画分析シート」の、(1)(都道府県の)食料備蓄体制及び備蓄品目と数量、及び(2)市区町村の備蓄状況と関連性を基に、各地域において主体となる「都道府県」「市区町村」「住民」が、都道府県の地域防災計画において、どのような役割分担によって構成されているかをまとめ、さらに、「都道府県の備蓄状況」並びに「市区町村の備蓄状況」として、都道府県・市区町村それぞれの現物備蓄・流通備蓄の数量と副食の有無を含めた備蓄状況(「都道府県の備蓄状況」には「市区町村の備蓄状況把握」も記載している)、また、「都道府県・市区町村の現物備蓄分析」として、都道府県内の備蓄数量合計(@)、1食分の対人口比率、大混乱期(第1期)対応食合計数(A)、大混乱期対応食の1食分対人口比率、@からAへ移行した際の低減率をまとめたものである [57]

防災基本計画を基に、各地域の特性に応じ文章化された地域防災計画には、文章表現による微妙な違いが生ずる。具体的には、地域防災計画上で示される、「備蓄する」と「備蓄に努める」といった表記がある。説明するまでもないが、「備蓄する」には、主体に対し備蓄の行動を断定するような、強制的な拘束力を持たせる表現となる。

一方「備蓄に努める」は、主体に対し備蓄の行動に努力を求める表現となり、任意的な意味合いが強い。この「備蓄する・努める」を、広域的地域公助となる「都道府県」、さらに限定された地域公助となる「市区町村」、そして自助、並びに共助の核となる「住民」の三者に分け役割として比較すると、都道府県地域防災計画は、大きく「協働型」「主体型」「努力志向型」の3種の体系に分けられる。

この3種の体系をもとに、それぞれどこが備蓄し、どこが備蓄に努め、それはどこが補完するのかといった分析をすると、1.三者協働型、2.自治体協働型、3.地域協働型、4.都道府県主導型、5.市町村主体型、6.住民主体型、7.努力志向型と、7つの役割型に分類できる。さらに1から7の役割型には、それぞれの特徴毎にAからEまでの間で小さなタイプへと分類することができ、1.三者協働型はAからDまで、2.自治体協働型はAからEまで、3.地域協働型はAとB、4.(都道府)県主導型はAのみ、5.市町村主体型はAのみ、6.住民主体型はAとB、7.努力志向型はAからEまでのタイプへと分けることができる。それぞれのタイプ説明は表3-5のとおりである。

なお、表-巻末2の役割分類分析で用いられている「備蓄」や「備蓄努め」「補完」等の略語は、先に説明した「備蓄をする」や「備蓄に努める」といった、各都道府県が地域防災計画で用いている食料備蓄や食料供給に関わる役割と、その他区分に必要な文言表現を簡略化させた略語である。それぞれの略語定義は表3-6のとおりとなる。

略語定義を確認するにあたり注意しておきたい点は、「備蓄を行う」といった意味合いを持つ「備蓄」「備蓄整備」「調達供給」において、「備蓄する」の意味をもつ「備蓄」よりも、備蓄を含めた体制整備にあたる「備蓄整備」や、調達し供給するといった意味合いを持つ「調達供給」の方が、内容的に幅が広いため優位性があるかといえばそうではない。備蓄に特化した項目や表現がないために、「備蓄整備」や「調達供給」といった表記となっているため、むしろ、「備蓄」に属する自治体は、食料の備蓄に対し堅固な体制が整備されているところも多く、地域防災計画全体をとおせば「整備」や「調達供給」も含まれる場合がある。

そして、この役割タイプをみるにあたり注意しなければならない点は、備蓄を実施する主体がどこであるのか、また、その主体は実際にどの程度の備蓄を行っているのか、さらに、それらを受け住民に対する備蓄への関わりはどのようにされているかである。「備蓄する」とした役割を担う備蓄実施主体が食料備蓄を行っていなければ問題であろう。

また、表3-2でみたとおり、公助となる自治体の住民数に対する備蓄比率は、最高でも沖縄県の189.99%で、本来の望ましいと思われる「13食で3日」という900%よりも低い。そうであるならば、家庭備蓄は不可欠となり、「住民」に対する備蓄への関わり方(役割)がカギを握ることとなる。

ただし、住民については「備蓄」となってはいるが、本来強制できるものではなく、あくまで都道府県による包括された広域的地域における自助・共助・公助の在り方を示すため、役割を明確化させたに過ぎない。よって住民による家庭備蓄は管理できるものではく、家庭備蓄の状況は、政府、または一部の自治体による意識調査やアンケート結果があるにとどまる。従って、ここで分析するのは「公助」側からの役割を分析することとし、後に政府と一部自治体の調査による家庭備蓄状況を確認する。

さらに、災害等の発生により食料が必要となる場合に備えるための備蓄には、現物備蓄以外にも、その復旧度合いによって流通備蓄による対応も必要となる。これは、コスト面からみる現物備蓄の限界を補完する以外に、食事の幅を広げるといった、食料不足が引き起こす二次災害に対する備えともなり(本稿4.2.2参照)、その意味では副食備蓄の存在も大きい。従って表には、流通備蓄の契約による確保食料数(主食のみ)を記載し [58]、さらに、主食数のみを示した現物備蓄数と流通備蓄数それぞれの右横に、副食備蓄の存在を示す「○」を付記している。

8.2 各役割型・役割タイプによる現状との比較分析

以下、それぞれの役割分類ごとに説明していく。なお、各分類型説明の項には、表―巻末2のうち、「役割」「役割タイプ名」を省いた簡略版の「各分類型別・都道府県、市区町村別・備蓄状況比較表」を抜粋して記載しているので参照されたい。

 

 

8.2.1 三者協働型

 

三者協働型は、都道府県・市区町村・住民それぞれに「備蓄」が求められる型となり、三者が協働することから「三者協働型」としている。三者協働型では、それぞれの役割はどのように整備されているか、また、その役割を担うために必要な情報が得られているかがカギとなる。

この三者協働型のタイプには、基本となる1Aの「三者協働型」に秋田県・島根県・大分県・沖縄県の4県、1Bの「三者協働・自治体主導型」には東京都の1都、1Cの「三者協働・地域補完型」には埼玉県・神奈川県・長野県・奈良県・愛媛県の5件、1Dの「三者協働・住民補完型」には新潟県・岐阜県の2県の計12都県があてはまる。それぞれのタイプ区分け、及び、特徴、現状、課題等については、以下のとおりである。

8.2.1A「三者協働型」

1Aの三者協働型となる秋田県・島根県・大分県・沖縄県は、県・市町村・住民の三者それぞれに「備蓄」することが地域防災計画上明記されており、基本形となるため「三者協働型」としている。

1Aにおいて特筆すべきは、4県のうち沖縄県を除く秋田県・島根県・大分県において、3者の備蓄目標数値を地域防災計画上で明確に打ち出していることがあげられる [59]。特に秋田県では現物備蓄食料を共同備蓄しており、県内備蓄状況を的確に把握できる体制となっている。

これは、備蓄計画を推進するうえで、無駄なく、より効率的に食料確保ができるだけでなく、市町村それぞれも他地域の備蓄数量を把握していることから、有事の際の緊急供給や分配に役立つこととなる。

その点でいえば、秋田県以外の島根県・大分県・沖縄県では市町村の備蓄数量が把握されていない。特に島根県・大分県では三者それぞれの備蓄計画があるだけに、その進捗はどのようになされているのか可視化できる体制が必要であろう。

さらには、沖縄県の場合、地域防災計画に市町村のみならず、県の現物備蓄数量も記述がない。同様に可視化できる体制が必要となる。

他方で気になることは、流通備蓄量において、秋田県が市町村の5,300食、島根県が県の81,333食、沖縄県が市町村の49,440食と少ないことである。大分県は826,033食と他の3県から比較すれば多いが、人口1,178,000人の比率でみると1食分の7割程度と、決して多いとはいえない量である。流通備蓄は発災直後の大混乱期では力を発揮できない可能性が高いが、第2期の混乱期以降、徐々に食料供給に貢献する。

さらにいえば、大分県・沖縄県には、流通備蓄における副食(おかず)が全くない。流通備蓄の魅力は、食事に幅を持たせ、質の改善ができるところにある。質の改善とは、多様な食材を用いることで得られる栄養価の向上と、多様な食事という楽しみを提供することによるストレス低下効果の向上である。これらによって得られる二次災害の減少効果は、長期化するほど必要となる。

8.2.1B「三者協働・自治体主導型」

1Bの三者協働・自治体主導型となる東京都は、一見1Aと同等にみえるが、住民の「備蓄必要」となるところが違う。備蓄必要は、原文において「備蓄に努めなければならない」と表現されている。これは、「備蓄につとめる」という任意的である一方、「努めなければならない」という義務的な言葉を用いる、いわゆる努力義務となる。つまり、都が住民に対し努力義務を課すものであり、自治体が主導的に努力の義務という「役割」を与えているという意味で、「三者協働・自治体主導型」としている。

1Bに属する東京都の場合は、都の現物備蓄数、市区町村の現物備蓄数、並びに、市区町村の流通備蓄数量において、他の地域を抜きトップの数量となり、人口比率でみた場合でも3番目に多く、首都直下型地震を想定し、災害等に対する意識の高いことが見受けられる。しかし、流通備蓄における副食の協定が都・市区町村ともないことに、復旧が長期化した場合の栄養面とストレス面で不安を残す。

8.2.1C「三者協働・地域補完型」

1Cの三者協働・地域補完型となる埼玉県・神奈川県・長野県・奈良県・愛媛県は、県・市町村・住民の三者が「備蓄」もしくは「備蓄整備」(神奈川県)であり、さらに県は市町村を「補完」する旨が明記されているタイプである。三者協働という、住民にも備蓄することを求めているこのタイプでは、市町村への補完は結果的に住民の補完であるということがいえる。

よって、三者協働型では、市町村と住民による「地域」への補完という意味で「三者協働・地域補完型」としている。また、奈良県は東京都同様、住民に対し「備蓄必要」の努力義務を課しているが、ここでは地域に対する「補完」の意味合いが重要となるため、1Cに所属することとしている。

1Cでは、現物備蓄において長野県の県備蓄数が0であること、愛媛県の3,376食という県職員の備蓄食料数量であろうことが目立つ。三者の中で、市町村の補完であれ「備蓄(する)」とされているのであれば、補完となる現物備蓄数量は確保すべきである。

また、県は市町村補完のために食料備蓄をするはずが、埼玉県・長野県・奈良県では、その補完するために必要なデータとなる市町村の備蓄数量を把握していない。これでは、補完に必要な数値の根拠をだすことは困難であろう。

さらに、奈良県・愛媛県は、1Aの沖縄県同様、地域防災計画上に県の備蓄量が掲載されていない。そして流通備蓄に関し、県流通備蓄において神奈川県以外は流通備蓄協定がないこと、また、市町村では、埼玉県が人口の割合からすると少なく、長野県も数量的に少ない。

1Cの中でいえば、県と市町村の現物備蓄及び流通備蓄の合計で、約395百万食という、人口比換算で三食の場合に14.5日分の食料確保がある神奈川県は、現物備蓄における数量及び(副食もあるという)質の点からも、比較的食料安全保障上均整の取れた県と呼べるであろう。一つ残念なのは、流通備蓄において、副食のないことが長期化における不安材料として残ることである。

8.2.1D「三者協働・住民補完型」

1Dの三者協働・住民補完型となる新潟県・岐阜県は、県・市町村・住民の三者が「備蓄」となり、県は市町村を「補完」し、さらに市町村は住民を「補完」する旨明記されているタイプである。住民を補完する市町村を県が補完するため、結果的に「自治体」が住民を補完することから「三者協働・住民補完型」としている。

1Dでは、現物備蓄において、岐阜県の県備蓄数0であることが目立つ。ただし、岐阜県の場合は、市町村の現物備蓄数量が約55万食(第1期食は約20万食)であり、さらに流通備蓄数量が約250万食と、人口約200万人に対する比率でみた場合、比較的備蓄量の多い県であり、補完の立場でいえば妥当性はある。

しかし、地域防災計画において県の役割が「備蓄(する)」としている以上、現物備蓄の配備は必要ではあるまいか。また、1C同様、新潟県・岐阜県ともに市町村補完のために必要なデータとなる市町村の備蓄数量を把握していない。

8.2.2 自治体協働型

自治体協働型は、府県・市町村の自治体それぞれに「備蓄(する)」ことが地域防災計画において明記されており、住民は「備蓄努め」「備蓄準備」または「備蓄普及」によって食料備蓄への関わりが求められる型である。すなわち、自治体は現物備蓄や流通備蓄による公的備蓄の充実をより求められることとなる。

自治体協働型のタイプには、基本となる2Aの「自治体協働型」に宮城県・三重県・大阪府・鳥取県・熊本県の14県、2Bの「自治体協働・県主導型」に滋賀県の1県、2Cの「自治体協働・市町村補完型」に岩手県・福島県・群馬県・福井県・佐賀県の5県、2Dの「自治体協働・住民補完努力型」に岡山県・福岡県の2県、2Eの「自治体協働・住民補完普及型」に山形県と京都府の11県と、合計213県が該当する。それぞれのタイプ区分け、及び、特徴、現状、課題等については、以下のとおりである。

8.2.2A「自治体協働型」

2Aの自治体協働型となる宮城県・三重県・大阪府・鳥取県・熊本県は、府県・市町村の自治体それぞれに「備蓄」または「備蓄整備」が求められ、住民は「備蓄努め」「備蓄準備」「備蓄普及」によって食料備蓄への関わりが求められるタイプである。これは自治体協働型の基本形となるため純然たる「自治体協働型」としている。

自治体協働型は、住民に対し任意的表現となる「備蓄努め」「備蓄準備」によって関わりを求めているため、自治体はより公的備蓄を充実させねばならない。この原則に従えば、現物備蓄の第1期対応食対人口比率において10%以下となる鳥取県8%、熊本県9.2%は十分とはいえない。

2Aに属する自治体協働型の低減率をみれば、大阪府0%を除く宮城県55.6%、三重県74.6%、鳥取県45.2%、熊本県80%4県の低減率が高く、特に熊本県の県内総備蓄数量約828千食(対人口比46%)から第1期対応食換算した場合の約166千食(対人口比9.2%)と、三重県の県内総備蓄数量約1,008千食(対人口比55%)から256.5千食(対人口比14%)は、特に低減率が高いため注意が必要である。

また、県の備蓄数量をみると、三重県37.6千食、鳥取県2.3千食、熊本県22.5千食は、自治体協働型という県も「備蓄」する役割があるにしては、県内総現物備蓄数量のうち三重県が3.7%、鳥取県と熊本県がともに2.7%と、県備蓄比率の低いことがいえる。

これは宮城県・大阪府が十分な備蓄量であるということではなく、第1期対応食数量を13食の3日という理想の食事回数で換算すれば、その比率は宮城県で2.3%、三重県で1.6%、大阪府で3.3%となり、やはり十分とはいえない。

また、流通備蓄でいえば、宮城県の流通備蓄契約数が0であること、三重県の56,833食という1食分当たり人口比率で3.1%の数量と、熊本県の567食(表3-7-2上では0.6千食)という1食分当たり人口比率で0.03%の数量であること、鳥取県の副食がないことによる、長期化の栄養面とストレス面での心配が残る。

さらに地域防災計画における市町村現物備蓄の把握では、宮城県・三重県・鳥取県・熊本県で記載がなく、把握の現状がみえない。

8.2.2B「自治体協働・県主導型」

2Bの自治体協働・県主導型となる滋賀県は、県に「備蓄」、市町に「備蓄推進」を求められ、住民は「備蓄努め」によって食料備蓄への関わりが求められるタイプである。

市町の行う備蓄推進の「推進」には、一般的に「目的に向かい物事を推し進める」といった意味合いを持つ。また、この原文の続きには「被災時における迅速な対応を図るため、避難所ごとやその近郊における分散備蓄を進める。」[滋賀県地域防災計画:91]とある。すなわち、滋賀県が市町に求める推進の中に「備蓄する」ことの前提が窺える。ただし明確に「備蓄」を求めているものではなく、その推進力は市町に委任するといった表現により「備蓄」と「備蓄推進」とを区別している。

そして、滋賀県の食料確保及び供給に向けた基本姿勢は、「県、市町は県民と一体となった物資の確保体制を構築するとともに、緊急輸送の円滑化を図るため緊急輸送ネットワークの形成を推進する。」[滋賀県地域防災計画:91]とある。滋賀県では、県と市町の行う業務が違う場合を除き、基本的に「県、市町は、…」といった協働的表現が用いられる。これらの表現により「自治体協働・県主導型」としている。

2Bの滋賀県は、県内の現物備蓄量が1食分の人口比率59.4%で、第1期対応食に換算しても24.8%であり、流通備蓄も日数的な考慮からすれば課題は残すものの、副食も協定されており充実している。気になることは、「県主導型」にもかかわらず、市町の備蓄を把握していないことである。「県、市町による県民と一体となった物資確保体制の構築」のためには、県内備蓄総数の可視化は必要であろう。

8.2.2C自治体協働・市町村補完型

2Cの「自治体協働・市町村補完型」となる岩手県・福島県・群馬県・福井県・佐賀県は、県に「備蓄」、市町村に「備蓄」または「備蓄推進」が求められ、住民は「備蓄努め」または「備蓄準備」によって食料備蓄への関わりが求められタイプである。県が市町村を「補完」する旨が明記されているため、「自治体協働・市町村補完型」としている。なお、群馬県の「備蓄推進」についても備蓄することが前提となるため2Cに属することとする。

また、佐賀県については、明確な食料備蓄に関する記述がない。ただし、「佐賀県地域防災計画」[3編:182]には、「県は、備蓄物資や調達物資等を適正かつ円滑に被災者に供給できるよう、市町、防災関係機関等と連携し、食料、飲料水及び生活必需品等の確保及び迅速な配送等を実施する。」とあり、さらに「1 調達方法」の市町(ア)の項に「自ら備蓄している食料等を供給」、県(ア)の項に「独自で備蓄している食料等を提供する。」(市町及び県の項、ともに原文ママ)とあることから、備蓄することが前提となるため、2Cに属することとする。

さらに、岩手県では明確な三者役割を設けているが、地域防災計画上の表現において「自治体協働型」にあてはまるため、その定義に基づき2Cに属することとする [60]

2Cの現物備蓄数量では、佐賀県内備蓄数量となる約64千食の、1食あたり人口比率で7.7%、第1期対応食換算で4.4%と少ないことが目立つ。そして1食あたり人口比率の第1期対応食換算において、福島県が8.0%と少ないこともさることながら、岩手県に至っては2.6%と深刻な数値であることがいえる。さらに流通備蓄数量では、岩手県・福井県が0であること、福島県が約15千食と少ないこと、群馬県の副食契約のないことについて、長期化における栄養面とストレス面に不安を残す。

また、福島県・群馬県・佐賀県においては市町村の現物備蓄数量が把握されておらず、さらに群馬県を除く、岩手県・福島県・福井県・佐賀県においては県の現物備蓄数量が示されていない。

なお、岩手県は「岩手県災害備蓄指針」を設けており、その中で県及び市町村の備蓄数量を把握し、且つ数的根拠をもって備蓄対応しており、「自治体協働・市町村補完型」としての体を成している(脚注60参照)。しかし、地域防災計画において指針との関連性は示されていない。従って県及び市町村の数量把握、もしくは、岩手県災害備蓄指針との関連性を示す記述をしなければ、可視化されているといえないであろう。

8.2.2D「自治体協働・住民補完努力型」

2Dの自治体協働・住民補完努力型となる岡山県・福岡県は、県・市町村の自治体それぞれに「備蓄」が求められ、住民は「備蓄努め」または「備蓄準備」によって食料備蓄への関わりが求められるタイプである。県と市町村による自治体が「備蓄努め」となる住民を「補完」する旨が明記されているため、「自治体協働・住民補完努力型」としている。

なお福岡県は、「福岡県備蓄計画」において明確な三者役割を設けているが、地域防災計画上の表現において「自治体協働型」にあてはまるため、その定義に基づき2Dに属することとする [61]

2Dの現物備蓄数量では、福岡県の県内現物備蓄数量となる約55千食が、1食あたり人口比率で1.1%、第1期対応食換算で0.6%と極端に少ない。そして、岡山県も1食あたり第1期対応食換算1.2%であり、両県とも深刻な状況であることが指摘できる。

また流通備蓄に関しても、福岡県の2,600食は少なく、第7章の7.2でも述べたとおり、現物備蓄数量が県と市町村の職員数に匹敵する数であることから、住民を補完しているとはいいがたい。

さらに、岡山県に関しては、市町村現物備蓄数量を把握しておらず、県の備蓄数量も開示されていない。2Dの自治体協働・住民補完努力型は、県が市町村を補完し、市町村が住民を補完する。よって双方の備蓄数量が把握されていなければ、補完するにあたり適切な備蓄計画が立てらない可能性は高い。

8.2.2E「自治体協働・住民補完普及型」

2Eの自治体協働・住民補完普及型となる山形県・京都府は、府県・市町村による自治体が「備蓄」(山形県は「備蓄整備」)を求められ、住民を補完し、且つ住民への備蓄は普及・啓発にとどまるタイプである。県と市町村によって住民に対し備蓄の普及・啓発する旨は示されているが、住民に対する役割的な表現としては示されておらず、2Dと区別するため「自治体協働・住民補完普及型」としている。

2Eの現物備蓄を確認すれば、山形県・京都府ともに1食あたりの人口比率から第1期対応食への低減率が高く、且つ第1期対応食対人口比率の山形県2.2%、京都府7.5%と低いことが目立つ。

特に京都府は、現物備蓄対人口比88.4%から第1期対応食対人口比率換算では7.5%と低減率が実に91.5%と高い。また京都府の現物備蓄数量が府内現物備蓄数量に対し4.2%であることは、市町村を補完するとはいえ自治体協働により「備蓄(する)」とした府の対応としては少量である。

また、山形県は流通備蓄数量が市町村の約28千食しかなく、第2期以降の食料確保に不安が生じる。さらに両府県とも市町村の現物備蓄量を把握しておらず、府県の備蓄数量も開示されていない。

8.2.3 地域協働型

 

地域協働型は、市町村と住民による、より細分化された地域に「備蓄」が求められる型である。よって公的備蓄は、市町村に比重がかかることとなる。

地域協働型のタイプには、基本となる3Aの「地域協働型」に北海道・愛知県の11県、3Bの「地域協働・住民補完型」に静岡県1県の12県が該当する。それぞれのタイプ区分け、及び、特徴、現状、課題等については、以下のとおりである。

8.2.3A「地域協働型」

3Aの地域協働型となる北海道・愛知県は、基礎的自治体となる市町村と、その地域に所属する住民で構成される「地域」に「備蓄」または「備蓄整備」が求められるタイプであるため、基本形となる「地域協働型」としている。ただし、県による備蓄は、北海道では「調達支援」、愛知県では「確保努め」によって関わりが求められている。

3Aの県と市町村の現物備蓄量比率をみると、北海道で1090、愛知県で397となる。このうち北海道における道の現物備蓄は自衛隊による乾パンの備蓄量が記載されているため、実際は0100となる。いずれにせよ市町村備蓄比率が高い。

そして、県内現物備蓄の1食分あたり人口比率をみると、愛知県45.1%、北海道12.7%であるが、第1期対応食になると北海道は約4%となり深刻さが増す。流通備蓄では、北海道が市町村の9,096食と、住民への供給対応としては少なく、復旧の長期化における不安を残す。

その点で愛知県は、市町村による現物・流通・副食とバランスがよく、充実しているといえる。

また、市町村の現物備蓄量把握をみると、北海道では記載されていないことを確認できる。北海道地域防災計画上で市町村の備蓄を求めているとすれば、その備蓄状況が把握されていないことに疑問が残る。

8.2.3B「地域協働・住民補完型」

3Bの地域協働・住民補完型となる静岡県は、市町・住民の所属する「地域」に「備蓄」が求められるタイプであり、市町は住民を補完し、さらに県は「調達支援」として備蓄に係るタイプであるため、「地域協働・住民補完型」としている。

3Bの静岡県と市町の現物備蓄量比率をみると、199で市町が高く、流通備蓄でも県が0に対し市町が1,131千食と、公的備蓄は市町による地域への依存度がかなり高いことがわかる。しかし、市町の現物備蓄量が把握されていない。3Aの北海道の例同様に、県の地域防災計画上で市町の備蓄を求めているとすれば、その備蓄状況が把握されていないことに疑問が残る。

8.2.4 県主導型

 

県主導型は、県による「備蓄」が求められ、市町村と住民の地域は「備蓄努め」によって備蓄に係ることが求められる型である。従って、県による積極的な備蓄と、地域による努力的備蓄によって食料安全保障が担保されることとなる。

この県主導型には、茨城県・栃木県の2県があてはまり、タイプも「県主導・市町村補完努力型」のひとつとなる。

8.2.4A「県主導・市町村補完努力型」

4Aの県主導・市町村補完努力型となる茨城県・栃木県は、県による「備蓄」が求められ、市町村と住民で構成される地域は「備蓄努め」によって備蓄に係ることが求められるタイプであり、且つ県は市町村を補完するため「県主導・市町村補完努力型」としている。

4Aの現物備蓄で県と市町村の備蓄比率をみると、茨城県が2575、栃木県が793と、3の地域主導型と比較すれば、その比率は県の方が若干高く、中でも茨城県の方がより高い。

茨城県は流通備蓄も県が4,497千食に対し市町村が14千食と、県による公的備蓄比率が高いことがわかる。ただし、流通備蓄において副食が0であることに不安を残す。一方で栃木県は、県内備蓄量の1食分人口比率で26.0%、対第1期対応食人口比率で9.7%になり、流通備蓄も県が0に対し市町が23千食と、相対的に低い。

よって課題は、栃木県について、この第1期対応食の現物備蓄比率を上げることと、流通備蓄による第2期以降の食料安全保障対策が求められ、茨城県では第2期以降の需要食となる副食への対応を考えることがあげられる。

8.2.5 市町村主体型

 

市町村主体型は、食料の「備蓄」「備蓄整備」や「確保」「調達」等を市町村に求め、県は主にその支援として関わり、住民は「備蓄努め」による関わりと、自治体の「備蓄普及」による自発的備蓄行動が求められる型である。従って、市町村の公的備蓄が充実されていなければ、地域における食料安全保障は確保されないこととなる。

この市町村主体型のタイプは、基本となる5Aの「市町村主体型」のみに集約され、山梨県・和歌山県・山口県・長崎県があてはまる。

8.2.5A「市町村主体型」

5Aの市町村主体型は、上記説明のとおり市町村に備蓄はじめ食料の確保が求められるが、山梨県が「確保」、和歌山県が「調達供給」、山口県が「備蓄整備」、長崎県が「調達供給」と、県により違いが生ずる。

さらに住民に対する備蓄への関わりが、山梨県の「備蓄努め」以外、3県すべて「備蓄普及」となる。つまり、地域防災計画上で自助・共助の役割が求められていないこととなり、市町村の公助による備蓄が緊急時の命綱となる。ただし、県は主として「調達支援」となるため、その関わり方によって地域の備蓄に影響することとなる。この意味では自治体協働型に近い。

従って、5Aにおいてまず確認したいのは、県内現物備蓄の1食分人口比率である。これによれば、山梨県の104.3%(県1対市町村99)、和歌山県の67.7%(県25対市町村75)はまだ良いとして、問題は山口県の4.4%(県0対市町100)と、長崎県の1.6%(県0対市町村100)である。第1期対応食に換算すれば、山口県が1.6%、長崎県が1.3%とより深刻さは増し、これに従えば、山梨県は10.5%、和歌山県が15.2%と、かろうじて10%を超える結果となる。

また市町村の流通備蓄数量を確認すると、山梨県内市町村の約98千食があるだけで、和歌山県・山口県・長崎県の県内市町村による流通備蓄はない。山梨県も人口比率に換算すれば11.5%であるため、決して多い契約数とはいえない。

県による流通備蓄支援は、和歌山県の1,000千食と山口県の340千食で、両県は第2期以降に期待を持つことができる(和歌山県の副食なしは問題ではある)。しかし、長崎県は市町村及び県の支援とする流通備蓄もなく、現物備蓄含めた公的備蓄において、頼みは市町村の現物備蓄22.3千食(副食なし)のみとなる。

さらに、県の市町村備蓄把握状況を確認すれば、山梨県以外は記載がなく、あくまで市町村からの要請がある場合に「調達支援」を行うというスタンスになる。果たして市町村主体による食料安全保障は確立できるのであろうか。疑問が残る。

8.2.6 住民主体型

 

住民主体型は、住民に「備蓄」が求められ、都道府県・市町村は「備蓄努め」もしくは「備蓄計画」として備蓄に関わる型となる。つまり、いい換えれば「自助型」であり、地域防災計画では自助による食料安全保障を求めるため、住民に対する啓発活動がカギを握ることとなる。

住民主体型は、基本となる6Aの「住民主体型」に富山県・石川県の2県、6Bの「住民主体・自治体計画型」に鹿児島県1県と、合計3県が該当する。それぞれのタイプ区分け、及び、特徴、現状、課題等については、以下のとおりである。

8.2.6A「住民主体型」

6Aの住民主体型となる富山県・石川県は、住民に「備蓄」が求められ、県・市町村は「備蓄努め」として備蓄に関わる型となるため、純然たる「住民主体型」となる。このうち石川県は、県により市町を「補完」する旨の明記はあるものの、住民が主体となる当該型において影響がないため、住民主体型に属することとしている。

富山県・石川県の現物備蓄状況を確認すれば、富山県293.9千食(27.3%)、石川県276.4千食(23.8%)の現物備蓄量がある(ただし、石川県の第1期対応食対人口比は7.4%10%を切る)。また、富山県に関しては流通備蓄も62.7千食と対人口比5.8%ではあるものの副食も契約し、石川県に関しては、流通備蓄はないが、県・市町・県民(事業所含む)三者役割の備蓄目標を設けるなど、決して自助に任せる「放任型」(後に説明する)というわけではない [62]

住民に対する家庭備蓄の推進活動は、富山県において主に「ふるさと富山防災ハンドブック」(富山県危機管理課,平成233月発行)や「とやま防災ハンドブック(小学生版,平成243月作成)(中学生版,平成243月作成)による備蓄品・非常持出品の点検リストでの告知があり、また、石川県においては主にホームページによる告知 [石川県, 2010]や、防災講演会(年1回開催,定員250名〔平成25年度開催時〕)等の講演会事業時(出前防災講演会含む)による啓発を行っている。ただし、これらによる住民への家庭備蓄浸透度は定かではない [63]

8.2.6B「住民主体・自治体計画型」

6Bの住民主体・自治体計画型は、鹿児島県1県が該当し、住民に「備蓄」が求められ、県・市町村は「備蓄計画」として備蓄に関わることから6Aと区別した。

6Bの鹿児島県備蓄状況をみると、県現物備蓄約5千食・市町村現物備蓄約93千食の合計98千食(対人口比5.8%〔第1期対応食人口比変わらず5.8%〕)であり、さらに流通備蓄(市町村のみ)約24千食と、多さはないが公的備蓄を用意している。

住民に対する家庭備蓄の推進活動は、危機管理局防災課によれば、主にホームページによる告知 [鹿児島県, 2007]や、「県政かわら版」(年5回発行)による備品持出リストによる告知、また、鹿児島県防災研修センターでのパネル展示等によって啓発を試みている。しかし、これらによる住民への家庭備蓄浸透度は定かではない [64]

 

8.2.7 努力志向型

 

努力志向型は、基本的に都道府県・市区町村・住民それぞれが「備蓄努め」によって備蓄に関わる型となり、努力が先行することから「努力志向型」としている。

努力志向型のタイプには、7Aの「努力志向・三者協働型」に広島県・香川県・宮崎県の3県、7Bの「努力志向・自治体協働型」に高知県1県、7Cの「努力志向・地域主体型」に徳島県1県、7Dの「努力志向・住民主体型」に千葉県・兵庫県の2県、7Eの「努力志向・住民補完普及型」に青森県1県と、合計8県が該当する。それぞれのタイプ区分け、及び、特徴、現状、課題等については、以下のとおりである。

8.2.7A「努力志向・三者協働型」

7Aの努力志向・三者協働型となる広島県・香川県・宮崎県は、県・市町村・住民それぞれが「備蓄努め」によって備蓄に関わるタイプとなり、努力義務の中で三者協働が求められるため「努力志向・三者協働型」としている。

7Aの現物及び流通備蓄数量をみると、広島県は県内現物備蓄数において27%を県が占め、且つ流通備蓄も県のみ行われており、県による努力がみられる。一方で宮崎県は県内現物備蓄数において市町村が96%を占め、流通備蓄も市町村のみ行われており、市町村による努力がみられる。また香川県は、現物備蓄の1食分あたり人口比率第1期対応食が3.25%であり、流通備蓄も契約のないことから、短期的・長期的双方における食料不安が残る。

市町村の備蓄把握では、3県ともに記載がなく、広島県と宮崎県においては県の現物備蓄数開示もない。

8.2.7B「努力志向・自治体協働型」

7Bの努力志向・自治体協働型となる高知県では、県と市町村が「連携目標」をたて「備蓄努め」によって備蓄へ関わり、住民は「備蓄準備」により備蓄を心掛けるとされるタイプである。

7Bの高知県では、県内現物備蓄数量約263千食(対人口比35.4%)から第1期対応食となった場合の32千食(対人口比4.3%)という、低減率の高さ87.8%が目立つ。また、連携目標を掲げる自治体協働体制のはずが、県は市町村の備蓄状況を掲載しておらず、県も備蓄状況が開示されていない。

8.2.7C「努力志向・地域主体型」

7Cの努力志向・地域主体型となる徳島県は、県が「流通努め」、市町村が「備蓄整備努め」、住民が「備蓄努め」によって、それぞれ備蓄に関わるタイプとなる。徳島県は、地域防災計画上、県の役割を「流通備蓄」に限定し努めることとしている。そのため、現物備蓄に関していえば、市町村と住民にその努めを課すこととなるため、「努力志向・地域主体型」としている。

7Cに属する徳島県の現物備蓄数量をみると、98%を市町村が備蓄しており、地域主体型がみてとれる。1食あたり人口比率では44.6%あるが、第1期対応食換算すると8%であることから第1期は住民の備蓄に期待することとなる。

しかし、問題は、県の備蓄の関わりが「流通備蓄」であるにもかかわらず、県流通備蓄が0であることだ。市町村に140千食ほど流通備蓄契約はあるが、1食分あたり人口比率でみれば18%であり、十分とはいえず、副食も0である。さらに、市町村備蓄の把握も記載はなく、県の現物備蓄量も開示されていない。

8.2.7D「努力志向・住民主体型」

7Dの努力志向・住民主体型となる千葉県・兵庫県において、千葉県では県・市町村・住民のそれぞれに「備蓄努め」を求め、兵庫県では県が「備蓄整備」、市町・住民の2者が「備蓄努め」によって備蓄への関わりを求め、且つ県は市町を、市町は住民を補完するタイプである。

千葉県では備蓄計画が設けられ、また、兵庫県では三者の役割分担が明確化されており [65]、現物備蓄の県と市町村割合(千葉県:県16対市町村84、兵庫県:県10対市町90)や、1食あたり人口比率(千葉県:38.5%、兵庫県:17.8%)は、比較的人口の多い両県としては均整がとれている。市町村を補完する立場の県として、市町村備蓄状況も把握されている。

ひとついえることは、兵庫県の対第1期対応食換算の1食あたり人口比率が3.4%に減少し、また、千葉県と兵庫県双方の流通備蓄に副食がないことに対し不安を残す。

 

8.2.7E「努力志向・住民補完普及型」

7Eの努力志向・住民補完普及型となる青森県は、県・市町村に「備蓄努め」を求め、県は市町村を補完し、市町村は住民を補完するタイプである。また住民へは「災害に対する備え」としての役割を持たせているものの、食料に特化したものではないために「備蓄普及」としている。従って7の努力志向型の中で区別するために「努力志向・住民補完普及型」としている。

7Eの青森県における現物備蓄の69千食は市町村によるものであり、1食あたり人口比率でみた場合5.2%と低く、さらに対第1期対応食換算した場合2%となり深刻さを増す。また、市町村を補完するはずの県において、現物備蓄数量0、流通備蓄契約なし、市町村の現物備蓄把握も記載されていない。

 

9章 役割タイプと公的備蓄の現状からみた都道府県地域防災計画の課題

8章において、地域の食料対策が記載される地域防災計画を、都道府県別に役割タイプへ分類し、備蓄状況と比較し分析してきた。全体をとおしていえることは、分類された1Aから7Eまでの役割タイプに置き換え食料備蓄状況を分析した場合、地域防災計画における役割としての食料計画と現状が必ずしも一致することはなく、特に公助の役割を担い「備蓄(する)」としている自治体が備蓄をしていない、あるいは、対人口比率でみた場合に十分な食料確保がされていない等の自治体が存在し、「地域の食料安全保障における緊急時対応」として不十分である地域が存在するといえる。

ここでいま一度役割タイプと実際とが「一致しない都道府県」を分類すると、以下のとおりとなる。ここでの分析注意として、役割タイプと「一致する・しない」については、公的備蓄のうち現物備蓄における数的根拠によって「役割と一致する備蓄体制を整えているか」を基本とする。

数的根拠となる数量を定めるうえで、食料安全保障上、本来は「33日」を最低ラインとしたいところではあるが、これにはどの都道府県もあてはまらない(第77.2参照)。従って、本稿第5(5.3.1)でみた林春男[『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011189)]による「人口の10%」をあてはめ、実際の備蓄数量をもとにした1食あたり対人口比率で10%以下となる都道府県があてはまることとする [66]

なお、現物備蓄量を数的根拠の基本とするが、自治体によっては流通備蓄に限定する等の体制表現を用いるところもある。その場合は、当該体制が整われているかを数的根拠によって「一致する・しない」に振り分ける。この場合の数量も、林に従い「人口の10%」を基本とする。

さらに、中には「自治体協働型」のような、都道府県と市区町村それぞれが「備蓄(する)」としている役割型の都道府県もある。この場合、地域それぞれの備蓄体制による割当て等があるため、厳密に人口比の備蓄数量によって「一致する・しない」を決めるのは妥当ではない。しかし、数値によって明らかに都道府県職員のための備蓄数量と思われるものもある。従って、役割による「備蓄(する)」が住民のものでないと思われる場合は、その役割と「一致しない」に該当するものとする。

この場合、総務省による「地方公務員数の状況((1)平成2741日現在 都道府県データ数日分)による都道府県職員数の3食分相当数(職員数×3食)に該当する都道府県があてはまることとする [67]

9.1 役割タイプと実際の食料備蓄状況が一致しない都道府県

長野県:1C「三者協働・地域補完型」

長野県は、三者協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数0(なし)である。また、流通備蓄数も0で県による公的備蓄は全くなく、市町村備蓄状況も記載されていない。よって、1Cの三者協働・地域補完型とは言い難い。

愛媛県:1C「三者協働・地域補完型」

愛媛県は、三者協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数約3,400食は愛媛県職員数2,906人の1食分程度(117%)であり、住民補完のためとは思われない。また、流通備蓄数も0であり、1Cの三者協働・地域補完型とは言い難い。

岐阜県:1D「三者協働・住民補完型」

岐阜県は、三者協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数0(なし)である。また、市町村備蓄状況も記載されておらず、1Cの三者協働・地域補完型とは言い難い。

鳥取県:2A「自治体協働型」

鳥取県は、自治体協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数約2,300食は、鳥取県職員数2,906人の1食分程度(105%)であり、住民補完のためとは思われない。また、流通備蓄数も0であり、市町村備蓄状況も記載されていない。よって、2Aの自治体協働型とは言い難い。

岩手県:2C「自治体協働・市町村補完型」

岩手県は、自治体協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数約3,600食は岩手県職員数3,500人の1食分程度(103%)であり、住民補完のためとは思われない。また、流通備蓄数も0であり、地域防災計画上に市町村備蓄状況が記載されていない。よって、2Cの自治体協働・市町村補完型とは言い難い。

佐賀県:2C「自治体協働・市町村補完型」

佐賀県は、自治体協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数約5,400食は佐賀県職員数2,281人の2食分程度(237%)であり、住民補完のためとは思われない。また、流通備蓄数も0であり、地域防災計画上に市町村備蓄状況が記載されておらず、さらに、市町備蓄数を合わせた県内総現物備蓄数量も約64,400食と対人口比で7.7%10%以下である。よって、2Cの自治体協働・市町村補完型とは言い難い。

福岡県:2D「自治体協働・住民補完努力型」

福岡県は、自治体協働型に属し「備蓄(する)」としているにも関わらず、現物備蓄数約18,000食は福岡県職員数5,751人の3食分程度(313%)であり、住民補完のためとは思われない。また、流通備蓄数も0であり、さらに、市町村備蓄数を合わせた県内総現物備蓄数量も約54,800食と対人口比で1.1%10%以下となる。よって、2Dの自治体協働・住民補完努力型とは言い難い。

山口県:5A「市町村主体型」

山口県は、市町村主体型に属し、市町が「備蓄(する)」として公的備蓄の配備を求めているにも関わらず、市町備蓄数を合わせた県内総現物備蓄数量の約62,200食(県は0)は対人口比4.4%10%以下となる。また、市町における流通備蓄数も0であり、5Aの市町村主体型とは言い難い。

長崎県:5A「市町村主体型」

長崎県は、市町村主体型に属し、市町が「備蓄(する)」として公的備蓄の配備を求めているにも関わらず、市町備蓄数を合わせた県内総現物備蓄数量の約22,300食(県は0)は対人口比1.6%10%以下となる。また、市町における流通備蓄数も0であり、5Aの市町村主体型とは言い難い。

 

宮崎県:7A「努力志向・三者協働型」

宮崎県は、努力志向型であるため強制力は弱くなるが、三者それぞれに「備蓄努め」を役割として課すため、県も備蓄に努めなければならない。その割に現物備蓄数約7,500食は宮崎県職員数2,968人の2.5食分程度(253%)であり、備蓄に努めているとはいえない。よって7Aの努力志向・三者協働型とは言い難い。

徳島県:7C「努力志向・地域主体型」

徳島県は、「流通努め」によって市町村を補完することとなる。しかし、県による流通備蓄数は0である。よって、流通備蓄に努めているとはいえない。

青森県:7E「努力志向・住民補完普及型」

青森県は、県・市町村ともに「備蓄努め」によって、県は市町村を「補完」し、市町村は住民を「補完」する。従って、自助を強化させなければならないはずが、住民に対し求める役割は「備蓄普及」にとどまる。また、県・市町村それぞれに「備蓄努め」を求めているはずが、県の現物備蓄数量は0であり、市町村備蓄数を合わせた県内総現物備蓄数量の約68,900食は対人口比5.2%10%以下となる。よって、住民を「補完」しているとは言い難い。

以上、12県が役割タイプと実際の食料備蓄状況とが一致しない。この中で、都道府県の現物・流通備蓄が0、または数量的に職員に対する備蓄と考えられ、且つ市町村における現物を足した都道府県内現物備蓄量合計数が10%以下となり、市町村流通備蓄量も0、または職員に対する備蓄数量と考えられる都道府県、つまり公的備蓄が住民のために考慮されていないであろう都道府県を確認できた。福岡県・長崎県・青森県である。この3県に関し、言い換えれば「放任型」とすることができよう  [68]

繰り返しとなるが、役割を明確にしていればよいというものでなく、第5章でもみたように、突発的災害等によって家庭で備蓄していた食料等が食せなくなる事態も考えられ、その意味で最低保証となる公的備蓄は用意すべきである。この考え方からすれば、住民主体型で県内現物備蓄対人口比が5.8%で、流通備蓄量も県が0、市町村合計で23,400食となる鹿児島県も「放任型」といえる。

9.2 流通備蓄数量の現状による混乱期(第2期)以降の危険性

-巻末2において、流通備蓄の確保数量の現状もみてきた。改めて表3-8にまとめれば、都道府県のうち、流通備蓄がない自治体は32道県で全体の68%となる。また市区町村では11の自治体で流通備蓄が0となっているが、10,000食に満たない自治体が6道県にみられ、実際は17都道府県の市町村が住民に対する備蓄となっていないため、少ないといわざるを得ない。

流通備蓄は表2-1、及び第55.4でもみたとおり、第2期以降に効力を発揮する可能性を秘め、現物備蓄と併用することで地域の食料安全保障に貢献する。0となる都道府県では、流通備蓄という契約上の備蓄形態であることから、明確にその数量をあげることのできない自治体があるかもしれない。

もし仮にそうであったとしても、契約時に流通備蓄によって賄われる概ねの供給数量は把握すべきであるし、供給側にもその予測値は算出できるはずである。名誉のためにも、そして何より、地域住民に対する安心のためにもデータの更新をしていただきたい。

9.3 市区町村備蓄状況把握の重要性

9.3.1 都道府県が把握すべき二つの理由「適切な総合調整」と「備蓄体制の合理化」

8章における、都道府県別役割タイプ分類による備蓄状況比較分析の中で「市区町村の備蓄状況把握」に○のない都道府県(表-巻末2.)が多く存在することも確認してきた。○のある自治体は、都道府県の地域防災計画上で、「市区町村備蓄状況が確認できる自治体」ということであり、72%の「34道府県が確認できない」こととなる。

都道府県が市区町村の備蓄状況を把握すべきであることはすでに述べてきたが、この理由は、「適切な総合調整」を図るため、また、「可視化により公助・自助・共助の備蓄体制が合理化される」ことにある。以下、この理由について説明していく。

9.3.2 都道府県の責務による「適切な総合調整」が必要となる法的根拠

適切な総合調整とは、当該都道府県の地域、並びに当該都道府県の住民の生命、身体、及び財産を、災害から保護するために災害対策基本法において求められた、都道府県の責務による「災害に備えるための措置を適切に組み合わせて一体的に講ずること」(災害対策基本法 第二条の二,三)及び、「災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであっても、できる限り的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分することにより、人の生命及び身体を最も優先して保護すること。」(災害対策基本法 第二条の二,四)に他ならない。

災害対策基本法 第二条の二は、当該基本法の基本理念を示す条項であり、第四条で定められる「都道府県の責務」は、この基本理念にのっとり、地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施し、その区域内の市町村が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、その「総合調整」を行う責務を有している。食料備蓄も含む調達及び供給に関して理念をあてはめれば、この「総合調整」の総合には「災害に備えるための措置を適切に組み合わせて一体的に講ずること」が、調整には「的確に災害の状況を把握し、これに基づき人材、物資その他の必要な資源を適切に配分すること」が該当し、都道府県はその責務の担い手となる。

そして調整の理念には「災害の発生直後その他必要な情報を収集することが困難なときであっても」物資等を適切に配分することを求められる。災害により必要な情報を収集することが困難なときでも適切に配分するためには、その前段階での「備え」が必要となる。この備えが「計画」であり、市区町村に対してもその「備え」を地域防災計画として求められ、「その区域内の市町村が処理する防災に関する事務又は業務の実施」を助ける責務において、統括された防災体制を確立しなければならなくなる。

さらに近年では、想定外な突発的自然災害により被害レベルの段階はあがり、地域の範囲も広域化された。各被害レベルに対応するには、共助による物資の共有化、すなわち、食料の不足する地域と、そうでない近隣地域があるとすれば、その近隣地域からの食料供給を調整し指示できる立場の存在が必要となる。災害により情報収集が困難な場合でも物資等を適切に配分するためには、事前に何が・どこに・どれだけあるのかを把握しておくことが必要であろう。つまり都道府県は、「適切な総合調整」を、責務により、市区町村備蓄状況の把握をしておかなければならないのである。

9.3.3 公助と自助・共助の「備蓄体制合理化」

また、「可視化による公助・自助・共助の備蓄体制合理化」だが、これは、「公助の合理化」と、「自助・共助の合理化」とは区別される。公助による合理化は、先の総合調整としての合理化と、緊急事態に備えた情報共有のための合理化である。

9.3.3.1 公助による「総合調整」としての合理化

公助による合理化のうち、総合調整としての合理化は、災害対策基本法により「地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施し、その区域内の市町村が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助ける」ことが責務として求められる都道府県において、地域の実情に沿って「地域に関わる防災に関する計画」となる地域防災計画を定め、食料の備蓄等を計画していくことになる。

これには、第8章の役割タイプで確認したような、公助・自助・共助を、どのような位置づけで行われるかが防災会議によって検討されたのちに定められる。都道府県と市区町村及び住民が協働する「三者協働型」、または、都道府県と市区町村で協働する「自治体協働型」等、公助と共助含む自助とのバランスによって備蓄される食料やその数量も決定されていく。

このとき、都道府県における食料確保の役割が、市区町村の補完的な立場として、あるいは、広域的住民保護の最低保証の担いとして、食料を備蓄することとなれば、当然に所轄する市区町村の備蓄数量等の情報が必要となろう。なぜなら、補完にあたりどの程度備蓄すべきであるかが検討できない、もしくは、適切な数量による分配が困難となり同じ地域ばかりが多くなるなど、結果的に無駄のでる可能性があるからである。

従って、総合調整としての市区町村備蓄把握は、合理化の視点からも必要となる。

9.3.3.2 公助による「情報共有」のための合理化

また、緊急事態に備えた情報共有のための合理化は、突発的に起こる災害により当該住民を保護しようとするとき、命を最優先しようとするならば、煩わしい手続きよりも実利を求めた方が賢明な場合もある。

食料確保の緊急事態で例えるなら、災害等によって県境にある市町村の一地域が、供給ルート断絶により食料確保が困難になったとしよう。この場合、所轄の市町村、あるいは県で保管されている備蓄食料倉庫よりも、隣県にある備蓄倉庫の方が近く、豊富に食料が保管されているといった情報が得られているとするならば、その要請を隣県の市町村に直接依頼することも緊急事態においては得策となる。

この例では、正規ルートとして所属する県に要請し隣県への依頼をする、あるいは、事前の市町村協定により直接要請するなど、発災からある程度の時間的余裕のあることや、事前の準備は当然にしているものと考えられ手続きを省くことは想定しづらいが、いずれにせよ、「事前に隣接する他県の情報が得られている状況」をつくることが、計画段階でより具体性をもたせ、余計な確認を取らずに済むといった意味での経済性確保、つまり合理的となり、早期の問題解決へと導くこととなる。従って、可視化できる状態であることが望まれる。

9.3.3.3 自助・共助の合理化

自助・共助の合理化とは、公助の状況が可視化できる状態にあるとすれば、住民や地域団体等による自助・共助の備蓄食料等に対し、品目の要否や数量の決定、及び優先順位の検討を可能とし、合理的になるという意味である。

公助となる公的備蓄の存在は、住民に対し安心をもたらす食料安全保障としての効果があるだけでなく、公的備蓄ではカバーしきれない部分を明るみにし、個々の量的・質的な嗜好性・特殊性等に鑑みた、自助・共助による家庭備蓄等の必要性を訴え、さらに、自分の住む地域の公的備蓄と照らし、より充実させねばならない食料品等の選択を可能とする。

自助・共助の合理化は、実際の住民は自分の住む市区町村の備蓄状況を確認することとなるが、公助による合理化が推進される過程において、結果的に市区町村の備蓄体制に影響を与えることとなり、自助・共助の備蓄も推進されることになる。

つまり、「可視化による公助・自助・共助の備蓄体制合理化」は、言い換えれば「公的備蓄の情報共有化による備蓄体制の強化」であり、情報を共有化させることで、合理的に備蓄体制が推進され、確立されていくのである。

9.3.4 市区町村備蓄状況の可視化へ向けた改善への期待

先に説明したが、「市区町村の備蓄把握」欄は、都道府県が市区町村の備蓄状況を実際に把握されているかではなく、あくまで、地域防災計画において、その記載があるかないかによるものである。記載のない道府県の中には、市町村の備蓄状況を当然に把握しているところもあろう。第66.2でも記したように、総務省では「主な備蓄物資の備蓄食料の状況」を市区町村自らが入力でき、都道府県はその情報を入手・確認できるシステムが構築されている。従って、実際は多くの都道府県でこのデータを活用していることであろう。

また、地域防災計画の法的義務となる「地域防災計画を修正したときは、速やかにこれを内閣総理大臣に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。」(災害対策基本法 第四十条三4)という報告義務のある性格上、総合的な修正が整うのを待つために、その開示が遅れることもあるという(某県の地域防災計画担当者による回答)。

しかし、記載のある都道府県の多くでは、地域防災計画の資料編に市区町村備蓄状況を記載している。つまり、別添資料として掲載可能であり、何かの対策はできるはずである。各都道府県においては、市区町村の備蓄状況を可視化させることについて、地域の食料安全保障上必要で、重要な措置であることを理解のうえ改善いただきたい。

9.4 住民に対する家庭備蓄の普及活動

9.4.1 住民防災意識の高まりと家庭備蓄普及の課題

「住民の責務」としての役割は、災害対策基本法においても示されるものであり(本稿6.1.2参照)、災害等に対し住民が自らできる備えとしては、食料の備蓄となる「家庭備蓄」が最も身近で生命にかかわるものとなろう。

8章の役割タイプでみたとおり、地域防災計画では、都道府県によって「備蓄(備蓄する)」といった断定的であったり、「備蓄努め(備蓄に努める)」「備蓄必要(備蓄に努めなければならない)」「備蓄準備(備蓄を心掛ける)」といった努力義務や柔らかな表現を用いたりと、多少の違いがありながらも、住民に対し役割としての表現が用いられている。

しかし、中には「備蓄普及」といった役割ではなく、住民に対する防災意識の普及活動(または啓発・啓蒙活動)、あるいは、日常の減災に向けた取り組みにおける活動の中で住民に対する備蓄意識の醸成を行うにとどまる地域も存在する。この場合、自助・共助を補完する立場を明らかにする自治体、もしくは、公助による備蓄が充実している自治体であれば問題は少ないが、本章9.1に示した「放任型」の自治体である場合は、緊急事態の食料不安を拭うことができない。

各家庭における現状を確認すれば、内閣府における「防災に関する世論調査」[内閣府政府広報室,平成262]の「大地震に備えてとっている対策(複数回答)」では、「食料や飲料水を準備している」と答えた人が、前回調査(平成2112月)33.4%から、今回調査では46.6%と約13%増加している。

また、東日本大震災で被害のあった岩手県では、「県の施策に関する県民意識調査結果報告書」(平成25 年5月)によると、「普段から災害に備え、何らかの準備を行っている」と回答した人42.0%のうち「家族分の食料や水、懐中電灯などの非常持出品を常に確保している」と答えた人の割合は82.2%と、比較的多くの住民が準備をしている結果がみられる[岩手県災害備蓄指針,平成263,P2]

また、首都直下型地震の危険性が訴えられ久しい東京都では「都民の備蓄及び管理・消費の促進について報告書」[備蓄消費に関わる検討会,平成272]における「自宅で備蓄しているもの(いくつでも)」の質問に対し、飲料水を備蓄しているという回答が65.2%で、食糧は49.5%と3番目に多い回答となっている(平成26年度東京都調査) [69]

日本全国的な調査となる内閣府調査との比較によれば、3%ほど東京都民の備蓄意識が高く、約半数となる50%ほどの都民が備蓄をしていることとなる。しかし一方で、「地震への備えに関して知りたいこと(いくつでも)」の中で、「どれくらいの量を備蓄したらよいか」と回答した人は47.1%であり(平成26年度東京都調査)、備蓄意識はある程度高くなってきたものの、量や品目などの具体的な備蓄に関する知識不足や、実際に備蓄をしている家庭は半数弱であるといった不完全性がみえる結果となっている。

あえて付け加えるが、首都直下型地震の危険性について長きにわたり警戒を呼びかけ、本稿第55.3.3でも記した「東京防災」を配布するなど、備蓄に対する準備や呼びかけを行っている「東京都民」がである。

つまり、災害に対する住民意識は高くなっているが、具体的に必要となる物資の品目や数量について不完全であり、公的備蓄の現状を確認する限り、まだまだ家庭備蓄への啓発活動を行わなければならないということである。

9.4.2 青森県・長崎県の備蓄普及活動

8章でみた役割タイプのうち、住民に対し「備蓄普及」となる自治体で、公的備蓄状況が充実していないとみられ、放任型となる青森県 [70]と長崎県 [71]の家庭備蓄普及活動を確認しておく。備蓄普及が充実していれば、計画は合理的判断のもとに成されている可能性があるからだ。

まず青森県では、青森県地域防災計画[地震・津波対策編,平成25年修正]「食料供給」の食料の確保,アにおいて「県及び市町村は、住民が各家庭や職場で、平常時から3日分の食料を備蓄するよう、各種広報媒体や自主防災組織、自治会等を通じて啓発する。」[P151]と示されている。

自主防災組織と自治会について確認することはできないが、各種広報媒体では、青森県民全員に配布される広報誌「県民だよりあおもり」を確認したところ、2015年(2月号(No.149)から12月号(No.154))において、家庭備蓄・非常食・災害食等含め、防災物資関連の記事は掲載されていなかった。

また、「もしもの時に備えよう。」(緊急時ポケットブック,2013改訂版 [青森県, 2013])には、「緊急時情報力強化推進方針」(平成25年,青森県策定)に基づいたICT(Information and Communication Technology)の活用法が掲載されているものの、食料品等の緊急時持ち出し備品については触れていない。筆者が確認できたのは、「青森県防災教育センター」において非常持出品についてのパネル展示をしていることであった。

そして、長崎県では、地域防災計画[基本計画編,平成256月修正]上、個人に特化した食料備蓄に関する普及活動の記述はないものの、「防災知識の普及」[P33]の中で「防災知識の普及は、市町、関係機関、大学等と協力して、次の方法で行うものとする。」とあり(1 ラジオ、テレビ又は新聞、広報誌、インターネットによる普及、(2)広報車の巡回及び映画、スライド等による普及、(3)その他講習会、専門家の派遣等による普及、において活動を行うことが示されている。

よって、防災知識の中に「食料備蓄」も含むと考慮し、これに従い確認可能となる広報誌とインターネットを確認したところ、長崎県広報誌「ながさきたより。」(毎月52万部発行:自治会経由による全戸配布)では、2015年中12回発行される中で「ながさきたより。」第14号(平成276月号)において「正しい知識と情報で、すばやく対応するために」(P7)「非常時の持ち出し品や備蓄品を準備しよう」の記事内にイラスト付きで掲載されている(図3-1参照)。これをみる限り具体的であるとはいえない。図3-1:長崎県の家庭備蓄普及活動
 
資料:「ながさきたより。」第14号(平成27年6月号)P7

また、インターネットでは、長崎県総合防災ポータルサイト内にある「防災安全性チェックリスト〜もしもの時に備えて〜」ページにて「食料品、備蓄品など」の中に「最低限3日分の食料の備蓄はしていますか。(米・缶詰・レトルト食品・調味料、嗜好品など)」と問いかけ方式で記載されている他、非常持ち出し品(最小限の必需品)として紹介されている [長崎県, 2015]

青森県・長崎県において、他にも個々の防災関連講習会や防災関連行事等でその都度家庭備蓄の普及活動は行われているものと思われるが、公的備蓄数量から考慮すれば十分とはいえず、さらに多くの住民に対し啓発活動を行うべきであろう。

なお、本稿において、都道府県が地域防災計画上住民へ求める「備蓄」や「備蓄努め」「備蓄必要「備蓄準備」といった役割に対し、各自治体がどのような普及活動を行っているか、すべての都道府県を調査していない。従って、役割タイプとの関連性や普及度合い等については今後の課題としたい。

9.5 緊急事態食料安全保障指針との関連性

本稿第1部第3章において、地域の食料安全保障には「国」と「地域」の二つの視点による対策を講じなければならず、国の視点において、国家的な食料安全保障の要素を分類すれば、「国内生産」「輸入」「備蓄」「緊急時対応」となり、このうち「輸入」については、地域の食料安全保障から除外されることを論じた。

「国内生産」についても、地域と関連性は深くあるものの、国家的食料安全保障における「緊急事態における国内食料不足時の分配」による生産を考えた場合、地域の食料安全保障から除外されることも論じた。

そして、本稿第2部と第3部において「備蓄」と「緊急時対応」について論じてきた。しかし、国家的食料安全保障における「緊急時対応」との関連性の中で、「緊急事態食料安全保障指針(本編)」と「地域防災計画」との関連性については触れていない。

結論からいえば、各都道府県の地域防災計画の中で、緊急事態食料安全保障指針(本編)の名のもとに、緊急事態の食料対策に特化し関連性を確認できる項目はない。しかし、被災地域において「飼料等確保対策」、農業協同組合等協力による「技術的援助」、生活関連商品の価格・需給状況・買い占め・売り惜しみ等の調査及び対策、社会秩序の維持等、地域に応じた対策があることは確認できる。結果としていえることは、「食料安全保障政策として包括的対策は整われていない」ということである。

青山(2015)の指摘にあるように、国家的食料安全保障対策の実効性を支えるものは、アクターとなる地方自治体や各種団体含めた住民による周知の徹底である。国家的食料安全保障対策となる「緊急事態食料安全保障指針(本編)」と、地域的食料安全保障対策となる「地域防災計画」との間に関連性がないことは、大きな課題のひとつとなろう。

 

3部のまとめ

3-(1) 各都道府県内の対人口による食料現物備蓄数量比率でみると、@最も多いところでも2食分に満たない。A最も低いところは県内人口の約1%である。

3-(2) 大混乱期対応食に換算した場合の対人口比率順をみると、@一番高い静岡県でも0.5食分に満たない47.79%であり、A一番低い福岡県と二番目に低い大分県では1%を割り込み、福岡県0.62%と大分県0.84%なっている。

3-(3) 1食あたりの人口比率が10%以下であった自治体は、佐賀県・鹿児島県・青森県・山口県・長崎県・福岡県の6県(13%)であったのに対し、第1期となる大混乱期対応食による1食あたり人口比率で換算した場合、岐阜県・栃木県・愛媛県・宮崎県・熊本県・徳島県・鳥取県・福島県・新潟県・京都府・島根県・石川県・秋田県・鹿児島県・長野県・佐賀県・高知県・北海道・兵庫県・香川県・岩手県・山形県・青森県・山口県・長崎県・岡山県・大分県・福岡県の28道府県(60%)に増加する。

3-(4)  3-(2)で換算した低減率は、一番差の大きいところで95.56%となり、都道府県の66%にあたる31都道府県が50%を超える結果となった。この低減率に影響を与えるのは「米」であり、第1期対応食には向かない。ただし、米は第2期以降の通電等ライフライン復旧により活躍する可能性をあげる。

3-(5) 都道府県地域防災計画は、大きくは「協働型」「主体型」「努力志向型」の3種の体系から、1.三者協働型、2.自治体協働型、3.地域協働型、4.都道府県主導型、5.市町村主体型、6.住民主体型、7.努力志向型と、7つの役割型に分類できる。

さらに、1から7の役割型には、それぞれの特徴毎にAからEまでの間で小さなタイプへと分類することができ、1.三者協働型はAからDまで、2.自治体協働型はAからEまで、3.地域協働型はAとB、4.都道府県主導型はAのみ、5.市町村主体型はAのみ、6.住民主体型はAとB、7.努力志向型はAからEまでのタイプへと分けることができる。

3-(6) 分類された1Aから7Eまでの役割タイプに置き換え食料備蓄状況を分析した場合、地域防災計画上の表現における役割としての食料計画と現状が必ずしも一致することはなく、12県が役割タイプと実際の食料備蓄状況とが一致しない。

また、公的備蓄が0(なし)、もしくは公的備蓄が住民のために考慮されていないであろう都道府県は、青森県・福岡県・長崎県・鹿児島県であり、この4県は「放任型」とすることができる。

3-(7) 流通備蓄の確保数量について、都道府県のうち流通備蓄がない自治体は32道県で全体の68%となる。また市区町村では11の自治体で流通備蓄が0となり、そのうち10,000食に満たない自治体が6道県にみられるため、少ないことがいえる。

3-(8) 都道府県の地域防災計画上で市区町村備蓄状況が確認できない自治体(表-巻末2.「市区町村の備蓄状況把握」に○のない都道府県)は、34道府県(72)となる。都道府県が市区町村の備蓄状況を把握すべきである理由は、「適切な総合調整」を図るためと「可視化により公助・自助・共助の備蓄体制が合理化される」ためである。

3-(9) 家庭備蓄に関して、政府意識調査や東京都調査で約半数に近い住民が食料備蓄を意識しており増加傾向にあるが、量や品目などの具体的な備蓄に関する知識不足や、食料備蓄実施家庭数について不完全性が指摘できる。また、「備蓄普及」となる都道府県のうち、青森県・長崎県では、普及活動実績はあるものの十分とはいえず、さらに多くの住民に対し効果的な啓発活動を行うべきである。

3-(10) 各都道府県の地域防災計画の中で、緊急事態食料安全保障指針(本編)の名のもとに、緊急事態の食料対策に特化した関連性が確認できる項目はない。しかし、地域に応じた対策があることは確認できる。結果としていえることは、食料安全保障政策として包括的対策は整われていない。

 

おわりに(総評としてのまとめ)

以上、食料安全保障政策を、国家的議論から地域的食料安全保障対策へと分解し、定性的性質であった現行の局地的・短期的食料安全保障対策を、定量的な視点によって「地域の食料安全保障」とすることを試みてきた。

結論としていえることは、(1)備蓄する食料と数量の適正化を図ること、(2)備蓄体制の強化を図ること、(3)そのために「備蓄計画」を取り入れ地域防災計画の改善を図ること、(4)そして何より家庭備蓄の啓発活動の強化を図ること、が必要となることである。

(1)備蓄する食料と数量の適正化を図ることについては、第3部まとめの3-(3)1食あたりの人口比率10%以下であった自治体は6県(13%)だったのに対し、第1期大混乱期対応食では1食あたり人口比率で換算した場合、28道府県(60%)に増加した」ことと、3-(4)「その低減率は一番差の大きいところで95.56%となり、都道府県の66%にあたる31都道府県が50%を超える」結果となったことに尽きる。公的備蓄で最も重要なものは現物備蓄である。これが必要となる第1期に食すことができなければ、備蓄する意味がない。食料の適正化は必要であり、食料安全保障上不可欠となる。

そして、そもそも3-(1)の「各都道府県内の対人口比による現物備蓄比率が最も多いところでも2食分に満たないことと、最も低いところは県内人口の約1%しかない」ことが問題である。これでは「食料の最低保証」とはいえないであろう。

(2)備蓄体制の強化を図ることについては、3-(6)における「分類された1Aから7Eまでの役割タイプで分析した場合、役割と現状が必ずしも一致せず、12県が役割タイプと実際の食料備蓄状況とが一致しない」とされることである。

この分析による評価基準は、実際の備蓄数量をもとにした1食あたり対人口比率で10%以下となる都道府県をあてはめている。つまり、そもそも3日×3食としたいところを1食にしていることを考えれば、すべての都道府県が対象となるということである。役割も含め、どのような分担をしていくか、明確にすべきである。

(3)そのために「備蓄計画」を取り入れ地域防災計画の改善を図ることについては、第55.3.2による「各人」が「コツコツ」と努力するために、計画的・段階的に食料を備蓄するための食料備蓄計画を設定し、「予算化に向けた実質的な議論の場」と、「予算化できない不足現物備蓄を補完するための対案」として、「各人」への役割分担を明確化させ促進させる起爆剤」とさせることである。

この備蓄計画の議論を通し、無理のない公的備蓄の在り方、都道府県及び政府を含めた役割分担の促進、公助の限界提示による家庭備蓄の促進と役割が整理され、これらを可視化させるために地域防災計画を改定していくのである。このとき地域防災計画には情報として、当然に各市区町村の備蓄状況を掲載することが必要である。

そして何より(4)家庭備蓄の啓発活動の強化を図ることについては、すでにふれており改めて述べるまでもなかろう。家庭備蓄は公助の限界を超え、質量や嗜好性を補完し、自治構成員としての自治の役割とした「最後の各人」が自助としてできる、唯一の準備なのである。第3部まとめ3-(9)の状況からして各自治体はさらに促進せねばなるまい。

また、本稿における研究をとおし得た成果もまとめたい。大きくまとめると次の4項目となる。なお、第1部から第3部の各部において得られた結論については、各部それぞれの末尾に記載した「まとめ」を参照していただきたい。

-(1) 緊急事態食料安全保障指針の本編(指針・本編)と局地的・短期的編(指針・局地短期編)との比較分析によって、定量と定性との違いを再認識させたことにある。これによって、地域の食料安全保障対策となる指針・局地短期編の緊急時対応に多く出る「必要に応じて」という受け身的で曖昧な表現を指摘することができ、研究のきっかけとなった。

-(2) 先行研究によって分断され示されていた災害等の被害による期別の適合食料を、過去の災害被害により3段階の被害レベルと、「大混乱期」「混乱期」「復旧期」「安定期」「収束期」の5期に区分し、再整理できたことである。これによって、指針・局地短期編の「必要に応じて」を、より具体的な対策へと整理することができた。

-(3) 地域の食料安全保障政策を定量的とするために必要な現行の食料対策を、地域防災計画に見出し、各都道府県の地域防災計画を比較分析することで、各地域の微妙な違いを発見・分類・体系化することができた。これによって、都道府県それぞれの公助・自助による地域性と特性を発見でき、さらに公助における課題へと導くことができた。

-(4) そして最大の成果は、これらによって地域による食料安全保障政策の重要性と必要性を示し、これまで国家的(マクロ的)議論に偏った食料安全保障を、ミクロ的な「地域の食料安全保障」の議論として一歩を踏み出したことにある。

課題も残された。第3章で触れた地域のコミュニティレベルでの取引については、地域に内在する「潜在的流通備蓄」としての可能性を与える。しかし、潜在的流通備蓄の形態は民間による情報が不可欠となり、その量は膨大となるため調査と研究を今後の課題としたい。また、第3部第99.4.2で示した都道府県が地域防災計画上住民へ求める「備蓄」や「備蓄努め」「備蓄必要「備蓄準備」といった役割に対し、各自治体がどのような普及活動を行っているかについて、すべての地域を確認できていない。よって、この2件は別稿として今後の研究の課題としたい。

最後に本稿の分析結果をとおし改めていいたいことは、最悪の場合に人の生命へとかかわる食料対策は必要であり、その対策も示される「地域防災計画」は、あらゆる想定に対し配備されることが望まれる。地域の食料最低保証の基底となる「地域の食料安全保障政策」では備蓄が最も有効な手段となるが、公的備蓄に限界はあるにせよ自治体で可能な最低保証を明確に定め、そのための「各人の努力」を促し、そのために必要な情報を的確に整備し、改善されることを強く望む。そして、嗜好性の強い「食料」に対し、自助となる「家庭備蓄」の普及にこそ弛まぬ努力を注いでいただきたい。

 

 

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≪参照地域防災計画一覧≫

1,北海道地域防災計画:本編・平成276,北海道防災会議,確認日,201586

2,青森県地域防災計画:地震・津波対策編(平成25年修正),青森県防災会議,確認日,201587

3,岩手県地域防災計画・平成27327日改版,岩手県防災会議,確認日,201589

4,宮城県地域防災計画:地震災害対策計画・平成272,宮城県防災会議,確認日,201589

5,秋田県地域防災計画・平成263月修正,秋田県防災会議,確認日,2015810

6,山形県地域防災計画:震災対策編・平成2611,山形県防災会議,確認日,201575

7,福島県地域防災計画:一般災害対策編・平成272月修正,福島県防災会議,確認日,2015812

8,茨城県地域防災計画:地震災害対策計画編・平成273,茨城県防災会議,確認日,2015812

9,栃木県地域防災計画:震災対策編・平成2610,栃木県防災会議,確認日,2015812

10,群馬県地域防災計画:震災対策編・平成2612,群馬県防災会議,確認日,2015813

11,埼玉県地域防災計画:本編・平成2612,埼玉県防災会議,確認日,2015817

12,千葉県地域防災計画・平成26年度修正,千葉県防災会議,確認日,2015817

13,東京都地域防災計画:震災編・平成26年修正,東京都防災会議,確認日,201585

14,神奈川県地域防災計画:地震災害対策計画・平成244,神奈川県防災会議,確認日,2015820

15,新潟県地域防災計画:震災対策編・平成263月修正,新潟県防災会議,確認日,2015820

16,富山県地域防災計画:地震・津波災害編・平成276月修正,富山県防災会議,確認日,2015821

17,石川県地域防災計画:一般災害対策編・平成26年修正,石川県防災会議,確認日,2015824

18,福井県地域防災計画:震災対策編・平成273月修正,福井県防災会議,確認日,2015824

19,山梨県地域防災計画・平成2610,山梨県防災会議,確認日,2015824

20,長野県地域防災計画:震災対策編・平成26年度第2回修正(平成273),長野県防災会議,確認日,2015828

21,岐阜県地域防災計画:一般対策計画・平成273,岐阜県防災会議,確認日,201591

22,静岡県地域防災計画:共通対策の巻・平成266,静岡県防災会議,確認日,201591

23,愛知県地域防災計画:地震・津波災害対策計画・平成276月修正,愛知県防災会議,確認日,201591

24,三重県地域防災計画:地震津波対策編・平成273月修正,三重県防災会議,確認日,201591

25,滋賀県地域防災計画:震災対策編・平成273月修正,滋賀県防災会議,確認日,20151011

26,京都府地域防災計画:一般計画編・平成266,京都府防災会議,確認日,20151011

27,大阪府地域防災計画:基本対策・平成26年修正,大阪府防災会議,確認日,20151011

28,兵庫県地域防災計画:地震災害対策計画・平成27年修正,兵庫県防災会議,確認日,20151011

29,奈良県地域防災計画:地震編・平成263,奈良県防災会議,確認日,20151012

30,和歌山県地域防災計画:基本計画編・平成26年度修正,和歌山県防災会議,確認日,20151012

31,鳥取県地域防災計画(平成25年度修正)・平成263,鳥取県防災会議,確認日,20151012

32,島根県地域防災計画:震災編・平成263,島根県防災会議,確認日,20151013

33,岡山県地域防災計画:地震・津波災害対策編・平成269,岡山県防災会議,確認日,20151014

34,広島県地域防災計画:基本編・平成275月修正,広島県防災会議,確認日,20151014

35,山口県地域防災計画:本編・平成27年度,山口県防災会議,確認日,20151014

36,徳島県地域防災計画・平成268,徳島県防災会議,確認日,20151015

37,香川県地域防災計画:一般対策編・平成2610,香川県防災会議,確認日,20151016

38,愛媛県地域防災計画:地震災害対策編・平成27年度修正,愛媛県防災会議,確認日,20151016

39,高知県地域防災計画:一般対策編・平成269月修正,高知県防災会議,確認日,20151017

40,福岡県地域防災計画:基本編・風水害対策編・平成26327,福岡県防災会議,確認日,2015831

41,佐賀県地域防災計画・平成27318日修正,佐賀県防災会議,確認日,20151017

42,長崎県地域防災計画:基本計画編・平成256月修正,長崎県防災会議,確認日,2015830

43,熊本県地域防災計画:一般災害対策編・平成27年度修正,熊本県防災会議,確認日,2015830

44,大分県地域防災計画:地震・津波対策編・平成266,大分県防災会議,確認日,2015829

45,宮崎県地域防災計画:第1巻・平成263月修正,宮崎県防災会議,確認日,2015829

46,鹿児島県地域防災計画:一般災害対策編・平成26年度,鹿児島県防災会議,確認日,2015829

47,沖縄県地域防災計画・平成273月修正,沖縄県防災会議,確認日,2015827

≪脚注≫



[] 「食料」とは食べ物全般を指し、「食糧」とは主食となる穀物を指すのが一般概念である。元々「食糧安全保障」として表記されていたが、近年では食の多様化により食料全般に対する考え方として「食料安全保障」が用いられている。

[] 国際食糧会議では「食料供給の量的確保と安定性」が課題となり、1996年に開催された第1回世界食料サミット(World food summit, FAOにより開催)において「世界食料安全保障のためのローマ宣言」が取りまとめられ、「量的確保と安定性」に加え、「栄養・健康・経済的アクセス可能性」も含む食料安全保障定義が確立された。

[] 現在(平成26年度)の日本の食料自給率は、カロリーベースで39%とさらに低い。

[] ソ連はじめアジア諸国の大干ばつは、ソ連の大量買い付けへと発展し、世界人口増加による需要増加も重なり、穀物価格高騰による投機的要因もたらした。しかし、これは食料危機を表面化するきっかけとなったに過ぎず、実際は先進国を中心とする畜産物中心の食生活へと変化した構造的要因によるものが大きい [大島, 1999] [佐伯, 1991]

[] 原本は改正される前の「平成249月一部改正」とされている。

[] 耕地とは農作物の栽培を目的とする土地をいい、田畑にけい畦を含む [農林水産省, 2015c]。農地は農地法における「耕作を目的に供される土地」として、耕地とほぼ同じ意味を含むが、一般に全般を指すときに使われ、本稿でもそのように定義する。

[] 生産力を有する農地には平地と中山間地域等の地域性があり、生産力拡大や山林保持等それぞれにメリットをもつ。食料政策の多次元的性格によって全国均一化された政策は向かず、地域性に考慮した対策、生産拡大型対策、農地保全型対策、さらに経営支援型対策等に分けた複合的な政策が必要となる [青山, 2015]

[] 生産調整の一環で行われる戦略作物(小麦・大豆・畜産飼料)の転作は、適地・不適切地に関わらず全国一律で実施されることとなり、助成金がなくなればまた米に戻すといった懸念や、さらに転作助成金による麦や大豆等の戦略作物生産者が増える一方で、不平等競争にさらされた既存の麦や大豆等の生産者が減少する結果を招くことも指摘される [佐伯,2009:13-14]

[] FBI戦略の「FBI」とは、日本食材の活用推進(Made From Japan)の「From」のF、食文化・食産業の海外展開(Made By Japan)By」のB、農林水産物・食品の輸出(Made In Japan)In」のIをとり「FBI戦略」としている [農林水産省, 2014]

[10] 本稿第11.1により、「安全保障」の一般理解、及び、日本の食料安全保障概念の定義による「国民に対する食料の安定供給確保」への「対策や準備」であることから簡略的にまとめている。

[11] 政府備蓄では米以外に「食糧用小麦の外国産食糧用小麦を需要量の2.3ヶ月分」、「飼料穀物60万t」をそれぞれ目安として備蓄されている [農林水産省, 2015d]

[12] 正確には、TとUで分かれ、Tに緊急事態食料安全保障指針の第1から第7があり、別紙1から10には、別紙1.情報収集項目等、別紙2.備蓄の活用の考え方,手順、別紙3.輸入の確保の考え方,手順、別紙4.緊急増産の実施手順、別紙5.適正な流通の確保のための指示等の手順、別紙6.国民生活安定緊急措置法に基づく価格の規制、別紙7.食料等の割当て・配給の手順、別紙8.物価統制令による価格の統制、別紙9.石油の供給が大幅に制約される場合の対策、別紙10.緊急時の食料安全保障に関する関係府省会合についてが掲載されている。この後、参考資料が掲載され、Uに関連資料として世界・日本の食料安全保障に関連する情報が掲載されている[指針・本編:5-7]

[13] 国民生活安定緊急措置法に基づく指示等には、@売渡し、輸送又は保管に関する指示等(第22条)、A保管に関する指示等、ア.物資の指定(第20条)、イ.保管の指示(第21条)が関係する。

[14] 買占め等防止法[生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律(昭和48年法律第48号)]に基づく指示・命令等には、@物資の指定(第2条)、A売渡しの指示等(第4条)、B価格調査官の配置等(第5条・第7条)が関係する。

[15] 食糧法[主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)]に基づく命令は、@措置の告示(第37条)、A米穀の出荷又は販売の事業を行う者に対する命令(第38条)、B米穀の生産者に対する命令等(第39条)に関係する。

[16] 農林水産省国民保護対策本部は、農林水産省・林野庁・水産庁国民保護計画(平成171028日農林水産大臣決定)に基づき、また農林水産省新型インフルエンザ等対策本部は、農林水産省新型インフルエンザ等対策行動計画(平成2012月5日農林水産省決定)に基づき設置される対策本部である。

[17] 食料確保計画(緊急食料確保計画〔仮称〕)の決定は、国民生活安定緊急措置法第14条に基づき、生産を促進すべき品目が政令で指定され、農林水産省が計画案を作成する。

[18] 地域防災計画については、防災基本計画に基づき、第四十条において都道府県地域防災計画の、第四十二条において市町村地域防災計画の作成、検討、修正をしなければならないことを規定している。

[19] 脚注1と同じ。

[20] 7条にも「食品」の文字はあるが、あくまで個人の備蓄に必要なものとしての食品であるため、地方公共団体との関連性としては省く。

[21] 防災基本計画第2章「防災の基本理念及び施策の概要」P3

[22] 地域のコミュニティレベルでの取引については、地域に内在する「潜在的流通備蓄」としての可能性を与える。しかし、潜在的流通備蓄の形態は、民間による情報が不可欠となり、その量は膨大となるため、今後の課題としたい。

[23] 平成249月決定当初は、より具体的な災害想定等が用いられていたため、あえて引用する。現在は、「大規模な災害、新型インフルエンザ等の感染症、武力攻撃の発生等により、食品産業事業者における生産体制への支障、食料の買いだめによる急激な需要の増加、物資輸送の混乱等が発生した場合、事態等の発生している地域の範囲、食料のサプライチェーンの状況等を総合的に勘案し、局地的・短期的に食料供給に不足が生じるおそれがある場合」として、災害等による影響からの物流機能不全等を総括して掲載している。

[24] 自治体によっては、現物備蓄を公的備蓄・実物備蓄・直接備蓄・常時備蓄・購入備蓄等の名称で用いられるが、ここでは統一して「現物備蓄」とする。

[25] 奥田は原本において、パンデミックではなく「新型インフルエンザ」としている。

[26] 市町・市町村・市区町村と混在するが、基本的に原文を用いるときにはその原文に従い、各都道府県全般について論ずるときは特別区も含まれるため「市区町村」、都道府県の中で特定される都・道・府・県に該当する市・区・町・村がある場合は、その該当する「市・区・町・村」を記述している。

[27] 非常食・治療食・介護食等を専門に扱うホリカフーズ株式会社役員で、新潟大学大学院客員教授でもある別府茂によれば、被災ストレス、避難生活の長期化、生活環境の悪化、健康管理の不徹底、高齢化などの要因が重なり、心身の健康悪化へとつながる被害を「二次災害」としている[別府茂『これからの非常食・災害食に求められるもの(2)』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(20082-3]

[28] 微量栄養素では、抗酸化ビタミン群(ビタミンE・ビタミンC等)、ビタミンABビタミン群、ビタミンD、オメガ-3 脂肪酸、微量元素(鉄・亜鉛等)が免疫力に影響を与える。 [nutri-facts, 2014]

[29] 奥田は、ストレスをやわらげる食べ物を「おいしい食べ物」「毎食ちがう食べ物」「日ごろ食べなれた(あたたかい)食べ物」「落ち着いた雰囲気」「朝、昼、晩という個々人の規則性」としてまとめ、「おいしい食べ物」とは料亭や高級レストランの贅沢な食事を指すのではなく、普段食べている食事、例えば「温かいご飯と味噌汁」を指すことを強調している[『働く人の災害食』(2008258-259),『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(20065-6)]

[30] 地方自治法(昭和22417日法律第67号)第十条2には「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」とある。この義務には本来「納税義務」を意味するが、地方公共団体の役務は当然に歳入の範囲内となり、それ以外は自治の範囲であり、負担の分任となるという考え方に属する。

[31] 奥田和子『働く人の災害食‐神戸からの伝言‐』(2008231-233,266)

[32] 1923年の関東大震災から1995年までの約70年間に、都市型の大災害が少なかったために備蓄食料に対する見直しが成されなかったという指摘もある[別府茂『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011115)]

[33] 別府によれば、第一ステージ「被災時の最も深刻な時期であり、過熱ができず水も入手できない段階」、第二ステージ「お湯の入手が可能な段階」、第三ステージ「被災外からの救援物資なども入手できて簡単な調理ができる段階」と説明している[別府茂『これからの非常食・災害食に求められるもの』,地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2006118)

[34] JAは自治体との災害協定により、避難所として施設や食事提供等の契約を行っており、JAつくば市谷田部はその一つの例である。

[35] 奥田和子『働く人の災害食‐神戸からの伝言‐』(2008215-216

[36] 奥田和子『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201447

[37] 石川伸一『大震災を生き抜くための食事学』(2012140-142

[38] 石川伸一,今泉マユ子『「もしも」に備える食』(201545

[39] 奥田和子『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(200610)では、震災直後の消防署員の食事について、飢えを凌ぐために乾パンは大事な役割をしたことを示す。また近年は改良が加えられ、噛みやすく、食べやすい商品も出ている。

[40] 奥田和子『これからの非常食・災害食に求められるもの』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(20065

[41] 2011年の東日本大震災後、筆者は公益社団法人日本青年会議所,関東地区,東京ブロック協議会の代表として、また、特定非営利活動法人日本ふるさと源基計画の代表として、福島県いわき市の必要物資状況及び避難所生活における必要援助の調査を行っている。その際、いわき市において救援物資受け入れを手掛けた公益社団法人いわき青年会議所理事長(当時)吉田憲一氏、いわき市久之浜地区においてボランティア受け入れを担当された本柳真一氏等による聞き取り調査により明らかとされている。

[42] 奥田和子『災害時における食とその備蓄』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(201456

[43] 三立製菓株式会社,カンパン,100g入り(1410kcal,保存可能期間5),2,851(12缶入り)÷12=238円(税込・手数料別)[三立製菓株式会社. (2015109日確認). 12缶入り 缶入カンパン100g. http://www.sanritsuseika.co.jp/shopping/52010.htm]

[44] 株式会社サンヨー堂,今夜のおかず「ひじきふっくら煮」70g(119kcal/100gあたり) 浦野工業株式会社. (2015109日確認). SUNYO(サンヨー堂)今夜のおかず,ひじきふっくら煮」. http://uranok.com/item61406/

[45] ペットボトル1100円は500mℓ入りを想定している。飲料水は多くのメーカーにより製造され販売され、142円[価格.com. (2015106日確認). 「水・ミネラルウオーター」. http://kakaku.com/drink/water/]から130円(S社某ミネラルウオーター,メーカー小売希望価格,税別)と競争も激しく値幅が広いため、ここでは単純化するために仮の価格として設定している。

[46] 食品廃棄物のうち可食部分を食品ロスいい、平成24年度推計では食品廃棄物2,801万トンのうち食品ロスが642万トンとされる[農林水産省,食品ロスに関する資料,食品ロスの現状(平成24年推計値), http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/index.html]

[47] 奈良県では、ローリングストック法として「備蓄用の特別な食料を確保しておくのではなく、普段食べている食料を古いものから順に使い、食料を循環させる方法」として地域防災計画において説明しており、同様の方式を推奨している[奈良県地域防災計画(地震編:137)]

[48] 奥田は『災害時における食と福祉』(2011142-182)において備蓄に関する自治体の備蓄状況と取り組みを、現物備蓄、流通備蓄、現物と流通の併用の3種に分類し分析している。

[49] 修正回数は延べ回数で示されている。

[50] 地域防災計画は、基本編や、震災編、津波編、風水害編、事故対策編、原子力災害編等、いくつかの対策編によって編集・構成され、各地域によりその編成は異なる。よって、基本的の内、食料対策が示されているものを参考文献とし、「基本参考地域防災計画」としている。

[51] 各都道府県・市区町村において、粉ミルクや離乳食の備蓄を多く確認できるが、本稿では主食料へスポットをあてるため、乳幼児食については触れないこととする。

[52] 各都道府県・市区町村の主な現物備蓄食料品目は、乾パン・クラッカー・レトルト粥・主食缶詰であり、これら11品を「1食」と数えていること、また、米の現物備蓄においては、筆者による計算で150g(約1合≒約500kcal)を1食分に換算(アルファ米は別につき表-巻末17参照)しているため、1食およそ500kcalとなり、3食換算すれば2,000kcalに満たないことが推測される。

[53] 平成25年地方公務員給与実態調査(市町村職員関係分),職員数の状況平成25年より一般行政のうち福祉関係を除く一般管理職員数。

[54] 脚注49に同じ。

[55] 内閣府政策統括官(防災担当)による「「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」について(通知)」(府政防第313号,消防災第195号,平成22年4月23日)では、「各地方公共団体において大規模な地震発生時にあっても業務が適切に継続できる体制をあらかじめ整えておくことが重要」として、業務継続計画の策定を促している。

[56] 玄米は精米換算(精米換算率90)した後、150g(約1合≒約500kcal)を1食分に換算(端数は四捨五入)、アルファ化米は100g(できあがり260g366kcal)1食に変換(端数は四捨五入)[尾西食品株式会社,アルファ米・白米]

[57] 「都道府県・市区町村の現物備蓄分析」は、表-巻末1.「都道府県地域防災計画分析シート」(3)から(5)と同一のものである。

[58] 流通備蓄数に関しては「地方防災行政の現況」(平成271月)からその数値を引用している。各自治体の地域防災計画には、流通備蓄に関わる食料提供契約団体等の名称・所在地・品目・契約書コピー等を掲載する自治体は多いが、実際に食数で表されるものが少ない。よって、公平性を期すため、各自治体が実際に申告することとなる数値を用いることとした。

[59] 秋田県では3日間の備蓄数量を、公助7/10、自助・共助3/10とし、公助のうち県と市町村はそれぞれ1/2を役割分担し備蓄準備するとしている。島根県では、県、市町村・県民全体で、被害想定に基づく短期的避難所生活者等(37,200人)及び災害救助従事者(4,200人)の3日分に相当する量を目標に食料及び給食用資機材を、県・市町村・県民がそれぞれ1日ずつ分担し備蓄することを目標に整備するとしている。大分県では、発災から3日目までの必要量の2/3を公助、1/3を自助・共助にて備蓄し、公助は、流通備蓄、現物備蓄をそれぞれの内1/2ずつ確保する。現物備蓄の県と市町村の割合は1/2を目安とするとしている。

[60] 岩手県の三者役割は、東日本大震災における避難者数のピーク人数より備蓄必要総定数を55,000人とし、「平成 25 年県の施策に関する県民意識調査結果報告書」(平成 25 年5月、岩手県)の調査結果に基づき県民が備蓄する数量(人数)を18,988人と推定したうえで、市町村が備蓄する備蓄数量309,898食を33日分相当の34,433人と換算し、その不足分となる、約1,600人分の3食×3日×2(主食、栄養補助食品)=28,800食を目標備蓄量として算出している[岩手県災害備蓄指針,平成263月,岩手県]

[61] 福岡県備蓄基本計画(平成263月,福岡県)では、最大想定避難者数を46,566 人(警固断層南東部中央下部震源の地震,『地震に関する防災アセスメント調査報告書』(平成24 年3月、福岡県)参考)として「食糧等は想定される最大避難者数の1日分の3分の1を現物で備蓄する。」としており、県民は3日分の(家庭)備蓄、市町村は1日分の現物備蓄と1日分の流通備蓄または他県支援の計2日分、県は1/3の現物備蓄と1日分の流通備蓄または他県支援を「自助・公助による備蓄目標量」としている。

[62] 石川県では、備蓄目標数を非常食90万食・飲料水30万ℓと定め、県:10万食・5万ℓ、市町:40万食・13万ℓ、県内企業:10万食・2万ℓ、県民:30万食・10万ℓをそれぞれの目標としている。

[63] 富山県,危機管理課、及び、石川県,危機管理監室危機対策課への筆者による聞取り調査[2015.12.28

[64] 鹿児島県,危機管理局防災課への筆者による聞取り調査[2015.12.28

[65] 兵庫県の三者役割は、「県民:13日分の現物、市町:被災者2日分相当(1日分:現物、1日分:現物又は流通)県:1日分の現物又は流通の区分に従って備蓄をする」としている。

[66] [『災害時における食と福祉』,新潟大学地域連携フードサイエンスセンター〔編〕(2011189)]による「人口の10%」は、本来「人口の10%11食で3食(3日分)」という考え方であるが、実際の都道府県備蓄量はこの数値にも満たない。よって「暫定的」に「人口の10%」を採用している。

[67] 都道府県職員数は総務省「地方公務員の状況」(平成2741日現在都道府県データ) [総務省, 2015]より、福祉関係(民生、衛生)を除く一般行政(議会、総務・企画、税務、労働、農林水産、商工、土木)職員数を適用する。

[68] 福岡県については、市町村備蓄状況も把握しており、脚注57にもあるとおり、福岡県備蓄基本計画によって数的根拠をもったうえで3者役割を明確としている。しかし、最大想定避難者数46,566 人と、人口比0.9%1%に満たない想定人数であり、すべての有事を想定しているかには疑問をもつ。よって、該当することとする。

[69] 調査原文において「食糧」としているため、そのまま引用する。

[70] 青森県地域防災計画[地震・津波対策編,平成25年修正]では、「住民の責任」として「自身の安全は自らが守る自覚」「平常時より災害に対する備えの心がけ」「災害時に自身の安全を守る行動」「それぞれの立場で防災に寄与する努力」[P3]が明記されているが、食料に関する役割としての明確な記述がない。一方「県・市町村」には、「防災教育及び防災思想の普及」において各家庭における「3日分の食料・水等の準備」[P57]と、「食料供給」において「県及び市町村は、住民が各家庭や職場で、平常時から3日分の食料を備蓄するよう、各種広報媒体や自主防災組織、自治会等を通じて啓発する。」[P151]とされるため、むしろ公的な普及活動の重要性が表現されているため「備蓄普及」としている。

[71] 長崎県地域防災計画[基本計画編,平成256月修正]では、住民に対する明確な役割がない。一部「自主防災組織の役割」[P40]において、「「自らの地域は皆で守る」ためには、地域において住民が広く自主防災組織をつくり、平常時の活動の中から災害発生の際の有効適切な活動が行われるようにしておくことが重要」として、「市町にあっては、自主防災組織の組織化に積極的に取り組むとともに、既存の組織にあっては、県や市町と協力して防災活動を行うものとする。」とした組織活動の「平常から実施する事項」の中に「G 飲料水、食料等の備蓄」の記述がある。よって、市町と組織による家庭への備蓄推進活動と捉え「備蓄普及」としている。